売上高アップにつながる新規顧客獲得戦略・ファン顧客育成戦略

上野 可南子

新規顧客の獲得と既存顧客の維持は企業経営にとっての永遠のテーマです。

お客様の数は、「新規顧客+リピート顧客-流出顧客」で求めることができます。不満があればお客様が離れていくのは当然ですが、転居といった企業側ではどうすることもできない理由で減ることもあります。どのような企業でも遅かれ早かれ一定数のお客様が流出するのは避けられないことです。そのため新規顧客を獲得しないと客数は減り続けてしまいます。業種の違いはありますが、平均で1年間に20~30%の顧客が入れ替わると言われています。

新しくお客様を獲得するためのコストは、ずっとお客様であり続けてもらうために必要なコストの4~5倍かかると言われています。費用対効果を考えると、客離れを防いで、継続的に購入してもらわなければなりません。

お客様は自社との関わりによって4種類に分けることができます(図表1)。見込み客を新規顧客として獲得するのが新規顧客開拓戦略です。そして、新規顧客からリピート顧客、さらにはファン顧客になってもらうための戦略が顧客育成戦略です。特にファン顧客になると、継続して購入してくれるのはもちろんのこと、あまり価格に左右されず高額であっても購入してくれます。さらに、自分の知人や友人など新規のお客様を紹介してくれることもあります。インターネット時代の今日、Webでの口コミは大きな力を発揮します。こうしたファン顧客が増えると経営が安定します。

1.      新規顧客開拓戦略

新規顧客開拓戦略は、図表2のような3ステップで進めます。

(1)  お客様を決めよう

第1ステップでは誰にお客様になっていただきたいのかを決めます。消費者向けの商品・サービスを取り扱っている企業であれば、決めるに当たって図表3に示した4つの基準がよく使われます。この基準に従って検討すると、お客様になっていただきたいのは、川崎市に住んでいる20代の女性で、職業は会社員。アウトドア派で特に登山が好きな山ガール(ファッション性の高いアウトドア用衣料を身に着けて山に登る若い女性のこと)となります。絞りこんだお客様の数が採算が取れるだけ存在するかどうかの検討も必要です。

(2) お客様を知ろう

第2ステップは、第1ステップで決めたお客様が何を求めているかというニーズを知ることです。知る方法として、国勢調査などの公的統計の利用、アンケート調査など自社で実施する実態調査、ホームページやWeb交流サイトといったインターネットの利用などがあります。インターネットでは簡単に情報が手に入りますが、真偽が定かではない情報もありますので注意が必要です。

ところで、自社がお客様に提供できるニーズは決まっています。アプローチすると決めたお客様が想定しているニーズを持っていない場合は、第1ステップに戻ってお客様を選び直します。

(3) お客様に知っていただこう

品質や価格設定にはどの企業も敏感ですが、意外と気がついていないのは、お客様が「商品・サービスの存在を知らない」ということです。客数を増やすためには、企業側から積極的に知っていただくための取組みをしなければなりません。これが第3ステップです。「お客様が知りたいこと」と「お客様に知っていただきたいこと」を検討してお知らせする内容を決めます(図表4)。内容が決まったら、チラシやDM、ホームページやWeb交流サイトなどを活用してお知らせします。

1.      顧客育成戦略

お客様はその企業や商品・サービスに満足していれば通常離れていくことはありません。さらに満足度が高まるにつれて、ファン顧客になってくれることが期待できます。

(1) お客様が満足する仕組みを知ろう

お客様は商品・サービスを購入する前に、使ったらどんないいことがあるのかと「期待」をします。そして使用した後に抱く印象が「現実」です。購入前後の期待と現実との関係によってお客様の満足度は次の3パターンに分けることができます(図表5)。

①期待>現実:購入後の現実が事前の期待を下回っている状態です。お客様は「がっかり」して二度と購入してくれないでしょう。もし大きく期待を裏切る結果になってしまうとクレームにつながる危険性もあります。

②期待=現実:期待と現実が一致している「予想通り」の状態ですので、特に不満は感じません。この「予想通り」には2種類あります。一つは期待していた通りでほぼ満足しているという状態です。この場合はリピートしてもらえる可能性があります。もう一つは「まあまあ」とか「一度使えばいい」という、それほど満足していない状態です。このケースですと今回だけの利用になってしまうかもしれません。仮にリピート購入してくれたとしてもライバルが出現するとそちらに流れてしまうことも考えられます。

③期待<現実:現実が期待を大きく上回っていますので、お客様は喜んだり、感動したりします。この状態だと確実にリピート購入してくれますし、感動が非常に大きければ一気にファン顧客になってくれる可能性もあります。

(2) お客様にファン顧客になっていただこう

ファン顧客になっていただくためには、お客様が何に対して不満や満足を感じるのかを知った上で効果的に働きかけていくことが大切です。

①衛生要因:これが満たされていないと「不満」につながります。しかしこの要因が満たされているからといって必ずしもお客様の満足を生み出すものではありません。具体的には品質や機能など商品・サービスそのものが持っている必要不可欠な要素です。

②満足要因:「満足」につながる要因ですが、これが提供されないからといって不満を持つことはありません。満足要因の提供を期待しているお客様はあまりいませんので、それが現実になると高評価を得ることができます。「名前で呼ぶ」ことや「かゆい所に手が届く」サービスなど「おもてなしの心」による対応が満足をもたらします。

必要不可欠な衛生要因を満たした上で、お客様が喜び感動する満足要因を提供する努力を続けることによって、ファン顧客を育てることができます。しかし、現実として常に大満足してもらえる要因を提供することは不可能です。そのため「期待を裏切られなかった経験・良い選択したという評価」を積み重ねることによって、お客様の満足度を高めていくことが可能です。また、お客様の期待は時間とともに膨らんでいきますので、契約内容の確認やコミュニケーションなどにより、妥当な水準に戻すことも必要です。

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