サブスク化の潮流 ~ サービスの視点から考える

新井 一成

サブスク化の流れ

ネットの音楽・動画配信サービスを始めとして、月額(または年額)固定料金で一定のサービスや商品が使い放題、となるサブスク(サブスクリプション)型のビジネスが続々と登場しています。ネットによる各種サービスは、従来から固定料金制が多かったのですが、最近では、ラーメンや居酒屋などの飲食店、衣類やアクセサリー、家具などもサブスクで提供する場合が出てきています。さらに、今年2月にはトヨタ自動車がサブスクリプションによる自動車の提供を開始しました。

これらのサブスク型サービスを、単なる安売りの一形態とか、レンタル/リース販売の一形態として捉えると、最近のビジネスの流れの本質を見失う可能性があります。もちろん「安売り」や「支払方法の変更」という面もあり、さらには副次的に収集する顧客情報の活用による収益獲得などもありますが、最大のポイントは「モノ・コトのサービス化」にあります。

サービス化とは

これまでは、モノを売るビジネスとサービスを売るビジネスは、分けて考えられることが一般的でした。サービスには生産と消費が同時に行われる「同時性」などの特性があり、モノのビジネスとは本質的に異なっている、という考え方です。

しかし、モノを売る場合でも、本当に販売されたときに「消費」されたと言えるでしょうか?アイスクリームを買ってその場で食べてしまえば、「消費」されたと言えるかもしれません。自動車を買った場合はどうでしょうか?そして買ったお客様は、自動車を「所有」するために買ったのでしょうか?人によって目的は異なるかもしれませんが、多くの人は、自動車によって、どこかに移動するために購入しているはずです。つまり自動車の購入とは、ある地点から別の地点まで移動する「サービス」を複数回、数年に渡って購入していると考えることもできるわけです。

この考え方を「サービス化」と言い、自動車のサブスク化とは、自動車という「モノ」をサービス提供の一形態として捉えるものだとも言えるのです。

「サービス化」の考え方は、あらゆる「モノ」のビジネスに適用できます。前述のアイスクリームの例でも、お客様は「アイスクリーム」を食べたかったのではなく、暑い日に清涼感を得たかったのかもしれません。この場合「アイスクリーム」は「涼しくする」というサービスを提供したことになります。

サービスの本質

さらに、この「サービス化」の考え方は、サービス業にも適用できます。「サービス業は最初からサービスだろう」と言われるとは思いますが、目の前のお客様に提供しているサービスが、お客様にとってサービスの本質であるとは限りません。例えば、美容室で髪を手入れしてもらうお客様にとって、本当に必要なサービスは「髪を短くする」「パーマをかける」「カラーリングする」ことでしょうか?実は、お客様にとっては、「髪を短くして夏の暑さを乗り切ること」や「ヘアスタイルを整えて、彼・彼女にモテること」が本当の目的かもしれません。そのようなお客様にとってのサービスは「涼しくすること」や「彼・彼女にアピールすること」の提供が本質的なサービスになります。

サブスク化によるサービス提供

このように、本質的なサービスとは、目の前で提供しているモノやサービスではなく、お客様の置かれている状況やお客様との関係において様々に変わるものです。そのような状況変化に合わせて適切なサービスを提供することが、サブスク型ビジネスのポイントです。

例えば、衣類を販売することを考えます。従来の販売方式では、5千円で1つの服を購入した場合、友人とのショッピングにふさわしい服でも、恋人とのデートには向いていないかもしれません。それに対して、5千円で様々なシチュエーションに応じた服を借りることができるサービスがサブスク型のサービスになります。

同じように、自動車についても、サブスク化の先には、シチュエーションに応じて様々な移動サービスを利用できるMaaS (Mobility as a Service) という考え方があります。日常の買い物で利用する自動車、家族との旅行に使う自動車、行楽帰りの疲れたときに使う運転手付きサービスなどが、一貫して提供されるようなサブスク型サービスが想定されています。

さらにその先を考えると、あるお客様がその時に必要とする自動車の本質的なサービスが「綺麗な景色を見ながらリラックスしたい」であるとすれば、競合するサブスク型サービスはVR (Virtual Reality) による映像配信サービスになる、という時代が目前に迫っています。

サブスク型ビジネスは、本質的なサービスの提供に焦点を当てるものです。そしてこのように、サービスの視点から考えることで、単なる割引や割賦販売ではない、新しい考え方に基づくビジネスにつなげることができます。

今、自社が提供しているモノ・コトについて、顧客にとっての本質的なサービスの視点から、深く考え直してみることで、新たなビジネスのアイデアが見つかるかもしれません。

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