効果的な広告宣伝手法を選択するには

中小企業診断士・日本パブリックリレーションズ協会認定PRプランナー 尾崎達彦

本稿では、去る7月に開催された「広告宣伝EXPO(夏)」の視察をもとに、そこから読み取れる広告・宣伝手法の動向と、中小企業がそれら手法をうまく活用するためのポイントについて考察する。なお、以下の内容は、展示社全てをもれなく考量したものでも、統計的に分析したものでもなく、相当程度、筆者の興味の対象や主観が反映された内容になっていることをあらかじめ、申し上げておく。

【広告・宣伝EXPOとは】

「広告宣伝EXPO(以下、当展示会)」は、リード エグジビション ジャパン社が主催する展示会「販促ワールド」の一部として東京ビッグサイトで開催され、今回で2回目となる展示会である。「販促ワールド」は、前回実績で3日間に約3万人の来場者と、販促業界最大の規模である。今回は、7月5日からの三日間、開催された。

【アナログ広告の動向】

広告宣伝の手法を2つにざっくり整理すると、デジタルとアナログに分けられる。前者はICTやデジタル化技術を使ったもの、後者は主に印刷技術によるものだ。チラシや看板などのアナログ広告は一時期、デジタル技術との融合をうたう新機軸が多く提案されていた。例えば紙のパンフレットにQRコードを印刷し、ウェブサイトとリンクさせるような取組みだ。しかし今回、筆者が歩き回った範囲では、そうした提案は少なかった。むしろ、そうしたデジタルとの融合よりも、アナログの特徴を前面に打ち出し狭いターゲットに向けて特徴ある訴求を行う広告手法が目立った。

例えば、会員制チラシ宅配サービス「チラッシュ」は、「新聞は不要だが折り込みチラシだけは欲しい」というニッチユーザーに無料でチラシを宅配するサービスだ。6年前にスタートし、現在は30万軒と規模を拡大しているという。そのほか、全国各所の道の駅で配布され、スマホなどを持たないシニア層にリーチしやすいことをうたうフリーペーパーや、観光マップを和風の巻物様にしたてて手に取られやすくしたもの、学習ノートを広告媒体として活用するサービスなどが目を引いた。こうした動きは、日本のクウォーツ時計にほぼ駆逐されたスイス機械式時計が、超高額なブランド品として復活した例や、音楽のデジタル化の流れの中、アナログレコードの売上が復調している例に類似しているように思う。広告宣伝は今後も、デジタル化の流れが続くと思われるが、そうであるほど、旧来の手法でも特徴を際立たせることで充分に価値を発揮するものと考えられる。

【デジタル広告の動向】

では、一方のデジタル広告はどうか。こちらの展示は、大きく「ユーザー分析」と「コンテンツ拡充」に大別できる。「ユーザー分析」とは、大量の顧客データをICT技術を駆使して分析し、効果的な広告掲載などに活用しようとするものだ。一方「コンテンツ拡充」は、広告宣伝のコンテンツ(内容)をリッチに充実させようとするもの(これは筆者が本稿のために呼称したもので一般名詞ではない)。AR(拡張現実)やVR(仮想現実)技術を使ったもの、オウンドメディア(※)に関するもの、公式アプリに関するものが、これに該当する。

(※オウンドメディアとは、企業サイトに、自社製品やサービスの情報にとどまらず消費者が興味を持ちそうな関連情報まで掲載したもの。一回性の販売よりも、消費者との長期的な関係構築を目的としている。化粧品メーカーが自社サイトを美容情報サイトにするような例がある)

「ユーザー分析」の手法で筆者が関心を持ったのは、スマホの位置情報を利用して消費者の行動を分析し精度の高いターゲティングを行うという「AIR TRACK」、そして顔認識技術を使い来店客の属性やサービス満足度などのデータを取得する「アロバビューコーロ」だ。前者は、例えばセンター試験の日に会場にいたユーザーに後日、予備校の広告を配信するなどが可能だ。後者は、従来はレジで入力するなどしていた属性データの収集を自動化し、メニューや品ぞろえなどの参考にすることができる。

一方、「コンテンツ拡充」では、企業の公式アプリに関連するものや、企業ウェブサイトのコンテンツを充実させるものが目立った。前者はスマートフォンの普及を、後者は企業ウェブサイトのオウンドメディア化を、それぞれ反映した動向と見受ける。例えば360°画像をウェブサイトに組み込む「VRツアーシステム」、企業アプリにARコンテンツを組み込む「ココアル」、自社(自店)に関するSNSの投稿を自動的に自社サイトに掲出する「タグライブ」などがある。これら「コンテンツ拡充」に関する出展は、いずれも導入の簡便さをアピールするものが多かったように感じる。

【中小企業はどのような広告宣伝を行うべきか】

さて、こうした多様な広告宣伝手法から、中小企業はどのようにしたら自社にあったものを選定することができるだろうか。上述の分類に従って考察してみたい。

結論から言えば、「データ分析」手法の導入は小規模の事業には不向きだろう。紹介したような分析手法は、次のような要件に当てはまる場合にはじめて有効だと考えられるからだ。

  • 事業規模が大きく得られるデータから統計的予測が有効で、かつデータ量が多く担当者の属人的な分析能力を超えている
  • データ分析に予算を使える
  • 競合が多い活発な市場で厘毛を争う効率化が必要、かつ差別化がしにくい
  • 天候や季節、イベントなどに即応した機動的な広告展開が必要

中小企業の場合、これらの多くが当てはまるものはそれほどないと考えられる。ただし、これは中小企業には広告宣伝に関する現状分析が不要、ということではない。むしろ、分析が不充分だったり偏っていたりすることで、広告が無駄打ちになっているケースを筆者は多く見かける。本稿では正しい分析について扱う余裕がないが、ICT技術に頼らずとも、妥当な分析があって初めて、効果的な広告コンテンツの拡充が見込める。

次に「コンテンツ拡充」手法だが、複数の選択肢から最も優れたものを選別する場合の典型的な方法である、ペイオフマトリックスが使える。これは、相反する2つの評価軸で選択肢をプロットし優位性を可視化するものだ。今回のケースでは、下図のようなものになるだろう。「効果」軸は、その広告宣伝手法によって実現したい成果の度合いを、「難易度(工数)」軸は、導入と運営の容易さやコストの多寡を表す。複数の手法をプロットし、一般的には最も右上に位置するものが最も優れていることになる。シンプルな整理方法だが、それぞれの評価軸については留意点がある。

まず、「効果」軸のポイントは2つある。一つ目は、そもそもその手法が意味ある結果に結びつくかだ。例えばVRでサイト訪問者を楽しませ、滞在時間を増大させることができても、それが目的(売上など)につながらなければ意味がない。あるいは、ツイッターやフェイスブック、インスタグラムなどで情報発信することが目的化し労力をかけすぎるなども、ありがちな悪い例だろう。次々に新技術が出てくるジャンルなので目先の新鮮さに惑わされずに意味ある結果を求める態度が必要だ。二つ目は、長期的なブランド戦略やマーケティング計画に照らして、それに沿った効果を生んでいるかどうかだ。例えば割引クーポンを配信すると集客という目先の効果は生むが、高品質・高価格というブランドイメージを形成するのは難しいだろう。

また「難易度(工数)」軸については、公式アプリや自社サイトのオウンドメディア化のような情報基盤を構築する取組みと、それらの基盤の上に付加価値を加える取組み(例:サイトに360°画像を組込む)とを、混同して評価しないことだ。前者のほうが工数は増えるから、同列に評価すると、場当たり的に屋上屋を重ねるような「コンテンツ拡充」が行われることになる。

当展示会のレポートは以上である。最後になるが、広告宣伝に関する筆者の考えを一つ、付け足しておきたい。それは、あらゆる広告・販促活動は、「何が顧客にとっての価値か」を定義することが起点になっている、ということだ。当展示会に出ていたどのような広告宣伝手法であれ、これが不明確なまま行われるものは思うような効果を上げることはできないと考えている。

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