事業承継税制の特例制度について

清水 信行

事業承継問題は、近年の中小企業にかかる最も重要な課題の一つです。その中でも特に問題となっているのが、業績が良く財務内容が良好な会社は株式の評価が高いことから、その株式を後継者に移転する場合に、多大な贈与税、相続税の負担をしなければならないことがあります。

そのため、政府は平成20年5月に経営承継円滑化法(「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」)を公布し、事業継続の阻害要因となっている3つの課題(①相続税の負担、②遺留分の制約、③資金調達の困難さ)に対して支援策(①事業承継税制、②民法の特例、③金融支援)を制定しました。

特に、事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除されるという、きわめて有利な制度です。

しかしながら、このような事業承継促進の制度改正がなされたにもかかわらず、制度が十分利用されている(法に基づく認定件数が増加している)とはいえない状況となっています。

そこで、平成30年度税制改正では、この事業承継税制について、これまでの措置に加え、10年間の措置として、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限の撤廃や、納税猶予割合の引上げ等がされた特例措置が創設されました。

この事業承継税制の特例制度のポイントは次のとおりです。

① 今後10年間(2018年1月~2027年12月)に限定した特例措置
② 5年以内(2023年3月まで)に特例承継計画の提出が必要
③ 対象株式数の制限の撤廃(2/3→100%)
④ 納税猶予割合の引上げ(贈与100%・相続80%→贈与相続とも100%)
⑤ 対象となる後継者の拡大(複数の株主から1人の後継者→最大3人の後継者)
⑥ 雇用確保要件の弾力化
⑦ 納税猶予期間中に事業継続困難な事由(後継者の死亡、会社の破産等)が生じた場合の免除
⑧ 相続時精算課税制度の適用範囲の拡大

この特例措置を従来の制度(一般措置)との比較は、次のとおりです。

特に「雇用確保要件」は、一般措置では「承認後5年間平均8割の雇用維持が必要」であるのに対し、特例措置では一定の基準日(経営承継期間の末日に判定)における雇用の平均が、相続時の雇用の8割を下回った場合においても、下回った理由を都道府県知事に提出し確認を受けることとされ、引き続き納税が猶予されます。

また、「特例承認計画」に記載する主な内容は、次のとおりです。

  • 特例税制を受けようとする者は、特例後継者として氏名を記載する。
  • 現経営者が保有する株式等を特例後継者が取得するまでの期間における経営計画を記載する。
  • 特例後継者が株式等を取得した後、5年間の経営計画を記載する。

納税猶予期間中は、引き続きこの制度の適用を受けるために、「継続届出書」に一定の書類を添付して所轄の税務署へ提出する必要があります。そして先代経営者等(贈与者)が死亡した場合の取扱いについてですが、「「免除届出書」「免除申請書」を提出することにより、その死亡等があったときに納税が猶予されている相続税の全部又は一部についてその納付が免除されます。

是非ともこのチャンスを活かして、皆さまの企業でも事業承継の課題を感じていましたら積極的に取り組んでいただくことを期待します。そして、是非とも中小企業診断士などの事業承継の専門家にご相談いただきたいと思います。

事業承継の専門家は依頼があると、まず、①現状把握をします。会社の状況、経営者の意向確認、後継者の状況などです。次に、②10年程度の長期経営計画の作成を支援します。承継後の将来像を具体化した経営方針、企業理念の確認や経営ビジョン、事業領域の再設定、定量・定性両面からなる経営目標を設定しアクションプランを作成します。その上で、③事業承継計画書の作成支援をいたします。承継時期の決定や後継者の選定、後継者の育成、社内体制の整備等を行うとともに、非上場株式の評価については税理士に、遺言や親族内相続については弁護士にと、他士業との連携をします。このように事業承継の専門家は、事業承継全体の司令塔として長期にわたる承継計画の実行の支援を最も良い形で実現できます。

事業承継税制のような税制に関することは税理士の支援を求めることが多いかと思いますが、事前に策定しなければならない経営計画である「特例承認計画」の策定や、経営や知的資産を含めた事業承継全体の相談役として、専門の中小企業診断士を有効にご活用していただければと思います。

<参考URL>
・中小企業庁「事業承継マニュアル」
http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170410shoukei.pdf
・国税庁「事業承継税制特集」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/index.htm

 

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