今、災害対応について考える

草刈 利彦

9月は多くの自然災害が起こりました。台風15号では千葉県房総一帯が長い間停電や断水にみまわれました。また、横浜市金沢区の東京湾に面した工業団地では高波で護岸が崩れて大量の海水が流れ込み、多くの工場の機械が壊れるなどの被害が出ました。皆様の事業に影響はありませんでしたか。

■災害対応計画は必要

このような自然災害に対する事前対策を立てるために、国・自治体は以前から「事業継続計画(BCP計画)」を作ることを推進してきました。補助金を出す自治体もあります。しかし、事業継続計画立案に積極的に取り組む企業は多くありません。なぜでしょうか。「災害対応なんて、起こってみないとわからない。」「災害の影響はどの企業にも同じだから、うちだけ頑張っても意味がない。」と言われる社長さんがいます。

被災時に社長さんが出張されていて、携帯電話が繋がらない時、現場従業員はどうしたらよいのでしょうか。災害の影響はどの企業にも同じようにおこりますが、それに対する対応によって、企業の業績は大きく変わります。1週間で取引を再開できる企業と、1ヶ月たっても再開の目処すら立たない企業があったら、お客様はどちらの企業と取引をしたいかは明白です。関東に本社を置くある企業様は新潟に自社工場を持っており、首都圏で災害が起こっても、1週間以内に事業を再開出来る体制を整えています。皆様の地域で災害がおこり、事業が中断しても、代替の製品やサービスが他の地域から調達出来るとしたら、一時的な受注の減少にとどまらず、取引がなくなってしまう可能性があります。苦労して、一度構築した取引の流れをまた同じ苦労をして、もとに戻す企業は少ないのではないでしょうか。

■完璧な対応策を目指すな

自然災害に対する事前対策というと、原発事故を思い浮かべられる方もいると思います。絶対安全神話が崩れたと嘆く方もおられるようですが、私はそもそも絶対安全などはあり得ないと思います。全てを知り尽くすという神様のような能力を人類は持っていません。したがって、災害に対する対応策についても完璧でない部分(残存リスクと言います)があるのです。残存リスクは少ない方が良いでしょう。しかし事業継続計画において考える対応策ははじめから完璧を目指すのではなく、運用しながら継続的に改善していけば良いと思います。完璧を目指して計画を作れないよりも、少しでも使える計画を運用しながら改善していくと考えた方が、計画立案に取り組みやすくなるでしょう。

■何から考えたらたらよいか

事業継続計画と聞くと、「大変だ」という気持ちになる方もいるようです。考えるポイントを押さえれば計画の大事なところは意外に簡単に決められます。後は表現のしかたの部分です。美しく表現することは望ましいですが、内容がまず大切です。

計画を考えるポイントは5つです。

  • 業務の行う上で大切なことは何か
  • 日常業務の流れはどうなっているか
  • その業務を行う上で必要なものは何か
  • もしそれが無くなったらどうなるか(影響)
  • 影響を最小限に収めるために何ができるか

業務を行ううえで大切なのは何かというと、たとえば、お客様への約束、会社の従業員家族の安全など考えられますね。災害が引き起こす業務への影響を最小限に押さえて、大切にしていることを担保するために何をしようか、と考えることが大事です。

もうひとつ大事なことがありました。考えを纏めるときはその考えを書き出してください。頭の中や口頭で出てきた考えはすぐに消えてしまい、じっくり検討することができません。紙やホワイトボードに一度書き出して、それを見ながら検討することで、考えがより明確に練られたものになります。

■事業継続力強化計画

事業継続計画作成にもっと簡単に取り組める施策が出てきましたので、ご紹介します。

中小企業庁は中小企業の自然災害に対する事前対策を促進するため、「中小企業強靭化法」を7月16日に施行しました。本法に基づき防災・減災に取組む中小企業が「事業継続力強化計画」を簡単に策定できるようにしています。

「事業継続力強化計画」とは、中小企業が自社の災害リスクを認識し、防災・減災対策の第一歩として取り組むために、必要な項目を盛り込んだもので、支援措置等を受けるために、将来的に行う災害対策などを記載するものです。作成した計画について認定を受けた中小企業は、防災・減災設備に対する税制優遇、低利融資、ものづくり補助金等の補助金の優先採択等を受けることができます。認定を受けるための申請書は全部で8ページ程度の極めて簡単な様式になっています。

「事業継続力強化計画」により災害対策への取り組みがもっと簡単にできるようになるでしょう。詳しくは図1をご覧ください。

なお、当診断士会は「事業継続力強化計画」作成のお手伝いをしています。必要に応じてご活用ください。

 

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