ソーシャルビジネスを考える

中小企業診断士 東  新

多様化し増える日本の社会的課題

少子高齢化、グローバル化の進展により日本経済は停滞しており、多くの中小企業の経営環境は厳し状況にあります。一方で、育児、介護、環境、貧困、地域活性化など、社会的課題は多様化し増える傾向にあり、従来その解決の役割を担ってきた行政機関は財政難や人材不足から、民間に解決の力を求めるようになってきました。所謂、小さな政府化による“公助”から“共助・自助”への変化がおきているのです。これ等社会的課題の解決にはNPOなどを中心としたソーシャルビジネスに取組む組織・団体が取組んでいますが、その維持・継続性において多くの課題を抱えている実情があります。

そこで、既存の企業がビジネスで培った経験、技術力、ノウハウ、ネットワーク等の経営資源を活かして社会的課題の解決に取組むことが出来れば、事業の継続と社会的課題の両方の解決に繫がり、ひいては新たな需要や雇用の創出が生れ地域経済の活性化が期待出来るなど、その意義はきわめて大きいと言えます。然しながら、既存の企業がソーシャルビジネスに取組む為には、経営者の意識変革、経営資源の活かし方、採算の取れるビジネスモデルの確立など、クリアしなければならない課題は少なくありません。

日本に古くから見られる社会貢献の精神

日本には地域や社会の為の事業と言う考え方が古くから見られます。よく知られているのは近江商人の「三方(売り手・買い手・世間)良し」の経営理念であり、伊藤忠の初代伊藤忠兵衛やサントリーの創業者鳥井信治郎の「利益三分主義」、松下幸之助の「企業の利益は社会への貢献の結果」があります。これらは近年欧米より持ち込まれた社会貢献活動を表す「フィランソロピー」に近いものと言えます。一方、最近盛んに言われている「企業の社会的責任(CSR)」は、企業を取巻く利害関係者に対する説明責任を果すことが基になっており、営利事業を営む中でどれだけ社会貢献をしたかを指標化(SROI:社会的投資利益率 )するなど、日本の古くから見られる社会貢献やフィランソロピーとは異なる考え方と言えます。それでも最近のCSRは、環境や貧困、地域社会の課題解決に取組む例も増えてきて、日本の古くからある商工業の経営に見られた考え方に近づいて来たと言えるかも知れません。それだけ国民の意識が変わってきたと言えます。

では、ここでとりあげる“ソーシャルビジネス”とはどう違うのでしょうか、先ずソーシャルビジネスが営利を目的とする一般企業と異なるところは、事業の目的が「利益の追求」よりも「社会的課題の解決」に重点を置いていることであり、一方で、ボランティア活動と異なるところは、活動資金を寄付や行政から得るよりもビジネスの手法を用いて自ら稼ぎ出すことに重点を置いていることであります。また、ソーシャルビジネスは「社会性」「事業性」「革新性」の三つの要件を満たす組織であると言う特徴があります。

ソーシャルビジネスの現状と課題

さて、ソーシャルビジネスの現状について、その対象分野を見ると「地域活性化・まちづくり」、「保健・医療・福祉」、「教育・人材育成」、「環境(保護・保全)」、「産業振興」、「子育て支援」、「障害者・高齢者等の自立支援」など多種多様になっていますが、ソーシャルビジネスの組織形態は、2008年の経済産業省の調査によると「NPO法人」(46.7%)、「株式会社等営利法人」(20.5%)、「個人事業主」(10.6%)とNPO法人が主な担い手となっています。収入及び従業員数については、1組織当たりの年間収入は「1,000万円未満」が25.6%、「1,000~5,000万円」が26.4%で5,000万円未満が過半数を占め、従業員数は常勤ベースで「4人以下」の組織が過半数となっており小規模な組織が多く、収支状況は「黒字」25.3%、「収支トントン」38.1%、「赤字」27.5%と、経営状況がギリギリの組織が多く見られる状況です。NPO法人が抱える課題としては、「人材の確保や教育」、「収入源の多様化」、「事業規模の拡充」、「外部の人脈・ネットワークの拡大」、「法人の事業運営力の向上」、「一般向けの広報の拡充」、「関係者への活動結果の報告」、などが挙げられております。

近年の行政コストの増大でサービスが削減される中で、またNPO等ソーシャルビジネスに取組む事業者の経営資源が脆弱である状況から、今後増え続けるであろう社会的課題を解決していくためには、より多くの民間企業が、特に地域に根付いた中小規模事業者が、独自にソーシャルビジネスに取組むことや、地域のソーシャルビジネス事業者と連携することが求められる状況となっています。

 小規模事業者が社会的課題に取組むために

では、既存の営利企業がソーシャルビジネスに取組むために何をすれば良いか、どんな点に留意しなければならないかを考えてみましょう。先ず、営利事業者がソーシャルビジネスを事業の一つとして取組むために必要なことは、

  • 経営者がソーシャルビジネスについて理解をすること
  • ソーシャルビジネスに取組む経営資源があること
  • 提供しようとする商品やサービスが、地域・当事者のニーズに合うこととある程度の市場規模があること
  • 競合品・サービスとの差別化が図られていること
  • 利用者とコミュニケーションが取れること
  • 独自の(コストダウンに繫がる)ビジネスモデルを構築すること

などが考えられます。大事なことは、①ソーシャルビジネスを理解して②自社の経営資源を利用した③独自のビジネスモデルを構築することの3つと言えましょう。

とは言え、実際ソーシャルビジネスを事業として即座に取組もうとする事業者は決して多いとは思えませんので、先ずは自社の従業員の健康・福祉面での環境を改善することから始めるべきと思います。具体的には、出産・育児・介護休暇の取得率を上げること、残業を減らしたり有給休暇の取得率を上げたりなどの環境を整えることだと思います。

CSRはソーシャルビジネスの取っ掛かり

最後に、最近聞いたある経営者のCSRに対する考え方がとても印象的であったので紹介します。それは「私達にとっての社会貢献活動(CSR)とは」で、以下の様な定義づけをしていることです。

  • 社会貢献は企業の使命であり存在意義
  • 全ての取組みを「社会に貢献できているか?」と言う視点で考えている
  • スタッフ全員に働く意味を再確認させレベルアップを図れる機会
  • 社会貢献(CSR)はサービスのイノベーションの源泉

これは、一般企業の経営においても、企業のあり方として取り入れていかなければならない大切な考え方でありますが、CSRを推進する中でソーシャルビジネスに取組む道が見えてくるのではないでしょうか。

住みよい社会をつくるためには、国民一人ひとりが社会的課題解決に向き合う『一億ソーシャル社会』を実現しなければならない時代になってきたと言えます。

関連記事

Change Language

Archives

  • 2017 (39)
  • 2016 (41)
  • 2015 (30)
  • 2014 (24)
  • 2013 (25)
  • 2012 (18)
  • 2011 (12)
  • 2010 (12)
  • 2009 (4)
ページ上部へ戻る