下請法が、「取適法」に改正されました。
- 2026/2/2
- トピックス

中小企業診断士・弁護士 丸山 幸朗
1.第1 改正の背景
令和8年(2026年)1月1⽇から、いわゆる「下請法」が改正され、「中小受託取引適正化法(通称:取適法 とりてきほう)」として新たに施行されます。適用対象となる取引や事業者の範囲を拡大し、中小受託取引の公正化と受託側の中小企業の利益保護を図ることを目的としています。近年の急激な労務費、原材料費、光熱費等の上昇を受け、物価上昇を上回る賃上げを実現するためには、その原資の確保が必要ですが、そのためには取引過程全体で公平な負担分担となるような価格調整を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図ることが重要といった観点に基づいての法改正です。
第2 主要な改正の概要
1 法律名、用語の変更
「下請」という言葉には、下の立場の者に仕事を請け負わせるというような昔からの意味があるため、委託側と受託側の上下関係を連想させる側面があります。そのため、法律の正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称「中小受託取引適正化法」)、通称を下請法から取適法に変更することになりました。
また法律の名称以外にも、従来の「親事業者」は「委託事業者」に、「下請事業者」は「中小受託事業者」に変更されます。そのほかにも、「下請代金」は「製造委託等代金」に変更されます。
「下請」はもともとある一般用語(語源は江戸時代くらいからとも言われています)であること、用語が長くなって言いづらいことなどから、世間への浸透には時間がかかるかもしれません。
2 適用対象の拡大
今回の取適法への改正により、対象となる取引および事業者の対象が拡大しました。
(1)取引形態の拡大
下請法では、以下の4類型の取引が規制の対象になっていました。
製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託取適法では、さらに、「特定運送委託」(発荷主が元請運送事業者に対して製造、販売等の目的物の引渡しに必要な運送を委託する取引)が追加で規制対象として加わりました。
また、製造委託では、物品の製造などに用いられる金型のみが製造委託の対象でしたが、取適法では、木型や治具の製造委託も対象に加わりました。
(2)従業員基準の追加
従来下請法の適用は、当事者の資本金の額または出資の総額によって判断されていましたが、取適法ではこれに加えて、従業員数で判定する基準が新設されました。取引類型に応じて、従業員100人、300人といった人数を満たすかどうかで判断します。
上記の2つの改正点を含めて、適用対象を具体的に整理したものが以下の図です。

図1 取適法の対象取引
出典:公正取引委員会「取適法リーフレット」
3.新たな禁止行為の追加
従来の禁止行為に加え、今⽇の経済情勢を受けて規制が必要な行為が追加されます。
(1)協議に応じない一方的な代金決定の禁止
労務費や原材料価格、光熱費などが高騰したことを理由に、受注側が取引価格の引き上げを求めて協議を申し入れた場合、発注側は正当な理由なくこの協議を拒否することができなくなります。協議要請を無視したり、だらだら協議期⽇を先延ばししたりするようなことも規制対象となります。
要するに、価格交渉に関する機会を確保することを想定しているものです。価格上昇が担保されるわけではないので、継続的取引の実際の局面でどのように機能するかは注目です。原価等が上がっていることを説明するには、⽇ごろからあいまいな原価管理を行うのではなく、ち密な計算データを積み上げていくことが必要となるので、社内の体制整備が必要とはなります。
(2)手形払等の禁止
業界にもよりますが、中小企業の代金支払いでは約束手形が交付されることが多くありました。しかしながら、支払期⽇に手形で支払われるとその手形の期限まで実際の支払いがなされないことになり、かなり期間があくことになります。例えば末締め翌月末の60⽇期限手形払いであれば120⽇が実際の支払いまで要することになり、その期間までの手形発行先の手形不渡りのリスクを負うことになりますし、途中で資金不足になれば高い手数料を払って手形割引をする必要がありました。このように中小企業の資金繰りに与える影響が大きいことから、政府が進める約束手形廃止の方針を後押しする形で、手形による支払いが禁止されることになります(「支払遅延」に該当)。
また、そのほかの支払手段(電子記録債権や一括決済方式など)についても、支払期⽇(最長で、発注した物品等を受領した⽇から起算して60⽇以内)までに代金満額相当の現金を得ることが困難な
(3)振込手数料を負担させることの禁止
建設業界などで目にすることがありますが、工事業者への請負代金を支払う際、銀行送金の手数料は本来送金する側が負担するのですが(民法484条、485条持参債務の原則)、慣習的に送金手数料を差し引いて送金することがありました。そのような不公平な扱いが是正されることになりました。
すなわち、中小受託事業者との合意の有無にかかわらず、振込手数料を中小受託事業者に負担させ、製造委託等代金から差し引くことは違反になります(「減額」に該当)。
以上の改正点を含めて、委託事業者の4つの義務と11の遵守事項を整理したものが以下です。

図2 委託事業者の義務と遵守事項
出典:公正取引委員会「取適法リーフレット」
4.面的執行の強化
これまでは公正取引委員会や中小企業庁が違反行為に対して指導・助言を行ってきましたが、事業所管省庁の主務大臣にも指導・助言の権限が付与されます。また執行機関(公正取引委員会など)に申し出たことを理由に不利益な取扱い(報復措置)を受けた場合の情報提供先として事業所管省庁の主務大臣が追加されます。
出典:政府広報オンライン
権限の付与先等を拡大することで、取適法違反事案に関する行政の関与を強化し、法改正の実効性を担保する構造を整えようとするものです。
第3 中小企業の準備対応
自社の事業、取引内容、資本金、従業員数を確認して、新たに委託事業者として、取適法の規制主体となるかどうかを確認する必要があります。主体となるような場合は、新たに義務や禁止項目を意識した、書面の準備や受発注プロセスの改善を行う必要があります。また、支払関係でいえば、手形払いから現金払いへの支払い方法の変更を行っていくとともに、資金需要が早期化することから、資金繰りをち密に把握するため、実態に基づいた資金繰り表、ち密な事業計画の整備や、場合によっては金融機関への資金調達の準備も必要となります。業務委託先との関係でも、価格に関しては常に注意を配り、協議プロセスの段取りや実施時の記録保管など問題が生じないように準備しておく必要があります。














