受注生産形態を採用する建設業や製造業の特徴を理解し効果的な企業支援を行うには!

豊田 順一

皆さまは受注生産形態を採用する建設業や製造業に対してどういうイメージを浮かべられますか?小売業やサービス業の企業や製造業でも見込生産形態の企業とはかなり異なるので良く分からないと感じられるのではないでしょうか。

過去に診断士として支援した企業についての実績をふまえて、受注生産形態を採用している建設業や製造業の企業に対する、中小企業診断士(コンサルタント)としての企業支援のポイントを紹介させて頂きます。一般の経営者の方にも十分参考になる内容を含んでいると思います。

  • 受注生産形態を採用する建設業や製造業の企業では、以下の手順に従って業務を進めています。案件ごとに製造命令書等が発行され、製造番号ごとに業務が管理されるケースが一般的です。
手順1

顧客から提示された概略の要求仕様書をもとに、各種規程や法的規制にも準拠しつつ、顧客とも協議しながら、信頼性や最終ユーザーの使い勝手を十分考慮した建造物建設や製品製造を実現するための詳細な施工計画書や製作仕様書を個別案件ごとに作成する。

手順2

自社で蓄積した技術、経験やノウハウを最大限活用して、仕様を具体的に展開した施工図や設計図面を作成し、納期を考慮した各種工事工程表や各種生産工程計画表に従って、業務を一種のプロジェクトとみなして工程の進捗管理や統制を綿密に行う。

手順3

管理項目である品質管理、原価管理、技術管理、安全管理、環境対応等に留意して、納期内に建造物建設や製品製造を完了する。

 

  • 受注生産形態を採用する建設業や製造業の上記の手順(特徴)を理解したうえ、コンサルタントとして企業支援するのに、少なくとも以下に挙げる技術やスキルを保有している必要があります。

①業界で周知されている基盤技術、品質管理手法、規格・基準に一通り通じていることが望ましい。

②その企業に蓄積されてきた施工技術、施工工法や設計技術、製造ノウハウなどを分類し、整理し、標準マニュアルとして統合化することを指導できる能力がある。

③プロジェクト管理技術を取り入れ工事工程や設計・製造工程の精緻な進捗管理手法を指導できる能力がある。

④技術のみでなく、経営全般、原価管理、人事面など大局的な観点でバランス良く経営者に助言できる能力がある。

  • 受注生産形態を採用する企業として、業種が異なる2つの企業(総合工事業と配電盤メーカ)を取り上げて企業支援での取組み内容を紹介します。支援にあたっては、まず経営者並びに関係者のヒアリングを実施して経営課題の抽出・整理を行った後に、その改善策をなるべく具体的かつ平易な表現で提案することを心がけました。

1.経営課題の抽出

(1)経営全般に関する課題

経営者等へのヒアリングの結果、両社の経営全般に関する課題を抽出すると図表1のとおりです。

図表1 経営全般の課題

中小建設業(総合工事業)および中小製造業(配電盤メーカ)
1.企業価値 ①同一業界内で自社の強みや魅力を如何にして顧客にアピールし、利益増大に結びつけるか
2.連携強化 ②外注会社や同業他社との協力会組織を強化し、新規提携推進やネットワーク拡大が可能か
3.働き方改革 ③長時間労働の是正や働き方改革をどのように実現するか
4.従業員 ④従業員満足度の向上を如何に図るか
5.技術管理 ⑤蓄積したノウハウや技術の次世代への着実な継承がどうしたらできるか
6.生産性向上 ⑥生産性向上を如何にして実現するか
⑦施工工法や設計手法の標準化をどう図るか
7.管理職 ⑧会社の中軸社員で多忙な中間管理職の再教育とスキルアップを如何に実現できるか
8.人材確保 ⑨若手社員研修による技術力向上とモラルアップ
⑩個人別の体系的教育の推進
⑪若手社員の退職防止をどう図るか

 

(2)営業部門の課題

両社の営業全般に関する課題と利益に直結する積算業務に関する課題を抽出すると図表2のとおりです。

図表2 営業部門の課題

中小建設業(総合工事業)および中小製造業(配電盤メーカ)
1.営業全般 ①既存顧客からの情報収集力アップ
②案件進捗管理や図面提出スケジュール管理等のプロマネ総括業務遂行能力の向上
③「提案営業」、「新規顧客開拓」業務に対する時間確保
④利益を意識した営業提案力の強化と人材育成
⑤受注可否判断が会社トップ独断で決定されること多く、基準の明確化が必要
2.積算業務 ⑥積算業務における見積精度向上と受注率の向上
・工事原価や製造原価の予算/実績トレースと見積への反映

 

(3)生産・現業部門の課題

両社の共通的な管理項目としては、計画業務とプロジェクト管理、工程管理、品質管理、原価管理、技術管理、安全管理、環境対応が挙げられます。これらの管理項目に関する課題を抽出すると図表3のとおりです。

図表3 生産・現業部門の課題

中小建設業(総合工事業)および中小製造業(配電盤メーカ)
1.計画業務と
プロジェクト管理
①顧客要求の十分な確認と把握
②施工計画書や生産工程計画書の遅滞なき作成と申請書の届出
③調達計画および外注計画とのリンク
④プロジェクト体制の構築と運用(特に大型案件では必須)
⑤プロジェクトの的確な工程進捗管理
⑥並行する複数プロジェクトの案件間調整
2.工程管理 ⑦総合工程表や生産工程計画表による大日程管理
・管理日(マイルストーン)の適正な設定と納期遵守
・検査項目の確実な組込みが必要
⑧科目別工事工程表や工程別工程表による小日程管理
・作業者の作業進捗状況の確実な把握
・錯綜する科目別工事相互間の日程調整
・複数案件を担当する設計者相互の作業調整
3.品質管理 ⑨品質レベルの維持管理および原価管理との両立
・工事科目別や工程別に材料、作業手順、作業期間に関する管理項目を明記した管理表を作成
・管理項目ごとに、目標値、確認頻度、管理値逸脱時の対処方法、担当作業者を明確化
4.原価管理 ⑩科目別工事進捗に応じた現場事務所長による工事原価の予算/実績トレースの効果的実施
工程別工程進捗に応じた設計・製造部門長による製造原価の予算/実績トレースの効果的実施
・外注からの請求書と所長の個人的な判断による工事原価予測手法の改善
⑪利益目標の達成に影響する科目別工事進行中の追加工事や未発注工事の予測
設計工程上の追加作業や製造・試験工程上の追加作業の予測、予測結果の社内報告徹底
・計画外事象の社内への迅速な報告
・予算と今後の推移を想定した予想値とのギャップ発生時のアラーム報告義務の徹底
5.技術管理 ⑫現場での状況に合わせた施工方法の技術的内容や設計・製造手法やノウハウの整備と蓄積
・若手社員への技術継承が必須
⑬国交省/経産省仕様書などで数年毎に更新される多岐に亘る仕様改訂項目への迅速な対応
・施工図や施工工法への詳細展開
6.安全管理 ⑭現場では重機を取り扱う機会も多く、安全衛生活動のサイクル実施が必須
⑮労働災害防止のため、特定の建設作業における 作業主任者の選任義務遵守が必須
7.環境対応 ⑯最近は近隣住民からの要求もあり、騒音・振動が少ない状態での施工方法や工法の適用拡大
⑰防音・防振工法、放射線計測など新技術の類似工事への水平展開推進

総合工事業では特に環境対応が重要な管理項目となっています。

 

2.診断助言(施策の提言)による経営支援

抽出した経営課題に対して具体的に提案した改善施策を列挙すると下記のとおりです。

(1)経営全般に関する改善施策

大局的な観点から経営全般について提案した改善施策は図表4のとおりとなります。

図表4 経営全般に関する改善施策

中小建設業(総合工事業) 中小製造業(配電盤メーカ)
1企業価値 ①施工技術や施工工法の豊富な経験実績のアピールとリピート受注
・企業独自の施工実績を整理してドキュメント整備
①配電盤設計技術や系統連携・保護技術の豊富な経験実績のアピールとリピート受注
・企業独自の設計実績を整理してドキュメント整備
2連携強化 ②外注会社との企業協力会組織の強化
・信頼できる設備関連工事協力会社との新規提携推進とネットワーク拡大
・品質面、納期面で相互に協力し合える関係構築
②工業団地協同組合内企業などとの工場連携強化
・信頼できる協力会社や同一業種企業との新規提携推進とネットワーク拡大
・ 同左
3働き方 ③「作業予定報告」と「残業の事前申告制」の徹底
・働き方改革の会社側からの率先した意思表示
③「作業予定報告」と「残業の事前申告制」の徹底
・ 同左
4従業員 ④従業員との面談実施(将来像、希望業務、悩みの丁寧な聞き込み)
・個人別の社内キャリアパス計画への反映
・従業員の支持と理解による企業基盤の構築
④従業員との面談実施(将来像、希望業務、悩みの丁寧な聞き込み)
・個人別の設計/製造スキルマップシートへの反映
・ 同左
5技術管理 ⑤蓄積されたノウハウや技術の次世代への着実な継承と次世代社員による更なる活性化
ベテラン社員と若手社員とのチーム制業務の推進
・安全管理チームでの共同ワーキング
⑤蓄積されたノウハウや技術の次世代への着実な継承と次世代社員による更なる活性化
ベテラン社員と若手社員とのチーム制業務の推進
・設計改善チームでの共同作業とOJT教育
・製造改善チームでの小集団活動
6生産性 ⑥建築系CAD・CAM活用技術の修得促進
⑦施工工法や技術の標準化と社内水平展開
⑥電気系/機械系CAD・CAM活用技術の修得促進
⑦設計手法や手順の標準化と社内水平展開
・標準化関連データベースの整備と活用
7管理職 ⑧中間管理職の再教育とスキルアップ
・現場事務所長のスキルマップシート作成
・技術力増強、進捗管理ツール教育と能力向上
・原価管理ツール教育と原価管理能力向上
⑧中間管理職の再教育とスキルアップ
・設計リーダ、サブリーダのスキルマップシート作成
・同左
・同左
8人材確保 ⑨若手社員研修による技術力向上と社員意識醸成
⑩個人別スキルマップに従った体系的教育の推進
⑪若手社員の退職防止対策の実施
・作業者負担を軽減する会社側努力を理解させる
・一人で問題を抱え込まないように、問題点を遠慮なくアラーム発信してもらえる仕組み作り
⑨若手社員研修による技術力向上とモラルアップ
⑩社内人事ローテーションによるキャリアアップ推進
⑪若手社員の退職防止対策の実施
・ 同左
・ 同左

(2)営業部門に関する改善施策

営業部門の抱える課題に対して提案した改善施策を記載すると図表5のとおりです。

図表5 営業部門に関する改善施策

中小建設業(総合工事業) 中小製造業(配電盤メーカ)
1営業全般 ①営業社員のスキルマップシートの作成
・経営層が自社営業社員にどんなスキルが必要か
どんなスキルを身につけて欲しいかを明示する
②利益創出の仕組みを徹底指導
③社員の意見取り込みによるモチベーション向上
④受注可否判断基準の社内への明示と共有化
・自助努力による粗利益獲得への意識高揚
①営業社員のスキルマップシートの作成
・新規顧客開拓のための戦略の立案
・目標の明確化と社員個人別スキルマップの整備
②標準見積資料による積算作業の効率化
③プロジェクト成果達成によるモチベーション向上
④企画営業力の養成
2積算業務 ⑤「工事科目別標準原価表」(材料費/労務費 標準単価)の策定と定期的見直での見積精度向上
・各工事ごと、着工時点、中間時点、竣工時点で予算/実績を検討し、標準労務単価を算出
⑤「配電盤別標準原価表」(材料費/労務費 標準単価)の策定と定期的見直での見積精度向上
・各工程ごと、着手時点、中間時点、完成時点で予算/実績を検討し、標準労務単価を算出

 

(3)生産・現業部門に関する改善施策

生産・現業部門の抱える課題に対する改善施策を全体統括的な観点から捉えたものと、それ以外の各管理項目の2つに分けて記載します。
最初に、全体総括的に捉えた「計画業務とプロジェクト管理」について提案した改善施策を図表6に記載します。

図表6 生産・現業部門に関する改善施策(その1)

中小建設業(総合工事業) 中小製造業(配電盤メーカ)
1計画業務とプロジェクト管理 ①各工事別工程会議の定期的実施と顧客要求の
徹底的な確認
②品質確保のための検査項目について
総合工程表で漏れなく実施期間を明記
③総合工程表に従った調達計画に基づく
早期交渉開始
④複数作業者で案件対応する工事チーム制の徹底
a.最低限2人でペアを組む。(危険分散)
b.割り込み作業に対する影響の極小化が可能
c.作業工数が増加した場合には相互応援実施
⑤納期遵守の責任は、プロマネを兼務する営業と
現場事務所長など工事リーダとの共同責任
⑥各案件間の調整は、営業と工事リーダとの
社内合同会議において優先順位を合議で決定
①各案件別工程会議の定期的実施と顧客要求の
徹底的な確認
②品質確保のための検査項目について
生産工程計画表で漏れなく実施期間を明記
③生産工程計画表に従った調達計画に基づく
早期交渉開始
④複数設計者で案件対応する設計チーム制の徹底
a. 同左
b. 同左
c. 同左
⑤納期遵守の責任は、プロマネを兼務する営業と
設計リーダや製造リーダとの共同責任
⑥各案件間の調整は、営業と設計/製造リーダとの
社内合同会議において優先順位を合議で決定

次に、その他の各管理項目についての改善施策を図表7に記載します。

図表7 生産・現業部門に関する改善施策(その2)

中小建設業(総合工事業) 中小製造業(配電盤メーカ)
2工程管理 ⑦下記項目を考えた工程表作成チェックリスト適用
a.作業可能日、作業開始時刻、作業終了時刻
b.使用するクレーンなど重機の性能と台数
c.杭打ち開始日、コンクリート打設完了日、受電日などの管理日(マイルストーン)の明確化
⑧工事の種別や状況に応じた工程表の作成
a.ガントチャート工程表  ・ネットワーク工程表などから最適な形式を選択して工程表を作成
b.進捗状況の厳しさを見える化する
⑦下記項目を考えた工程表作成チェックリスト適用
a.作業可能日、作業開始時刻、作業終了時刻
b.承認図提出日、部品手配日、社内試験日、
受電日などの管理日(マイルストーン)の明確化
⑧工程の種別や状況に応じた工程表の作成
a.ガントチャート工程表の作成が一般的だが
大型案件ではネットワーク工程表が非常に有効
b. 同左
3品質管理 ⑨QC工程表(施工品質管理表)の導入
・顧客に提供する建造物の品質、価格、納期を一定基準に維持管理
・工事における試験や検査を実施するための手法や判定基準を明確に規定
・JIS規格に準じた抜き取り検査
⑨QC工程表の導入
・顧客に提供する製品の品質、価格、納期を一定基準に維持管理
・生産工程における試験や検査を実施するための手法や判定基準を明確に規定
・電気設備技術基準や内線規程に基づく検査・試験
4原価管理 ⑩工事原価の予算/実績トレース表の充実
a.今後3カ月の工事進捗予想をガントチャートに記載
b.工事進捗の予定と実績の差異を明示
c.資材費と労務費についても予算と差異を明示
⑪実績が予算の20%程度超過しそうなギャップが生じた場合、経営層にアナウンスするルール徹底
⑩製造原価の予算/実績トレース表の充実
a.今後2カ月の工程進捗予想をガントチャートに記載
b.工程進捗の予定と実績の差異を明示
c.資材費と直接工数についても予算と差異を明示
⑪実績が予算の10%程度超過しそうなギャップが生じた場合、管理職にアナウンスするルール徹底
5技術 ⑫現場での状況に合わせた施工法の技術的内容や施工ノウハウの資料整備と社内PR
⑬施工図作成マニュアルの作成と施工図実施例の提示
⑫現場での状況に合わせた設計手法の技術的内容や製造ノウハウの資料整備と社内PR
⑬設計標準マニュアル、標準シーケンス図面の作成や製造ノウハウ実施例の提示
6安全管理 ⑭工事現場での5S活動の徹底
⑮安全活動報告書や安全ノートを作成し社内PRと水平展開
⑭製造現場での5S活動の徹底
⑮安全活動報告書や安全ノートを作成し社内PRと水平展開
7環境対応 ⑯近隣と取り交わしている環境アセスメントを理解し作業所の環境保全計画を作成した上で、近隣の苦情にも丁寧な対応し社内にも逐次経過を報告
⑰協力会社に環境保全基準を指導し、実績トレース
⑯企業としてのISO14001取得が望ましい

3.まとめ

総合工事業と配電盤メーカという異なる業種を取り上げましたが、受注生産形態という観点で捉えることで、共通の課題や共通の改善施策が見えてきます。管理項目としては、工程管理、品質管理、原価管理、技術管理などが挙げられますが、管理手法として共通なツールの適用(例えばQC工程表、ネットワーク工程表や予算/実績トレース表など)が想像以上に効果的であることを経験しました。また、全ての企業に当てはまりますが、企業力を向上させるには「人を大事にし、従業員満足度向上を目指す」人事労務体制や企業理念が根底として必要であることも強く感じました。
今後とも中小企業に寄り添い、少しでも支援活動が出来ることに喜びを感じながら業務をしていきたいと思います。

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