「ツール導入」ではなく「経営課題の整理」から始めるDX
- 2026/4/1
- 診断士の視点

中小企業診断士・ITコーディネータ 山中 弘重
近年、多くの中小企業でDX(デジタルトランスフォーメーション)やIT活用の必要性が叫ばれています。しかし日頃の支援の現場では、「何から始めればよいのか分からない」、「ITツールを導入したものの業務改善につながらない」といった声も少なくありません。あるいは、経営相談の前から具体的に導入するべきITソリューションが特定されているようであっても、ヒアリングを進めてみると、その前提となる課題よりも他に優先度の高い課題が見つかる場合が往々にしてあります。筆者が中小企業の支援現場で感じるのは、ITスキル・ノウハウの不足以前に「課題の整理不足」が本質的な原因の一つとして存在する点です。
このような状況に対し、公的機関が提供する各種支援ツールが手軽な解決手段として非常に有効であると考えます。例えば、独立行政法人中小企業基盤整備機構が提供している「IT戦略ナビwith※1」の場合、同サイト上で「IT戦略マップ」を作成することにより、自社の経営課題・業務課題・IT活用の方向性を体系的に整理することができます。
※1 IT戦略ナビwith(https://digiwith.smrj.go.jp/it-map/)
本稿では、このIT戦略マップを中小企業が作成する意義について、中小企業診断士及びITコーディネータの立場から解説します。
IT導入が失敗する本当の理由
中小企業のIT導入が上手くいかない理由としてよく挙げられるのは、次のようなものです。
表1.中小企業のIT活用が失敗する主な要因

多くの中小企業では、IT関連の展示会や営業提案をきっかけにツールの導入を検討するケースが見られます。しかし、本来は経営課題を整理し、その解決手段としてITを位置づけることが重要です。
IT戦略マップとは何か
IT戦略マップは、Webサイト上で質問に回答しながら進めることで、企業の経営課題と業務課題を整理し、それを解決するためのIT活用の方向性を体系的に可視化できる無料のツールです。公的機関である中小機構が運営しているため、民間が運営する支援サイトと比べて中立性の観点から安心感があります。
図1はIT戦略マップの作成例となります。IT戦略マップは上から「経営戦略 ⇒ 経営課題 ⇒ 業務課題 ⇒ IT活用」の順に整理される点が大きな特徴です。IT活用そのものを目的化せず、経営改善の手段としてITを位置付けることを念頭においた設計になっていると言えます。

図1.IT戦略マップの作成例
(出所:IT戦略ナビwith https://digiwith.smrj.go.jp/it-map/)
中小企業が自らIT戦略マップを作成するメリット
IT戦略マップは、筆者のような支援者が支援先である中小企業の現状をヒアリングした際、支援先と一緒に課題を整理・確認する際に利用されています。しかしIT戦略マップは、中小企業が自ら利用することにより大きな効果が得られると考えます。主な理由を以下に示します。
1. 質問の選択肢を通じて新たな課題が想起される点
図2は、IT戦略マップで任意の経営課題を選択した後に出てくる「業務上の問題点」の質問例です。このようにある経営課題に対し、それに対応する様々な業務上の問題点・課題が選択肢として表示されるため、それまで意識下になかった自社の課題が想起される効果が期待できます。IT戦略マップの作成を複数名の社内関係者で取り組んだ場合、想起された新たな課題に対して適宜対話をしながら回答を探ることで、課題の深掘りを行うこともできます。

図2.「業務上の問題点」の質問例
(出所:IT戦略ナビwith https://digiwith.smrj.go.jp/it-map/)
2. ITの知識がなくても、課題に対応するITソリューションを特定できる点
本来、特定の業務課題に対して対応するITソリューションを特定するためには、IT分野に関する網羅的な知識が要求されます。IT戦略マップでは、質問に回答しながら進めることで課題に対応するITソリューションが自動的に表示されます。このため、ITに詳しい人材がいない中小企業であっても適切なITソリューションを見つけることができます。図3のようにITソリューションの概要説明等も表示され、新たな気づきにつながる効果も期待できます。

図3.ITソリューションの紹介例(顧客管理システム・CRM)
(出所:IT戦略ナビwith https://digiwith.smrj.go.jp/it-map/)
IT戦略マップは、経営・業務課題からIT活用の方向性までが体系的に整理されるため、作成したIT戦略マップを社内外の関係者に共有するだけでも、IT戦略の意思統一を図る上で大きなメリットが得られます。さらに上記で示したように、社内の関係者が自らIT戦略マップを作成することにより、作成過程を通じて関係者間の共通認識を深められる点にこそ、中小企業が利用する最大のメリットがあると考えます。
中小企業こそ課題・戦略の整理が重要
一般的に大企業では、IT部門や企画部門が存在しIT戦略の検討体制が整っています。一方中小企業では、経営者が日々の業務に追われ、課題・戦略整理の時間を確保することが難しい場合が多いのが実情です。その結果、冒頭の表1で示したようにIT導入が失敗する要因を招くことになります。しかし逆に言えば、簡易でもよいので課題・戦略整理を行うだけで、IT活用の効果は大きく変わります。IT戦略マップは、そのための非常に実践的で取り組みやすいツールであると考えます。
課題・戦略の整理段階から、川崎中小企業診断士会のような支援先の力を借りることも可能です。しかしながら、IT戦略マップのようなツールを使って中小企業が自ら課題・戦略の整理を行った上で支援先の力を借りれば、課題の解決につながるより本質的な支援を得ることができます。これを機に少しずつIT戦略マップを使ってみませんか。きっと企業の持続的成長につながるDXの第一歩となるはずです。
以上













