中小企業が産学連携を活用すべき理由 〜知の力で突破する経営課題〜

中小企業診断士・米国PMI認定PMP 大野 秀敏 

1.産学連携の状況と主な形態

産学連携とは、大学や高等専門学校(以下、大学等)などの研究機関と民間企業(以下、企業)が協力し、それぞれが有する知識や技術を活かして新たな価値を創出する取り組みです。近年では、地域の自治体や中小企業診断士などの支援機関が、両者の橋渡し役を担うケースも増えています。「産学連携」という言葉からは、大企業と大学による最先端研究を想起しがちですが、実際には中小企業との連携も活発に行われています。たとえば文部科学省「産学連携等実施状況調査(令和5年度実績)」によれば、大学等が国内民間企業と実施した共同研究および受託研究の総件数(39,113件)のうち、約3分の1(12,634件)が中小企業との連携であったことが示されています。

産学連携は目的によってさまざまな方法があり、一般的には以下の3つ形態が挙げられます。

  • 共同研究

企業と大学等が対等な立場で研究テーマを設定し、契約に基づいて費用や人材を相互に提供して共同で研究を進めます。成果として生まれた知的財産の取り扱いは契約で定められ、大学等に帰属させる場合でも、企業側に独占的な実施権を付与することが可能です。

  • 受託研究

企業が研究テーマと資金を提供し、大学等がその研究を請け負う形式です。成果の知的財産は原則として大学側に帰属しますが、契約により実施権や帰属先を柔軟に調整できます。

  • 学術指導・技術相談

比較的簡易な連携形態であり、大学等の研究者が企業に対して学術的な助言や技術指導を短期で(スポット的に)行うものです。費用負担も抑えられるため、産学連携の“入口”として適した方法といえるでしょう。

これらの形態の特徴を理解しておくことで、自社に適した連携手法を見出しやすくなります。

2.中小企業にこそ有効な4つのポイント

研究開発のための資源が必ずしも潤沢でない中小企業が産学連携に取り組むことで、以下のような具体的メリットを期待することができます。

  • 技術開発の迅速化とコストの抑制

大学等が保有する研究設備や高度な専門知識を活用することで、自社製品の試作や技術の実用化にかかる時間を短縮し、開発コストの削減にもつながります。

  • 人的資源へのアクセス

研究者や学生との協働を通じて、自社にはない視点や知見を取り入れることができます。インターンシップ制度を活用すれば、将来の人材確保につながる関係構築も期待できます。

  • 補助金・助成金の活用

中小企業が産学連携に取り組む際には、国や自治体の補助金制度を活用できる場合があります。たとえば、経済産業省の「成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)」は、公設試験研究機関や大学等と連携して行う研究開発や販路開拓などを、最大3年間支援する制度です。

  • 新市場への参入機会の獲得

大学等の高度な技術や知見を取り入れて開発力を高めることで、これまで自社のみでは参入が難しかった新たな市場へ製品やサービスを展開できる可能性が広がります。

3.川崎市における支援体制(概要)

川崎市では、公益財団法人川崎市産業振興財団などを中心に、中小企業の産学連携を支援する体制も充実しています。代表的な取り組みとしては、企業を訪問して課題をヒアリングし、大学との連携を提案する「出張キャラバン隊」や、大学の試作開発ニーズと市内中小企業の技術をマッチングする「試作開発促進プロジェクト」などが挙げられます。また、知的財産の利活用を促進する「知的財産交流会」や、新規事業の芽を発掘する「かわさき起業家オーディション」など、産学連携の入口から出口までを支援する多様なメニューが用意されています。※支援メニューの詳細は文末のリンクなどを参照してください。
(一社)川崎中小企業診断士会でも、各支援機関とも緊密に連携しながら産学連携支援のご相談に対応しています。

4.産学連携を始めるための実践ガイ

産学連携の意義やメリットは理解しているものの、「どのように始めればよいか分からない」という企業経営者の方も多いのではないでしょうか。以下に、初めて産学連携に取り組む際の基本的な流れをまとめました。

ステップ1|課題の明確化と整理
まずは自社が直面している技術的・経営的課題を棚卸しし、できるだけ具体的に言語化することが重要です。たとえば、「製造工程の歩留まりを改善したい」「材料の新たな加工方法を確立したい」といった内容で構いません。テーマに沿った研究機関を探索し、対話するうえでの出発点となります。

ステップ2|支援窓口への相談
上記の川崎市産業振興財団や商工会議所、大学の産学連携部門(TLO:技術移転機関やURA:ユニバーシティ・リサーチ・アドミニストレーター組織)などのウェブページから、マッチング支援情報や補助金制度を調べ、各担当窓口に気軽に相談してみることで、多方面からの支援アプロ―チ機会が広がります。

ステップ3|小さな連携から始める
いきなり共同研究に進むのではなく、まずは学術指導や短期技術相談といった簡易な形から試してみることをおすすめします。インターンシップなど学生とのカジュアルなつながりも、大学との連携という点で比較的取り組みやすい入口となるでしょう。

ステップ4|成果の活用と展開
産学連携によって得られた知見や技術は、製品開発やサービス強化だけでなく、展示会への出展、補助金申請、営業資料の強化、さらには採用活動における企業アピールなどにも活用できます。取り組みの実績は、技術的価値と同時に「信頼の証」にもなるのです。

5.まとめ:中小企業の未来をひらく“知の共創”

顧客ニーズの変化や技術進化のスピードが激しい経営環境下で中小企業が持続的な事業を展開するためには、自社の強みを独自に高めつつも、社外の知見や技術リソースを柔軟に取り入れる姿勢が不可欠です。産学連携はそのための有効な手段であり、技術開発や人材育成、新市場の開拓など、幅広い分野で成果を上げています。
まず「相談してみる」「技術指導を受けてみる」といった小さな一歩でも、確実に新たな可能性への扉が開かれていきます。地域の支援機関や大学等とつながり、現場の課題に“知の力”を掛け合わせて未来を共に切り拓く。そういった取り組みが今後の中小企業経営における大きな戦略の一つとなるでしょう。


参考リンク

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