経営と人生を共に支えるコンサルティング
- 2026/3/1
- 診断士の視点

中小企業診断士・FP・証券アナリスト他 山田 仁
中小企業診断士は「企業の主治医」とも呼ばれていますが、中小企業診断士がFP(ファイナンシャル・プランナー)の知識や視点を備えていることは、単なるダブルライセンスという資格の保持を超えた、きわめて実務的な価値を経営者の皆さまにもたらします。
中小企業白書によれば、日本企業の99%以上は中小企業であり、その多くがオーナー企業です。こうした企業においては、「企業(経営)」と「家計(個人)」は、理論上は分離されていても、実態としては表裏一体の関係にあり、会社の意思決定が経営者個人の人生に直結しています。
そこで、中小企業診断士として、FPの知見が経営支援においてどのように役立ち、経営者の皆さまにどのような実利をもたらすのか、以下5つの観点から整理し、お伝えいたします。
1. 資金繰り支援における「守りの財務」の強化
中小企業診断士は、損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)を分析し、企業の収益性や安全性を評価します。ここにFPの「リスクマネジメント(保険)」や「タックスプランニング(税務)」の知識が加わることで、資金繰り支援の解像度は一段と高まります。
- 保険の適正化
経営者の皆さまが、勧められるままに法人保険へ加入し、結果として固定費が過大になっているケースは少なくありません。FPの知識を活用して必要保障額を整理することで、不要な保険を見直し、キャッシュフロー改善につなげることが可能です。 - 中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)・小規模企業共済の活用
これらの制度は、「節税」と「将来への備え」を同時に実現できる有効な手段です。FPの視点で、解約時期や受取時の税務(出口戦略)まで踏まえた助言を行うことで、経営者様の「資産を守る」提案の質と信頼性が高まります。
※実務においては、税理士等の専門家と連携しながら、あくまで助言・設計の視点で関与していきます。
2. 福利厚生制度を通じた「人財定着」の支援
人手不足が深刻化する今、採用力・定着力の強化は喫緊の経営課題です。中小企業診断士は人事・労務制度の設計を支援しますが、ここにFPの知識を活かした「従業員の資産形成支援」を組み込むことが可能です。
- 企業型確定拠出年金(DC)やiDeCoの導入支援
退職金制度が未整備な中小企業においては、企業型DCの導入が福利厚生の充実につながります。FPの知見を持つ診断士は、制度設計の意図を経営者様に伝えるだけでなく、従業員様への具体的な説明を通じ、安心感を与える支援が可能です。 - 従業員向けマネーセミナーの実施
ライフプランや資産形成をテーマとした研修は、従業員の金融リテラシーを向上させます。従業員の私生活の安定は、仕事への集中力を高め、結果として組織全体の生産性向上にもつながります。
3. 経営者の皆さまとの深い信頼関係の構築
中小企業診断士の支援対象は主に「経営」という公的領域ですが、FPの視点は「家庭・お金・将来」といった私的領域にも関わります。
- 経営者に寄り添う存在
経営者の皆さまは、たとえ事業の悩みは共有できても、相続や老後資金といった個人的なテーマについては、周囲に相談しづらい立場にあります。FPの知識を持つ中小企業診断士が、公私両面を理解することで、単なる外部コンサルタントを超えた、真に信頼できるパートナーとして経営者の皆さまの支えとなります。 - 相談窓口のワンストップ化
教育資金や住宅ローンといった話題から、経営上の本質的な課題へと相談が広がることもあります。こうした場面でFPの基礎知識を備えていることは、経営者の皆さまとの対話の質を高める大きな武器になります。
4. 経営者個人のライフプランを踏まえた事業承継支援
事業承継やM&Aは、現在の中小企業支援において最も重要かつ難易度の高いテーマの一つです。中小企業診断士はビジネス面を主に支援しますが、経営者の皆さまにとって事業承継は「人生最大の意思決定」でもあります。
- 引退後の老後資金設計
「事業承継後に今の生活水準を維持できるのか」という不安は、意思決定を遅らせる大きな要因です。FPのスキルを活かせば、退職金や金融資産を踏まえた具体的な生活設計を示すことで、経営者の皆さまが安心して次の一歩を踏み出せるようなサポートが可能です。 - 相続対策・自社株対策への視点
自社株評価や納税資金の確保、生命保険の活用など、家族全体を見据えた提案が可能になります。税理士等との連携を前提としつつ、FP的視点が診断士の支援の幅を広げ、円滑なバトンタッチを実現します。
経営者の皆さまの将来不安を軽減することで、結果として事業承継支援のスピードを加速させることにもつながります。
5. 診断士としての専門性の深耕と実務への定着
このほかにFPの学習や実務で得られる知識は、診断士としての財務コンサルティング能力を飛躍的に高めています。
- 財務知識の定着
ポートフォリオ理論や現在価値(NPV)といった概念は、中小企業診断士の「財務・会計」とFPの領域で重なっています。FPの知識を持つ診断士は財務を多角的に理解でき、実務でも「生きた知識」として経営者の皆さまに提供しやすくなります。 - 最新制度への感度向上
税制や社会保険制度は頻繁に改正されます。FPとして継続的に情報をアップデートしている中小企業診断士は、補助金や経営改善提案においても、より現実的で精度の高い助言が可能です。
中小企業診断士×FPが生み出す「法人・個人兼備」のコンサルティング
中小企業診断士が「攻め(売上拡大・組織強化)」を得意とするならば、FPは「守り(資産防衛・リスク管理・生活の安定)」を得意とする存在です。
中小企業の経営において、会社の金庫と経営者の皆さまの財布は、心理的にも実質的にも密接につながっています。 診断士がFPの知見を持つことで、
- 会社の利益を生み出すだけでなく、
- その利益を、経営者や従業員の人生の安定・幸福へどう還元するか
までを一貫して描くことが可能になります。
川崎中小企業診断士会には、このようなFPの専門性を持つ中小企業診断士もおりますので、「長期的に信頼できるパートナー」として、経営者の皆さまのご相談をお待ちしています。

著者プロフィール: 齊藤 信(さいとう まこと) 齊藤中小企業診断士事務所 代表 / 法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教員 「関係性資本」を軸とした組織開発・採用支援に従事。著書に『「給与を上げても人は来ない」時代の新・採用戦略 ── 関係性資本(リレーション・キャピタル)の衝撃』などがある。














