サッカー・W杯とグローバル人材

中小企業診断士 東 新

  1ヶ月に亘る熱い戦いを繰り広げた第20回サッカーW杯ブラジル大会が7月14日に閉幕した。優勝はドイツで、前回優勝国で下馬評一番のスペインはなんと1次リーグで敗退と言う結果であり、地元ブラジルは準決勝でドイツに1対7と言う歴史的な大敗を喫してしまった。我が日本チームは1次リーグで1勝も出来ずに敗退(1分け2敗)し、アジア代表の4チーム全てが1勝も出来ず決勝トーナメントに進めないと言う結果で、他地域との力の差をまざまざと見せつけられた大会であった。また、強豪のイタリー、イングランドも1次リーグで敗退と言う番狂わせもあり、“何が起こってもおかしくないW杯”を改めて感じさせるものであったが、こんなスリリングな最高レベルの試合を企業経営に置き換えて見ていた方も多かったのではないだろうか。

競争に勝つ為にはどうすべきか、選手の立場として、監督の立場として、組織のあり方としていろいろな視点で参考になるシーンが多くあったと思う。私は高校時代にラグビーをやっていたのでサッカーは詳しくはないが、今回の大会を選手の育成や活用と言う視点で振り返ってみた。日本チームの力は大会前の報道や選手の意気込みと違い、初戦を見ただけで世界との差が歴然としていたことに気がついた人は多かったと思うが、更に決勝トーナメントに進んだチームと日本を比較すると、ため息さえ出るほどに差が大きいことも明らかであった。

世界の競合と伍して戦うには、選手個々の体力、技術、精神力が優れていなければならない。更に選手を纏める監督はチーム(組織)としての戦略・戦術を明確に共有させる手腕が必要であるが、メンバーや戦う相手によってそれを変える判断力も求められる。選手個々は如何に自分のベストを出せる状態を作り上げて試合で発揮するか日頃の鍛錬と研鑽が必要であり、監督はチームとして機能する戦術を指示して選手に表現させる為に、選手個々の力量やチームとしての癖を理解していなければならない。今回の日本チームを見るとまだまだ選手個々の力量が世界レベルではないことは明らかであったし、戦術を切替えて本来のリズムを取り戻させるチームマネージメントも出来ていないと感じたのは私だけではないと思うが、ベスト4に残った国の監督が皆外国人ではなかったことと関係している様な気もする。そして日本のスタイルも未だ確立できていなかった。外国から取り入れたスポーツで日本のスタイルを確立しているのは、“ベース・ボール”と比較される“野球”位だと思うが、そこに至るのにはまだまだ試行錯誤があって時間がかかるであろう。

これを企業経営に置き換えても同じことが言えるのではないだろうか。社員一人一人がその能力を出し切って、組織を機能させることが競合に打勝つことと言えるのであるが、環境は刻々と変化するのでそれに機敏に対応出来る個々の多様性と、組織としての方針や戦術を適宜転換出来る機動力が必要となる。そのためには「己を知って敵を知る」ことが大切で、社員の能力、製品や技術の優劣、資金力、情報収集力がどれ程あるかを理解しているかどうかであろう。それ等は“SWOT分析”[i] で把握することが出来る。とは言っても、それをどう活かして利益を生むのかと言う“ビジネスモデル”[ii] が構築されていないと結果は出ないので、事業目的(何を誰にどう売るのか)を明確にして、時々刻々変化する市場環境(ニーズ)にタイムリーに対応することが必要である。また、社員個々の力をつけるための人材育成のシステムも必要であるが、優勝したドイツの監督は就任以来の努力が10年目に実ったと言っている様に一朝一夕で出来るものではない。

今日、日本経済は少子高齢化による生産年齢人口の減少による国内消費の縮小、そしてグローバル化の進展により日本経済の縮小現象に直面しており、需要の取り込みを海外に求めざるを得ない状況になってきている。その様な経済環境の変化の中で中小企業においても販路を海外に求める動きが目立ってきているが、最近は以前多かった製造業だけではなく、小売・サービス・飲食業の海外進出が目立ってきている。この様に現地を販売ターゲットとして進出する企業が増えている中で、主要な経営課題の中に「海外展開を主導する人材の確保」が挙げられている。そして、それに失敗したが故に撤退したケースも出てきており、グローバル人材[iii] の必要性が高まっていると言うことである。人材は“人財”とも言われる様に、どの組織でも大切なのである。

では、グローバル人材とはどの様な人材を言うのか、いろいろな説があるが、私はそのモデルとして世界に通用するスポーツ選手を挙げたい。例えば、スキー複合の萩原賢治、野球のイチロー、テニスのクルム伊達などが思い当たる。そこに共通しているのは、自己を高める努力の他に、どんな環境にも対応出来る精神力、したたかさと言ったものを備えているように私は思える。選手としては、体力や技術が高くなければならないことは言うまでもないが、責任感をもつこと、自分に厳しいこと、積極性があること、献身的なサービス精神、その競技が好きでありルールを含めて良く知っていること、全体の中で自分の役割を理解していること、2つ先3つ先を考えて行動できること、誰かがやってくれるだろうと言う考えを持たないこと、仲間とコミュニケーションが取れること、どんな相手でも気後れしないこと、自信を持つこと、等が求められるのではないか。そしてそれは、ビジネスの世界でも同様で、特にグローバル人材としての必要条件だと私は思っている。

日本チームがコロンビアに負けて予選敗退が決まった後でも、「日本選手の技術は世界レベルで、チームは確実に力をつけてきている」と言う言葉を何度か聞いたが、そこに今回の敗因の根源があったと私には思えて仕方が無い。世界のサッカーも同時に進歩しているのであって、特にチーム(組織)としての差は全く縮まっていないことを認識しなければいけないのではないか。一時は世界をリードしていた、造船、鉄鋼、家電製品、半導体などの産業が、新興国等に逆転された様に、技術だけではダメだと言う事を今一度思い返して、イノベーションを続けその環境にあった対応をしていくことが大切だと言うことを今回のW杯は改めて教えてくれたような気がする。

さて、来年はラグビーW杯がイングランドで開催され、日本がアジア代表として出場する。現在世界ランキング10位の日本は、今のところテストマッチ10連勝をしているが、本番ではどの様な戦いを見せてくれるだろうか。東京オリンピックを控えた2019年には日本でラグビーW杯が開催される。いずれにしても持てる力を全て出し切って“ノーサイド”を迎えて欲しい。

ガンバレニッポン!!“中小企業診断士”は世界で戦える企業作りを応援しています。

(2014年7月17日)

[i] 組織の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の四つの要因を分析して、経営資源を最適活用して経営戦略を策定する一つの方法で、「SWOT分析」と呼ばれる。

[ii] 「ビジネスモデル」とは、利益を生み出す製品やサービスに関する収益構造や事業戦略のこと。

[iii] グローバル人材育成推進会議(首相官邸)の中間まとめによれば、「グローバル人材」の概念は次の三つの要素に整理されている。要素Ⅰ 語学力・コミュニケーション能力、要素Ⅱ 主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感、要素Ⅲ 異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティ。

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