「テレワーク」2019年~2020年の軌跡

中小企業診断士 滝沢 典之

テレワークと2019年

新型コロナウイルス感染症は医療・衛生面で世界中の人々に甚大な影響を及ぼしてきている。社会生活においては、うがい手洗いの励行、マスクの着用、3密を避けた行動、不要不急の外出自粛などさまざまな生活様式の変更を余儀なくされている。経済面では、飲食店、娯楽施設などの営業自粛、展示会・イベント、お祭り、花火大会などの中止、海外と国との移動の禁止もまだまだ続くようである。そんな中、大企業を中心にテレワーク、在宅勤務、フレックスタイムによる時差通勤、外出・出張自粛の影響で、オンラインによる会議が頻繁に行われるようになってきた。

数年前から「テレワーク」「在宅勤務」を推進しようという動きはあったものの、一向にその動きは進むことはなかった。2019年夏、まだ、新型コロナウイルス感染症など世界のどこにもないころ、日本では翌年に迫った東京でのオリンピック開催の準備に向けて、明るい雰囲気が充満していた。そのころ、2020年夏には、海外から多くの選手や観光客が来日し、東京の街は交通渋滞や混雑でビークになるとされ、物流にも支障が出る予想であった。その都心の混雑緩和に動き出した東京都は、その解決手段として、「テレワークの導入」「在宅勤務」を推し進めようとした。東京都は業界に対して、テレワークを導入し、都内の交通渋滞緩和に貢献してくれる企業に対して、補助金を出す施策を打ち出した。小生も中小企業診断士としてその推進活動に参画した。

テレワークと業務プロセス分析

小生の担当したのは印刷業界。都内の中小印刷業の企業の1社を訪問し、2020年3月末までに補助金申請を進めることになった。秋から冬にかけて、3回訪問した。従業員は数名の小さな印刷の会社。従業員は通勤に1時間かけて都内の会社に通っていた。訪問初日、まず、従業員の仕事の内容や業務プロセスについて社長からお話を伺った。次に、社長に尋ねた。テレワークできる仕事はありますか?社長は首をかしげて、ほとんどありません。オリンピックに向けて、交通混雑緩和に協力することには反対しませんが、テレワークはピンときません。印刷の前段階でのデザインについてはアウトソーシングして、社外でできるかもしれませんが、現在の従業員が自分の家に資料を持ち帰って、デザインだけを在宅でテレワークで仕事をすることは理論的には可能ですが、その従業員はデザインだけでなく、納品物の受け取りや経理処理業務もこの事務所でやっていますので、在宅勤務は不可能かと思います。また、デザインについてもお客様の方から、事務所で仕事をして欲しい、社外(事務所外)に仕様書やデータを持ち出して欲しくないとの要望があり、必ず、お客様のご理解と許可が必要です。

補助金申請に向けて、決めなくてはならないことは次の3点
 ① どの業務をテレワークにするか
 ② お客様の了解はとれるか
 ③ テレワークのための機材の選定
この3点を何とかクリアーさせるべく、社長との話し合いを進めた。

テレワークと就業規則

しかし、2月になり、4点目の大きな難題が持ち上がった。補助金申請をする条件として、まず、テレワークの規程の入っていない従来の就業規則が必要とのこと。その就業規則にテレワークを明記して、変更したことを証明することが必要になった。この会社のように従業員が10名未満の会社は就業規則を届出る義務はなく、作成していない会社が大半である。補助金申請事務局に確認したが、補助金申請する場合、従来の就業規則とテレワーク変更後の就業規則が必要とのこと。就業規則は経営者が作成することは可能。ただし、その中身を客観的な眼でアドバイスできるのは社会保険労務士である。この分野のスペシャリストとして社会保険労務士にお願いするケースは多い。新型コロナウイルス感染症の患者が多く始めたころでもあり、対面での相談もままならない時期になってきていた。その会社の社長は社会保険労務士の知人に相談して対応しますということで、3月末の補助金申請に向けて、作業を進めた。

テレワークの今後

上記のように、首都圏では、2019年、テレワークはオリンピックの交通渋滞緩和のための一手段であった。新型コロナウイルス感染症の影響で、否応なく、在宅勤務、テレワークが社会のニーズになってきた。特に役所や大企業の事務所では在宅勤務、テレワークが急速に浸透し、日常の当たり前の姿になってきた。

あれだけ、進めることが困難だったテレワークも新型コロナウイルス感染症の影響で、簡単に導入、定着してきた。ただし、大企業が中心である。中小企業ではなかなか導入できていないのが現状である。このまま、中小企業がテレワークを導入できない状態が続くと、大企業との格差はますます拡大してしまう。新卒の求人、採用を考えても、テレワーク、在宅勤務制度が整っている大企業への就職の希望者は増えていくことが予想される。一度結婚出産で職場を離れていた女性がテレワーク、在宅勤務制度のある会社では生き生きと職場復帰も可能になるだろう。働き方改革の面からも、女性の社会進出の面からも、テレワークは今後の働き方改革を考えるとき、その重要さを増してくるだろう。

いまこそ、中小企業の経営者の皆様には「働き方改革」「テレワーク導入」に真剣に取り組むことをお勧めしたい。補助金を有効活用して、ピンチをチャンスに変える。今がその時である。

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