企業の市場環境を把握する

中小企業診断士 下川洋史

1. 市場環境の把握(4つの側面)と指標の選択

企業環境は、政治面、経済面、技術・情報面、社会面の4つの側面から観察し、検討することが必要です。マクロ的な視野で、世の中の流れ(トレンド=傾向)をとらえて、それらを自社の計画に落とし込んで対応していく企業が生き残れるのです。市場環境を把握する指標や情報は、新聞や雑誌にあふれています。それらの中から自社に適切な指標や情報を取捨選択して、フォロー、整理して企業存続の糧としていきましょう。整理に当たっては、➀時系列でフォローすることと②定点観測をすることが重要です。また、政府刊行物の資料の利用も整理に役立つでしょう。

2. 政治面からの把握

政治面で何と言っても影響の大きいのは日米の政治関係です。米国では、トランプ大統領が選出されました。日本にも軍事面、貿易面、為替面など様々な影響を及ぼすことが予想されますが、その動向は現時点では不透明なところもあり、政策が実行されるまでは、当面ウォッチ(注視)ということになるでしょう。米国がそのような政治環境にあることを認識して、市場環境を表す代表的な下記の5つの経済指標は押さえておきましょう。いずれも、その変動幅によっては、日本への影響が大きい指標です。

  • NYダウ平均株価(ダウ工業株30種平均)
    米国の景気動向を表す代表的な株式指標です。日本の日経平均株価も、ダウ平均株価に大変影響を受けます。毎日、ウオッチしていきましょう。
  • NY・WTI原油価格
    ニューヨク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミーディエート)原油価格は、代表的な原油価格の指標です。最近の石油輸出機構(OPEC)の減産合意から、原油高の影響が、燃料や素材に及んできて、消費者の節約マインドの高まりにつながっています。
  • NY・金価格
    金は、【無国籍通貨】と呼ばれ景気後退局面や紛争時の「安全資産」「逃避資産」「有事の買い」として、代替的で潜在的な需要があります。
  • 米国雇用統計
    米国経済の拡大・縮小を表す指標です。昨年12月の雇用統計は、7年半ぶりに高い伸び率を示し、その結果、ダウ平均株価の上昇に寄与しています。
  • 米国・FRB政策金利(長期金利)
    米国経済の好調さを受けて、FRB(米国連邦準備理事会)は、引き続き金利の引き上げを検討中であり、将来のドル高・円安のトレンドの原因となることも予想されます。

3. 経済面からの把握

市場環境の変化の結果は、色々な経済指標に表れてきます。経済面では、まず、GDPを主体として、下記のマクロ経済指標を把握しましょう。これらの指標を見る際には、大きなトレンド(傾向)で見ることが重要です。市場のトレンドを表す指標は新聞や雑誌にあふれています。政府・官公庁の資料も大いに利用しましょう。それらの中から、自社に適合した指標をピックアップして、整理していきましょう。お勧めする指標は下記の通りですが、自社にあった指標を探してフォローしていくことも必要です。

  • 名目GDP(Gross Domestic Product:国内総生産)
    一定期間内に国内で生産されたモノやサービスの金額の合計で、その増減は、景気を判断する重要な材料になります。名目GDPから物価変動の影響を差し引くと、実質GDPになります。GDPの構成要素の主なものは、個人消費(家計)、設備投資(企業)、政府支出(国家)、輸出輸入(外需)などです。2015年度の名目GDPは、532億円(新基準による)ですが、政府は2020年頃に600兆円を達成目標にしています。
  • 個人消費(家計)
    個人消費は、GDPの構成比率として、最大の約60%を占めています。
    現在、日本の景気が低迷しているのは、この個人消費が伸びていないためと考えられています。政府が躍起となって、個人の所得を上げて、その結果として、消費を上げようとしていることはご承知の通りです。
    日本のGDP額は米国、中国に次ぐ世界3位ですが、一人当たりGDPは米国に次いで2位となっています。
  • 設備投資(企業)
    企業の設備投資は、GDP比約13~15%前後を占めています。設備投資が増えれば、雇用も増加して景気の回復に向かいます。
  • 政府の支出(国家)
    政府の消費と公共投資が含まれます。GDP比約22%前後を占めています。
  • 輸出・輸入(外需)
    輸出額、輸入額は為替に影響を受けます。GDP比は、1~2%前後です。
    統計上は、(輸出-輸入)の差額で、計算されます。

GDP以外の生産に関する指標については次のようなものがあります。

自社に関連した必要な指標は押さえておきましょう。

  • 経済成長率
    GDPが前年比でどの程度成長したかを示します。
  • 住宅着工件数
  • 鉱工業生産
  • 設備稼働率
  • 耐久財受注
  • 建設受注

そのほか、環境変化を読み取る経済指標は、下記のようなものです。

  • 日銀短観(全国企業短期経済観測調査)
    3か月に一度日銀が、業況が「良い」か「悪い」かや、設備投資の状況を聞いてまとめる調査で、特に大企業の業況判断は景気の現状を把握する指標として、注目されています。
  • 消費者物価指数(総務省統計局)
    消費者物価指数は、全国の所帯が購入する家計に係わる財およびサービスの価格等を総合した物価の変動を時系列に測定するものです。「総合」、「生鮮食品を除く総合」、「食料およびエネルギーを除く総合」の区分の他、細目に分かれて調査されています。
  • 企業物価指数
    日本銀行が毎月公表する、企業間で売買する物品の価格水準を数値化した物価関連の経済指標を言います。基本分類指数は、「国内企業物価指数」「輸出物価指数」「輸入物価指数」の3つがあります。
  • 為替レート(円/ドル)
    基本的には通貨が強いということは、交易条件が有利となり、原材料等が安く購入できるので、その国にとって良いことですが、輸出を考えると手取りが減ってくるので一概に良いとは言えません。程よい為替の水準がベストですが、なかなか難しい問題です。
  • 日経平均株価(日経平均)
    日本経済の状況を表す指標です。日本を代表する225社の株価で算出されています。バブル経済の最盛期には、最高値は38,915円(1989年12月)を記録、世界的な金融危機に見舞われた2009年3月には、7054円のバブル後安値を記録し、現時点は、ITバブル(2000年4月)時の高値20,833円を目指す動きになっています。日経平均株価は、日本人よりも外人の持ち株比率が高いためもあり、現状では、企業の動向に加えて、円相場と米国の株式動向に左右される状況が続いています。

これらの指標に自社に適合した指標を加えてフォローしていけば市場環境の予測は、さらに精密なものになるでしょう。

留意点は、以下の通りです。

  • 3年~5年の時系列でみる(潮目がわかる)
  • 指標の変化時に着目する(トレンドが変化した)
  • 夫々の指標について自社の対応策を考えておく
  • 必要だが、不明な指標は政府刊行物などで調査する

4. 技術・情報面からの把握

第4次産業革命の到来といわれている現在、技術・情報を無視しては企業経営に危機をもたらすかもしれません。2017年1月17日号のエコノミスト誌には今年の技術革新が進むものとして12技術の紹介があります。AR(拡張現実)・VR(仮想現実)、ロボット、ゲノム編集、フィンテック(金融とITとの融合)、半導体、AI・IoT、建設インフラ、バイオ医薬、自動運転、新素材、宇宙、農業です。このほかにも、技術・情報面の新項目は列挙にいとまもないが、進行中のものが多く、指標としてはなかなか把握できないのが難点であり、新聞、雑誌等の記載を注意深く見守り、必要なら自分で切り抜きしてファイルするなどの自己努力が必要です。企業の生存をかけた競争が始まっていることを認識して素早い対応をとる必要があります。

5. 社会面からの把握(その1):全般

社会的な構造変化が日本のみならず、世界的にも表れて、実体経済に影響を及ぼしています。この変化のトレンドを正確に捉えて対処することが求められます。

  • 高齢化の進展
  • 社会保障関係費、医療費の高騰
  • 女性の社会進出の進展
  • IT技術の進展(自動運転、AI技術の進展)
  • 社会のさらなる変革・進展
  • 少子化・核家族化の進展
  • 健康志向

これらの社会的インパクトが、自社にとってどのように影響があるのか、その場合の対処を普段から考えておく必要があります。

6. 社会面からの把握(その2):労働環境の把握

労働市況に密接に関係する企業は、別に下記の動向の把握が必要です。

  • 政府の経済・財政・金融政策
  • 完全失業率
  • 有効求人倍率
  • 人口・年齢構成の変化(高齢化)
    平成27年国勢調査では、日本の総人口は、1億2709万人で、大正9年の調査開始以来、初めて減少を記録しました。総人口のうち、65歳以上の割合は、0%から26.6%に上昇して、世界で最も高い水準になりました。
  • 労働時間の短縮と労働の多様化
    今、日本の長時間労働の慣行に変化の兆しが出始めています。大企業にとっても、中小企業にとっても今後の経営課題となることでしょう。
  • 賃金動向(ベースアップ、最低賃金制)
  • 規制緩和

以上、マクロの市場の把握方法について述べてきましたが、7項以下は、企業が直結するミクロの市場動向の把握について述べてみましょう。

7. 個別企業関連の市場動向の把握

今まで見てきたマクロの指標(トレンド)は、個別企業が関連する個別の市場の市場動向(トレンド)となって現れます。この動向に素早く対処できれば、自社を比較優位の場に置くことができます。次のような指標があげられます。

  • 顧客のニーズの変化
  • 消費者のライフスタイルの変化
  • 新材料・新技術の動向
  • 物流の動向
  • 情報化の動向

これらの現状分析と対応方針を策定する必要があります。

8. 個別企業関連の業界動向の把握

最後に自社の属する業界動向について、できる限り詳細な情報を入手して対応策を策定する必要があります。

  • 業界の動向
  • 業界の規模
  • 業界の成長性
  • 業界の新製品の動向
  • 地域別指標
  • 価格別指標
  • 競争状況(新規参入、撤退)

9. 指標調査へのアドバイス

指標調査に困ったときなどは、「SER社会経済リサーチ」の「日本経済指標と米国経済指標」にアプローチしてください。このうち、「日本経済指標」は、【経済概要・物価】【鉱工業】【消費】【金融・株式】【貿易】【企業・労働】の6項目のジャンルに分かれて記載されています。表とグラフもついていますので、使いやすく便利ですので、利用をお勧めします。

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