事業承継ガイドラインが策定されました

菊地 和志

今月25日にサッカーファンが待ちに待ったJリーグが開幕します。地元に愛される川崎フロンターレが今シーズンはどんな飛躍を見せてくれるのか?期待に胸を膨らませている方も多いのではないでしょうか。無論私もその一人です。今シーズンは5期続いた風間前監督から鬼木新監督へとバトンが引き継がれます。攻撃的サッカーの魅力を引き継いでシルバーコレクターの汚名を返上し、念願の初タイトルを獲得してくれるものと固く信じています。

中小企業の監督交代ともいえる事業承継の問題と対応について、昨年末に策定された「事業承継ガイドライン」に沿って見ていきたいと思います。

 

事業承継の現状

中⼩企業経営者の年齢のピークはこの20年間で47歳から66歳に上昇しています。経営者年齢の高齢化は、後継者難が増加していることに加え、平均寿命の上昇や事業承継時期の遅れによる社長在任期間の長期化が原因であると考えられています。

そして2020年ごろには数十万の団塊経営者が引退時期にさしかかり、大量の引退が想定されています。

(図1)中小企業の経営者年齢の分布(年代別)

出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン」

事業承継の形態も多様化しています。事業承継の中心であった親族内承継は急減し、親族外の役員や社外の第三者への承継が増加しており6割超に上っています。 また、60才以上の経営者のうち5割超が後継者難による廃業を考えており、個人事業者においては約7割にのぼっています。廃業を予定する企業の中にも多くの好業績企業が存在しており、廃業による雇⽤や技術・ノウハウの消失が大きな問題となっています。

一方で、世代交代後の新体制では生産性向上によって収益力が高まる傾向があり、若い世代へ事業を引き継ぐことが経済成長に良い影響を及ぼすと期待されています。しかし、脅威と機会の両面から経済全体に大きな影響を及ぼす問題にも関わらず、多くの企業で事業承継への対応が進んでいないのが実状です。

 

事業承継ガイドラインの概要

そのような現状を受け、中小企業庁は昨年12月に事業承継の実施手順や留意点を示した手引「事業承継ガイドライン」を策定しました。そのねらいとするところは、今後5~10年間に事業承継のタイミングを迎える多くの中小企業の円滑な事業承継を後押しし、その蓄積されたノウハウや技術といった価値を次世代に受け継ぎ、世代交代によってさらなる活性化を実現していこうというものであります。 その概要は以下の通りです。

 

 (1)事業承継に向けた早期・計画的な取組の重要性(事業承継診断の導入)

事業承継の問題対応には早期かつ計画的な準備が必要であり、その着手を促すツールとして「事業承継診断」の活用を推奨しています。

 

(2)事業承継に向けた5つのステップの提示

確実かつ効率的に事業承継を実行するために、その実施を5つのステップに分け、ステップごとにやるべきことを明示しています。

(図2)事業承継に向けた5つのステップ

出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン」

(3)地域における事業承継を支援する体制の強化

国・地方自治体、地域の商工会・商工会議所、金融機関や士業等の⽀援機関相互の連携を図りつつ、ステップごとの⽀援を切れ⽬無く行うサポート体制を整備することとしています。さらに経営者に早期に準備の気づきをもってもらうため「事業承継診断」を導⼊して事業承継ニーズの掘り起こしを行うこととしています。

(図3)事業承継支援体制のスキーム

出典:中小企業庁「中小企業ガイドラインについて(概要)」

心に決める、そして相談する

事業を受け継いだ新経営者が最も苦労する点が、経営力の発揮だと言われていますので、できるだけ早い時期から計画的に事業承継対策に取り組むことが成功の鍵となります。事業承継対策として相続・税務・資金・計画作成・後継者教育・登記・行政手続など様々な方策に取り組む必要があり、どこから手をつければよいのか悩んでしまうことが準備の腰を重くさせている大きな要因だといえます。

まずは経営者が、事業承継について取り組もうと心に決めること、次に相談することが重要だとガイドラインは言っています。日頃から付き合いのある金融機関や士業・公的な相談窓口などを利用し、できるだけ早くはじめの一歩を踏み出すことが事業承継成功の確率を高めるのは間違いないようです。

鬼木新監督も川崎フロンターレのコーチングスタッフとして10年の指導経験があり、一般的な事業承継の期間としては準備万端といえるでしょう。サッカーと企業経営を同じように語れませんが、円滑な新体制への移行には時間が最も重要かつ貴重な資源であるという点は同じではないでしょうか。新体制でのフロンターレの開幕ダッシュを祈りつつ、事業承継問題の気がかりな皆さまが早めにはじめの一歩を踏み出されんことを切に願っております。

 

(参考)経済産業省HP 「中小企業事業承継ガイドライン」を策定しました。

http://www.meti.go.jp/press/2016/12/20161205002/20161205002.html

 

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