「2025年問題」に立ち向かうべき中小企業診断士

井田義人

世界が初めて直面する高齢化社会。その先陣を切る日本では、65歳以上の人口が総人口に占める割合が2013年に25%を超え、昨年秋の調査では27.3%に達しました。拡大する介護ニーズに対応するため、介護現場には生産性の向上が強く求められています。中小企業診断士には、蓄積してきた業務効率化のノウハウで、その後押しする使命があるといえます。

■2025年問題

団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年には、国民の3人に1人が高齢者という超高齢化社会が到来、社会保障給付費急増が懸念されており、「2025年問題」としてメディアを賑わしています。

社会保障給付費は増加の一途をたどり、2016年には118兆円(予算ベース・対GDP比22.8%)に達し、その約4割が国や自治体の歳出、つまり税金が投入されています。国では、2025年の給付費の総額は約150兆円におよび、公費負担は60兆円を超えると予測しています。現在、国の予算で最も多く配分されている主要経費は「社会保障関係費」で、高齢者人口と共に増え続け、1990年は18%に過ぎなかったその割合は33%に達しています(2017年度予算ベース)。

■介護報酬の引き下げ進む

これを背景に、国では介護保険法の継続的な見直しによる介護負担額の抑制に取り組んでいます。その範囲は多岐にわたりますが、ここで着目したいのは介護報酬の引き下げです。9年ぶりに引き下げられた2015年の改正に引き続き、2017年に予定されている改正でも実施される見通しであることが広く報道されています。この問題が議論されているのは、医療・介護・行政などの関係者で構成される社会保障審議会・介護給付費分科会です。ここでは、直接的な介護報酬の改定に加えて、訪問介護サービスに関する人員基準の緩和についても議論がなされています。これは訪問介護サービスに含まれる「生活援助」については保有資格などの人員基準を緩和することで、サービス人材を確保しようというものです。高度な介護サービスの提供が可能な介護専門人材ではなくても従事できるようにすることで、サービス報酬の基準も引き下げる狙いがあると考えられます。人員基準の緩和によるサービス品質の低下や、報酬引き下げによる一層の人材難を懸念するなどの慎重意見も出されているようですが、社会保障関係費抑制の方針だけではなく、喫緊の課題である介護保険財政を鑑みれば、不可避と考えざるを得ないともいえます。

■求められるのは生産性の向上

広く知られているように、介護サービス業務は激務であるにもかかわらず、介護サービス職の就労条件は決して良いとは言えません。にもかかわらず、高品質な介護サービスが提供されている原動力は現場でがんばっている人々の高いモチベーションであるといっても過言ではないのではないでしょうか。近年課題となった離職率にこそ一定の改善は見られましたが、人材難はいまだ深刻です。介護サービス職の有効求人倍率は年々上昇を続け、2016年の夏には、ついに3倍を突破しました。要介護・要支援者の増加がこれを加速させることは容易に想像でき、介護報酬の引き下げがさらに拍車をかけることが考えられます。

介護サービス人材を安定的に確保するため、より働きやすい職場にしてゆく努力が求められています。

すべての社会市民が一丸となって取組むべきテーマといえるこの課題に、私たち産業界として取り組めることのひとつに、介護の現場における生産性向上への寄与が考えられます。一般社団法人シルバーサービス振興会では、平成27年度の調査研究事業において、「介護分野における生産性向上に関する研究事業」の調査報告のなかで、「都市部を中心として急速に増加する介護需要に対して、介護人材の確保が困難となる中、生産性向上は極めて重要な政策課題」として、「業務の効率化、ICT等の活用、人材育成・労務管理の方策等を進めることで、社会保障の持続可能性、シルバービジネスをはじめとした高齢者向けサービスの発展に寄与できる」という考えを示しています。

日本のモノづくり産業界が磨き続けてきた生産性向上のノウハウは、世界に誇れる大きな財産です。今こそ、その力を介護現場にも注ぎ込み、来るべき超高齢化社会に備えるべきです。

もちろん、そのノウハウは大企業だけのものではなく、多くの中小企業にも根付き、私たち中小企業診断士も、製造業のみならず様々な業種の現場で、サービス品質を維持・向上とプロセスの効率化を同時に図ることで、生産性を高めるお手伝いをしています。これ以外にも、中小企業診断士にできることは様々考えられます。数多くの創業者を支援しているリソースを、ソーシャルビジネスとしての介護関連サービスの活性化に役立ててもらえる可能性や、厚生労働省だけではなく、経済産業省や各地の自治体も取り組みを始めている介護ロボットなどに開発や導入に関する補助金の申請や事業運営支援など、蓄積してきた知見とノウハウで、介護現場のお手伝いができるのではないかと考えています。

今、直面する「2025年問題」を克服してゆくためにできること、中小企業診断士も社会の一員として真剣に考え、行動してゆかなければならないと思います。

関連記事

Change Language

会員専用ページ

ページ上部へ戻る