ポストコロナ持続的発展計画事業について

中小企業診断士 柴原 廣次

はじめに

令和4年4月、中小企業庁より「早期経営改善計画策定事業」(通称:プレ405事業)の事業内容変更についてのお知らせがありました。

【変更点その1】
これまでの通称を「プレ405事業」から「ポストコロナ持続的発展計画事業」とします。
(通称は令和3年4月に変更済み)

【変更点その2】
従来、任意であった「専門家による伴走支援」が要件となり期中あるいは決算期におけるモニタリングが必須となりました。計画立案に加えて、計画の有効な実践が重要視されています。

改めて早期経営改善計画策定支援事業(通称:ポストコロナ持続的発展計画事業)についておさらいをしましょう。この事業は、「国が認める認定支援機関(中小企業診断士、税理士、その他士業、銀行、など)の専門家の支援を受けて、資金実績・計画表、ビジネスモデル俯瞰図、数値計画(予想損益計算書)、アクションプランなどで構成される経営改善計画を策定する場合、専門家に対する支払い費用の2/3(上限20万円まで)を国が補助をする」という制度です。もちろん事業者自ら経営改善計画書を作成して活用することがベストなのですが、時間的制約、また慣れないことで計画書作成を困難とする事業者の方も多いということで、この制度が整備されています。

新型コロナ禍での資金繰り対策として、無担保、無金利の「ゼロゼロ融資」を多くの事業者が利用されています。「トピックス8月号」で返済期を迎える「ゼロゼロ融資」についての解説がありましたが資金繰りに困難を覚える事業者の方も多く出てきています。

1.早期経営改善計画書の役割

今のところ返済条件の変更等は必要ないが、次のような条件にあてはまる事業者の方が対象です。

  • ここのところ資金繰りが不安定になっている
  • 原因がわからないが売り上げが減少している
  • 自社の経営状況を客観的に把握したい
  • 専門家から経営に関するアドバイスが欲しい
  • 経営改善の取り組みをフォローアップしてほしい

早期経営改善計画書の意味付けですが、まず一つは、経営の羅針盤としての役割です。社長の頭の中にある事業計画を見える化することで今後の事業展開に役立てることができます。経営理念、ビジョンを社内で共有化することで社内コミュニケーションの活性化、社員のモチベーションアップに貢献します。もう一つは金融機関との関係強化です。返済条件変更の必要がない場合でも自主的な経営改善計画書を提示することで、金融機関との信頼関係を強固にすることに貢献します。いざというときのお願いがしやすくなります。

2.早期経営改善計画書の構成

経営改善計画書の書式は特に指定されていませんが、自社、金融機関、さらには中小企業支援センターそれぞれに十分理解され、認証される内容が要求されます。ここで一つご提案ですが、中小企業庁、また日本政策金融公庫、信用金庫などの金融機関のホームページで公表している経営改善計画書の書式・フォーマットの利用をお勧めします。以前ご一緒した信用金庫のお客様支援担当の方にお尋ねしたところ、ホームページに掲載している経営改善計画書の書式は、お客様に活用して頂くのが目的で公表しているので診断士のみなさまにも活用して頂けるのであれば喜んで提供するとのことでした。

3.経営改善計画書の実際

事業者、金融機関、社員の皆さま、三者三様に理解して頂ける経営改善計画書は、どうしたら作成できるのでしょうか。経営改善計画書のひな型、参考資料を研究することはもちろんですが、(1)現状把握、(2)問題点・経営課題の抽出、(3)改善案の策定、(4)改善案のアクションプランへの落としこみ、(5)損益計画策定、(6)資金繰り検討、など、まずは大きな経営の流れを描きます。

(1)現状把握

まずは自社が業界内でどのような位置づけなのか、外部環境はどうなっているのかを確認します。新型コロナウイルスの影響の程度は業種・業態によって著しく異なります。また、ロシアのウクライナ侵攻による原油・原材料の値上がりなど、先行きの不透明さは増すばかりです。以上を踏まえて経営改善計画書の最初には、基本事項として、当社の沿革、経営理念、企業の特徴、当社の現状、などを挙げていきます。自社ホームページで纏めてあれば問題なく記入できます。ただし経営理念については、時代にあっているか、見直しが必要かを十分検討する必要があります。

(2)問題点・経営課題の抽出

業況の悪化、資金繰りの困難を訴える事業者の方が多く出てきています。まず、財務チェックをしてみましょう。ここでは時間と費用を節約するために国(中小企業基盤整備機構)の提供している「経営自己診断システム」を利用します。財務診断をベースとして改善の方向を検討します。ここではビジネスモデル俯瞰図やSWOT分析図を作成して、仕入先から販売先までの商品の流れ、取引状況などを確認しましょう。

(3)改善案の策定 SWOT分析では、自社の内部環境である強み・弱みを洗い出し、外部環境である機会・脅威を抽出します。ここで強みを活かして機会をつかむ「積極策」がとれないか、弱みを克服して機会をつかむ「改善策」がとれないか、クロス分析を行います。さらに、強みを活かして脅威を回避する「差別化」ができないか、弱みを克服して脅威を回避する「撤退・縮小」ができないかを検討します。

【図表1 SWOT分析】

(書式出所:日本政策金融公庫HP)

(4)改善案のアクションプランへの落としこみ

経営改善計画は、策定しても実行されなければ意味がありません。誰が、何を、いつまでに実行するか目に見える形で示します。実行プランを現場の担当者が十分理解し、実践しやすいプランにします。進捗管理は最低でも月1回の全体会議で行います。簡単なひな型を図表2に示しますので、参考にしてください。

【図表2 アクションプラン】

(書式出所:日本政策金融公庫HP)

(5)損益計画策定(予想損益計算書作成)

直近3期分の損益計算書の数字をエクセルに入力し、その後5年間の推移を計画値として入力します。損益計画の実現可能性を高めるためには、正確な現状把握とそれを踏まえた今後の事業見通し、アクションプラン実施による改善内容などを加味して数値を決めていきます。

【図表3 予想損益計算書】

(書式出所:興産信用金庫HP

(6)資金繰り検討

経営は黒字であっても支払いができなくなれば倒産につながります。突然の資金不足を回避するためには、自社の入出金状況を分析して、今後の資金収支を予想し、資金不足が予想される場合は対策を講じます。資金繰表は必須の資料ですので、作成し月次試算表と併せて目に留まるところに置いておきます。

 【図表4 資金実績・計画表】

(書式出所:支援センター提供)

以上早期経営改善計画書のポイントだけを示しましたが、実際に事業申請する際には、中小企業庁の発行する資料HP(①早期経営改善計画策定支援における着眼点、②伴走支援における着眼点、③手続きマニュアル・FAQ等)を参照してください。参考のためということで、実際に使用した書式事例を提示していますが、守秘義務があるため個人名、会社名などを消去しています。読みにくいかと思われますが、事例の中身はあまり参考にはなりません。同業者であっても業況はそれぞれの事情で、大幅に異なります。ここでは提示された書式のイメージから経営改善計画書の全体像を理解して頂ければと思います。

以上

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