そうだったのか! アリの行列から見たSCM

中小企業診断士 1級販売士
米国サプライマネジメントプロフェッショナルCPSM
丹野 幸敏

あなたの専門は? SCMってなに?

「専門はなんですか? 生産管理ですか? 物流ですか? 現場改善ですか?」
経営コンサルタントという仕事柄、よく尋ねられる質問である。「私の専門はサプライチェーンマネジメント(SCM、供給連鎖管理)です。ビジネスに関わる全ての流れ(人、モノ、サービス、金、情報など)をスムーズにして売上を伸ばし、コストを下げ、儲けを増やします。各現場の改善はもちろん、時には営業部門、時には間接部門の業務改善も行います」と答える。言葉に出さないまでも大抵の場合、相手は「そんなバカな! そんなに何でも出来るわけが無い」と呆れ顔をされることが常である。

中小企業診断協会のある幹部と話していると、「それはビジネスのマッサージ師ですね。ビジネスの滞り、つまり、血行不良やコリをもみほぐし、ビジネスを健全化する専門家ですね」と言われた。一瞬、言い得て妙と納得はしたものの、何かもっと良いキャッチフレーズは無いものか。SCMを簡潔に分かり易く説明して、一部の大企業だけでなく、欧米の様に広く日本の産業(ものづくり、サービス業、流通・小売業)に活かすことはできないかと思いを巡らせているところである。

いろいろな本が出ているけれど!

SCMに関連する書籍は多数あるが、何と言ってもザ・ゴール(エフィヤフ・ゴールドラット著)が有名である。難しい理論を小説仕立てに分かり易く説明した良書である。読まれた方も多いかと思う。一般書では、TOC理論(Theory of Constrains:制約理論)やスループットを解説している。

TOCの核である生産性向上の方法は、滞っている工程、すなわちボトルネックを見つけて、それを徹底的に活用することから始まる。ボトルネック以外の工程は無理に稼働を上げる必要は無い。ボトルネック工程に同調するよう互いに連携させると言うものだ。

スループットとは儲けのスピードを表す指標で、売上から外部に支払う仕入などの変動費を引いた利益を指す。SCMの優先課題はこれを如何に最大化するかにある。その際、個別最適よりも全体最適の視点で、スループットを改善することがうたわれる。工場だけが必死に製品を作っても、お客様へ配送するトラックが足りなければ、在庫が増えるばかりで売上につながらないと言うわけだ。

そろそろ読者も眠くなってきた頃であろろうか。やはりややこしい事はいなめない。詳しい解説は専門書に譲ることとして先を急ぐ。この節は次への橋渡し程度に思って軽く読み飛ばして欲しい。

アリの行列から学べ 成田の入国審査、待ち時間半減

資料作りのためにネット検索しているとある記事注)に目が留まった。渋滞研究の第一人者東京大学の西成活裕教授がアリの行動習性をまねて実施した改善ケースを紹介した記事だ。

大きな餌を運ぶために大量のアリが移動しても、行列で渋滞することはない。「アリは地面に付けるフェロモンを使って、伝言ゲームのように情報伝達している。横のつながりが緊密なボトムアップ型の働き方だから、状況に応じて柔軟に対応できる」とみている。

アリをまねた事例の1つが、成田空港の入国審査の改善だった。入国する外国人が急増しても、窓口が追いつかずに長時間待たされる。改善策として、入国審査に関わる航空会社、空港会社、法務省の3者の担当部門間で情報をきめ細かく伝達することだった。

成田行きの国際便が出発した時点で航空会社が搭乗した外国人数を伝えれば、成田到着までに開設窓口を余裕をもって増減できる。西成教授が空港会社などと共同研究し、2015年1月から導入を開始。審査の待ち時間が半減したという。

注) 出典:アリの行列から学べ 成田の入国審査、待ち時間半減
進化の扉、バイオミメティクス(下)日経産業新聞2016年6月28日付

SCMの用語を使えば、成田の入国審査はボトルネックに、待ち行列は在庫に、審査を終えて入国する外国人はスループットにそれぞれ例えられる。渡航の流れ全体を見渡してみよう。訪日外国人がたどる工程は 1)出発国の空港でのチェックイン 2)出国審査 3)航空機への搭乗 4)降機 5)入国審査 の順となる。訪日者の多い中国や東南アジア諸国からの飛行時間は3時間から6時間以上に及ぶ。2時間前チェックインを前提とすれば5時間以上前には訪日外国人はチェックインを完了していることになる。つまり、数時間後に日本の入国審査を訪れる外国人のデータは既に存在していたのだ。

今回のポイントは、これらのデータを航空会社、空港会社、入出国管理当局との間で共有した点に尽きる。蓋を開ければ、たったそれだけなのである。この記事が示すように今まではそのような連携は存在しなかった。それまでも入国審査を迅速化しようと相当な努力を払ってきたに違いない。しかし、全体を俯瞰(ふかん)して連携しあう視点が欠けていたのだ。

現実の世界には沢山の壁が存在する。国の壁、会社の壁、組織の壁。中小企業と取引先企業との間にも大きな壁が存在する。それらを越えて情報共有し、SCM視点で連携すれば解決できる問題がまだまだ世の中には存在する。宝の山なのだ。

今日からできるSCM視点での改善

では実際にどうやって問題解決を図れば良いだろうか。まず俯瞰図と言われる全体像を書けば良い。対象となるビジネスや業務の始まりから終わりまでを工程図、フローチャート、プロセスマップ等どんな形式でも良い、手書きで簡単に書いてみることだ。その際、価値を生んでいる工程とムダな工程を区別し、工程間で行き交うモノや情報の内容、出し手と受け手を加えると良い。

専門的になるがSCMではVSM(Value Stream Mapping, 価値の流れ図)と言う手法を使う。(下図参照)

value-stream-mapping
その上で、ムダな工程を無くせないか、必要なデータは交換できているか、工程や関係者相互の連携は取れているかなどを考える。自然とスループットを改善するヒントが見えて来る。ビジネスや業務に精通している皆さんであればなおさらだ。そこから多くのヒラメキを得るに違いない。

どんな分野、業務でも改善ができると私が言い張る理由が分かって頂けたであろうか。

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