ISOマネジメントシステムを活用して組織力を向上させる。

中小企業診断士・ISO9001:2015 QMS審査員 加賀谷 千尋

経営環境が激変したときこそ求められるPDCA

コロナ禍の影響で厳しい状況にある業種は、ウィズコロナ・アフターコロナの経済社会の変化に対応することを求められている。思い切った事業再構築にチャレンジする中小企業へは、超大型の補助金制度も支援策として導入され、中小企業の経営者には千載一遇のチャンスでもある。しかしながら、このチャンスをモノにするには、経営の基礎体力がついていることが前提であると感じる。事業を取りまく外部環境や内部環境の変化をしっかり把握した上で、ビジョンを描き、現状とのギャップから課題を設定、施策を講じる・・・と経営書にはある。しかし中小企業の経営者の多くは日々の業務に忙殺されているというのが大半ではないか。では経営の基礎体力とは何か?であるが、PDCAサイクル(Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善))を回し続けられる体力であると考える。昨今では、PDCAは業務における問題を解消する為のツールでイノベーションを生み出せないのでは?とのお考えもあるようだが、あえて経営品質を上げるツールとしてお薦めしたいのである。特に、コンパクトなPDCAを高速回転させることが要諦であり、家業から事業(従業員も10名超となり非同族が多くなる)に規模が拡大した局面は一つの節目であろう。また、PDCAを回す前提として、企業内部のコミュニケーションが円滑であることも見落とすことはできない。「ワンチームは一日にして成らず」であり、規模拡大の局面におけるコミュニケーション不全は、経営者が気付かないことがままある。

ISOマネジメントシステムとPDCA

しかしながら、目標を見失ったままPDCAを回し、時間だけを費やし頓挫という企業も少なくないことは事実でもある。また、日常業務に追われた状況で自主的に行うことはハードルが高いことも事実である。そこで、経営ツールとしてISOマネジメントシステム認証取得に取り組む方法をご紹介したい。

認証取得により取引を優位に進められるという利点と、維持コストや従業員の負担を比較すると経営上の必要性が感じられないと考えられる経営者も少なくない。ましてや顧客から認証取得を求められる建設業や製造業ではないサービス業に適応できるのであろうか。しかしながら2015年に大きな改訂があり、製造業のみならずサービス業や小規模事業者にも対応が可能なように適用用語にも配慮されるとともに、プロセスアプローチの採用や顧客志向の重視などが要求されていることがより企業組織の経営目標達成と連動した内容になった。

加えて、ISO(国際標準化機構)は、企業が組織活動を管理するための仕組みとして「マネジメントシステム規格」を定めた。マネジメントシステム規格(以下MSS)は、方針及び目標を定め、その目標を達成するために組織を適切に指揮・管理するための仕組みであるが,品質(QMS)環境(EMS)食品安全(FSMS)情報セキュリティ(ISMS)など企業の目的に合わせて選択することができる。いずれも「品質マネジメント7原則」に沿って認証の審査が行われるのである。

図1 PDCAサイクルを使った規格の構造の説明 JISQ9001:2015を引用し作成

品質マネジメント7原則

  • 顧客重視         :企業を取り巻くステークホルダーの要求と期待に応える。
  • リーダーシップ      :トップマネジメントのコミットメントが求められる。
  • 人々の積極的参加     :組織全体の構成員が参加している。
  • プロセスアプローチ    :仕事の流れを仕事単位で管理してる。
  • 改善           :絶え間なく改善に取り組む。
  • 客観的事実に基づく意思決定:データや情報を分析評価し意思決定する。
  • 関係性管理        :ステークホルダーと平等で良好な関係を気付いているか。

(出典:JISQ9001:2015)

認証機関の一つである、一般社団法人日本能率協会 審査登録センター(JMAQA)は、特定の業種・業界に依らないマネジメント系第三者認証機関として設立し、以来、一貫して組織の「経営革新」を推進している。「経営革新」は、“環境の変化や自発的意思により、製品/サービス、組織、システム、風土、活動方法等を、新たな発想と方法によって改革し、品質、生産性、個人能力、働きがいを飛躍的に向上させること”と考えます。その実現は、利害のない客観的な立場からの認証によって確実になるものと確信し、社会財と言える認証活動を推進していると表明している。

規格の要求事項への適合性のみを審査するのではなく、「適合であるが有効ではない」「効率的でない」という企業内部では気付かない事実を検出し評価するということである。また、審査は定期的に年1回行われる為、企業側のPDCAサイクルをそれに合わせて回し続けることができるのだ。

ISOの活用による風土改革の事例

それでは、具体的にどのようにして、経営改善に結びつけているのであろうか。先述のJMAQAでは、事業とマネジメントシステムを一体化させることで成長している企業の取組みを「JMAQA AWARDS」という表彰制度にて広く紹介している。2021年は金属・非金属精密機械の製造組立を行っている株式会社草川精機(京都市南区上鳥羽麻ノ本町20-4)が表彰された。ISO9001の登録認証から18年目を迎えるが、認証を活用して「風土改革」を進めるとともに、売上高などの経営指標の継続改善を実現している点が評価されたのだ。

1962年に創業した受賞企業は、高精度の切削加工を得意とし創業以来の独自の技術で多様な分野へ進出してきた。しかしながらカリスマ性の高い社長が一人でけん引してきており事業継承の観点からも「風土改革」は経営課題であった。ISOを活用してどのように組織経営に変革したのか、18年に及ぶ取り組みが受賞企業様のインタビュー記事で紹介されており参考にしたい。

  1. 「組織」と「ルール」に移行するという経営課題に取組み
    カリスマ社長がすべてを抱える経営から組織での経営に移行するということは、創業からの慣習を変えていく必要もある。ISOマネジメントシステムの取得要件に準拠しながら進めていく事は大変有効と考えられる。業務に追われる中で、時間を捻出し従業員との面談を実施した結果“やりがい”を実感できる組織に変化していったようであるが、加えて「風土調査」という客観的事実により検証していったことも大変有効である。また付随効果として、これまで書類を作成する経験がなかった組織が文書や記録の作成の力量が備わることは経営の見える化の一助になる。
  2. 研修制度の構築やリーダー育成に取組み
    教育はISOマネジメントシステムの重要な要求事項であり、審査は進捗状況や教育を受けた結果の有効性の検証が求められる。人材育成の効果に結びついたことがうかがえる。
  3. 経営数値のパフォーマンス向上への取組み
    不良率削減による経営数値への効果が表れているが、規格の要求事項によるマネジメントレビューにより経営課題を意識しPDCAサイクルを回すことが常態化していったことがうかがわれる。しかしそこでとどまることなく、管理会計の導入や営業会議の改革など継続的な改善を行うことで経営品質はますます高まっている。
  4. コロナ禍リスクへの取組み「納期を絶対に遅らせない」
    コロナ禍において、「納期を絶対に遅らせない」という重点指向の転注対策を行えたのも、まさにISOの要求事項である「リスク及び機会への取組み」や「品質目標及びそれを達成する為の計画策定」が恒常的に行える企業体質となっていた結果であると考えられる。

組織に染み付いた風土を変革するということは、並大抵の事ではない。しかしながらあえてそれに取組んだからこそ、未曽有のコロナ禍で社内一丸となって対応が取れたのである。

まとめとして

(一社)日本品質管理学会 ISO9000シリーズ審査研究会編の「経営に有効な第三者審査 ガイドブック」には、審査員に対し有効性を考えた審査を行う為の指針が記されている。組織が品質マネジメントシステム(以下QMS)を構築する目的は、QMSの有効性を向上させることであるとともに、組織の売上、利益に結びつくことであり、審査員は常に意識して審査にあたるべきとある。PDCAサイクルを回しながら組織目標のパフォーマンスを上げているかを意識して、規模や業種が様々な組織を審査している。このような事からも、自社の経営革新を推進するにあたりISOマネジメントシステムの活用は大変有効であると考えられる。

最後にはなるが、ISOマネジメントシステムを活用した組織力の向上はすぐに効果が見えるものではない。認証取得のために文書や記録の作成することは負荷のかかることであり、ここで筋肉痛を起こしてやめてしまっては元も子もない。組織全体の構成員が積極的に参加することで、自社を知りチームワークを醸成しはじめていることは徐々にわかってくるのである。また一度作成した制度は内部や外部環境の変化に対応しているのかは、定期的な審査を受けることで認識することができる。目標管理やコミュニケーションを意識した経営の基礎体力が備わっていることで、環境が激変した局面での事業再構築がスピーディーに行えると考える。

参考文献

「ISO9001 経営に有効な第三者審査 ガイドブック」(日科技連)
「JISQ9001:2015(ISO9001:2015)品質マネジメントシステム-要求事項」
「JMAQAホームページ JMAQAメッセージ」
「JMAQA AWARDS 2021」

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