消費税増税法案審議の行方と消費税の在り方

 

松井利夫

消費税増税法案は、この原稿を書いている6月20日現在、民主、自民、公明三党による社会保障と税の一体改革の修正協議が合意したものの、21日の会期末までに衆議院で採決をするかどうかまだ決まらない状況である。7月号のサポート短信が発行される時点で消費税増税法案の審議の結果が明らかになっているものと思うので、その結果は新聞TV等で知っていただくこととして、今回は、消費税導入の理由と問題点を見てみよう。

1.消費税制度導入の理由
税の再分配機能の観点から、所得課税(法人税を含む)には所得の再分配機能、消費課税には消費力の再分配機能、資産課税には資産の再分配機能があるとされているが、年金や生活保護等の社会保障制度は、消費力を再分配しているため、再分配機能の視点からは消費税が合致していると考えられている。日本は将来予想される少子高齢化にともない社会保障支出が高まることが予想されることから、シャウプ勧告以後から続いた所得税などの直接税中心の制度から、消費税のような年金生活高齢者や貯蓄生活者層などを含む幅広い各層からも広く薄く徴収することのできる間接税とのバランスが取れる税体系に変えるべきだという議論があったことなどの理由で消費税が導入された。

2.消費税の問題点
(1)財政破綻回避を理由とする消費税増税
2010年度の日本国政府の歳入は、税収(37兆3960億円)より国債発行(44兆3030億円)による収入の方が多い。しかも、累積した赤字国債額は、対GDP比で世界最大である。日本の財政危機が、ギリシャ危機などと同一視されないのは、日本国債は自国通貨建てであることと、経常収支黒字国であって日本国債を買い支えてきたのは主に日本国民であり日本国債の92%は日本国内で保有されているという安定感があるからである。しかし、この状態が続けば財政破綻が起きるのは明らかであるが、だからといって、消費税を増税すれば1997年に消費税を3%から5%に上げた時に税収が大幅に減った事実があり、今回も内需が激減して、逆に税収が落ち込むという懸念があることもあり得るという心配がある。
(2)消費税の逆累進性
消費税は所得の少ない人ほど不利な税制(逆累進的税制)だという指摘がある。実際、利潤、利子、配当などの資本所得を得られる金融投資には消費税はかからないため、こうしたものに投資する余裕がある人ほど有利な税制となる。このため、課税最低限以下の低所得者に現金を給付仕組みが欧米などで広く実施されている。所得税は「累進課税制度」になっているので低所得者への負担をある程度軽減しているが消費税には累進制がないため、このまま実施されれば低所得者層にとって死活問題になる。
(3)生活必需品への課税軽減
贅沢品か生活必需品かによって税率を変える多段階方式の消費税を導入することで低所得者層の負担に配慮している国も多い。ただし、こうした税制はどこから贅沢品とみなし、どこから生活必需品とみなすかで議論が紛糾するという問題や、記帳申告実務に多大の労力を要するという問題がある。民主党は「給付付き税額控除」の導入を検討しているようであるが、財源不足により給付は困難である見通しが強い。消費税の増税は、日本経済にとっても、また、国民生活にとっても重要な問題であるので
引き続き消費税増税の行方を注意深く見守って行きたいと思う。

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