「二宮尊徳」に学ぶ経営術

中小企業診断士 気象予報士 中峰 博史

景気の低迷、政治の混乱、そして企業の不祥事など、企業を取り巻く環境は不透明で不安な状況が長く続いています。そのような事業環境の中、資源の少ない中小企業の経営は困難さを増すばかりです。今回は、困難な時代を乗り切る知恵として、「二宮尊徳」の改革をご紹介しましょう。尊徳といえば、「国家主義」のレッテルを貼られ戦後忘れ去られている面もありますが、実際は、民主主義の時代を先駆けした農政実践者で、その改革(仕法)には、経営者が学ぶべき点が多くあります。
尊徳は、早くに両親を亡くし伯父の家で働きながら自身で勉強を続けました。その中で、わずかな空き地や沼地を開墾し資産を蓄え家の再興に成功します。その後、学問で得た知識と実際の経験を活かし、武家の財政立て直し、田原藩領地や天領の農村立て直し(仕法)を苦労の中行いました。昨年の震災で大きな被害を受けた福島県相馬市で行った相馬仕法も、尊徳の晩年の事業として有名です。内容は相馬市のホームページで紹介されていますので是非ご覧になってください。
尊徳の仕法は、概ね次のようなものです。
1、依頼があってもすぐに引き受けない。何度も断り、依頼主が本当にやる気があるかどうかを見極める
2、現地に自身で赴き、田畑や住民の状況など基礎調査を念入りに行う
3、調査の結果を踏まえ、収入を見積もりそれに見合った支出の予算を作り、実行の期限、目標を定める(綿密な事業計画)。また、依頼主に(危機的な)財政状況を理解させ、尊徳に一任させる。定期的に事業の見直しを行う
4、農民への金銭や税免除などの援助は行わず、自力で立ち直らせることを心がける。働けない人は、働けるよう援助する(困窮者の支援)
5、途中で諦めない。問題が発生した時は誠意を持って対応する
6、開墾を奨励する。橋の普請、堤・用水路の修復などを積極的に行う
7、報償を行う。特に、目立たない功労者に厚い報償を行う
8、仕法の始めの間は、得た収入を貯蓄よりも事業へ活用する
現場を知り、計画を立て諦めず実行する。これは現代の経営に求められているものではないでしょうか。また、破綻した農村では、農民がやる気をなくしているのが普通ですが、統治能力のない役人と時には対立しながら、環境を整え成功事例を作り、農民のやる気を引き出し立て直しを行っていきます。その間、尊徳は幾度の困難に遭いますが粘り強く仕法を続けた逸話は「報徳記」などに多く残っています。対応に苦慮し人前から姿を消したこともあったようです。遠方の寺で断食をして農民を導ける誠意を授かれるよう祈念していたのです。結果、農民の信頼を得、事業を続けることができたのですが、悩み苦しんでも逃げ出すことはしなかったのが印象的です。

尊徳の名言は多く伝えられています。その中でも、「遠きをはかる者は富み、近くをはかる者は貧す」「キュウリを植えればキュウリとは別のものが収穫できると思うな」は、現代経営者の心得として、胸に刻む必要があるように思います。目先の損得に目がくらみ方向を見失った日本、もう一度原点に返れと尊徳は言っているように思います。

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