日本の「モノ作り」雑感  

公益財団法人川崎市産業振興財団 マネージャー 森山 芳樹

私は、2年前から川崎市産業振興財団の「かわさき起業家オーディション:ビジネス・アイディアシーズ市場」事業に携わってまいりました。世の中の景気が低迷している時期ですが何とか新しい事業を開拓しようと必死で努力している企業の姿が見えてきます。単に物を作って販売するビジネスだけでなく、ITを活用した地域コミュニケーション、医療・福祉サービス業など非製造業の業種も多くなりました。しかし、まだまだ全体的にビジネスの発想が画一的ではないかと思われる点も見受けられます。

オーディション審査では、

「事業あるいは商品の特徴・強みと差別化」、

「誰に売るか(Who)、何を売るか(What)、どのように売り儲けるか(How)」というキーワードに関する内容が明確になっていることが、大きなポイントになります。

特にモノ作りに関するビジネスは技術的な面が主となり、どのように商品を売るかの面がおろそかになりがちです。モノ作りは「売れてなんぼ」です。柔軟なビジネスの考え方が必要ではないでしょうか。

[ 日本のモノ作りの思い違い ]

日本のモノ作りについては、出来上がった製品は高機能かつ高性能で競争力があると思っている人が多いと思います。昨今の発展途上国の追い上げやグローバル化の波により、技術力のみでは物が売れない状況に変わってきました。その点を理解しつつも、なかなか考えを変えられないメーカ企業が多々存在するように思います。日本人が好む製品は、世界でも売れるはずとの考えは過去のものです。

モノ作りの特徴・強みを示す「差別化」についても日本では技術面での傾向が強いと感じます。ほとんど使わないと思える機能を数多く付けることで付加価値を高くし、競争に勝とうとしています。日本ではいざ知らず、外国ではその国の文化や国民性の違いから価値観が多様です。シンプルな基本的機能でも十分と聞いております。

すなわち、モノ作りとは技術力(どうやってお客が満足できる機能と性能を有した製品を作り出すか)と販売力(お客の価値観を把握しどのように売るか)を一体化した総合システム構築です。特に後者はアイディアしだいで差別化ができる可能性が大です。

[ モノの売り方には柔軟な対応を ]

物が豊富に出回り情報があふれている現在、ユーザはだんだん賢くなってきました。そのため以前にも増して物を売るには顧客を満足させる価値観と創意工夫が肝要です。

先に示したキーワードについて考えさせられる話題を2、3紹介します。

○ 販売法に時間的要素を考える(How)

これまでの一般的な一過性の販売法では、お客は買った以後のサービス等を期待しないため、値切ることで満足度を創出するきらいがあります。そこで商品の販売価格が安くとも、その後のサービスを絡ませて時間的要素を考慮して利益を得る方法です。典型的なのはアイフォン、携帯電話等の販売法です。一昔前、携帯電話は1円で売られていました。利益は利用料、通信料から得る仕組みなのです。同様なのがパソコン用インクジェット・プリンターのインクです。リサイクルしたインクカートリッジを使っているのになぜあれほど高価なんだろうと思う人も多いでしょう。

機械装置等を売る場合でも、例えば複写機のようにその後の定期点検、コピー等の消耗品販売等を抱き合わせたサービスで差別化し利益を得る方法です。ユーザにとっては事後サービスが行き届いていると満足感を得るでしょう。

○ 誰からお金を払ってもらうか(Who)

商品を得る人とお金を払う人が異なる場合が多々あります。

このごろの若年層や子持ちの家族は経済的に困窮していますが、祖父母はお金にシビアではあるが子供や孫には甘いです。教育関連(孫への教育資金贈与非課税や、高価な学習用具や情操教育機器など)や2世帯家族による建て替え・リホームなどが考えられます。

また、一般消費者向けのBtoC商品などでも各種の大手量販店などで扱ってもらったり、サービス関連事業であれば大手販売店の集客イベント興行などに活用してもらうなど、BtoBへの売り込み法も一つの方法です。

○メイン商品に他の商品・サービスを付加して売る(What)

先の携帯電話・複写機の場合は、付加価値を時間差で売る例でした。1回きりの販売法でもメインの商品とその必需品等を抱き合わせで売る方法です。パソコンとプリンターやデジカメ、あるいは指定のプロバイダー契約などとセットで売る。ユーザにとっては何よりお徳感が芽生えます。

またこの頃の飲食チェーン店などのではセットメニューの他に、よりお客の好みに合わせて選べるトッピング方式が目立ちます。基本商品を安目にして付属品を高くする方式でもマニアにとってはカスタマイズする喜びが湧きます。

その他話は変わりますが、ネーミングもまた消費者にアピールできる要素です。インパクトのある個性的な名前がユーザの印象に残ります。例えば「写るんです」というカメラが一時爆発的にヒットしましたが、正式名称は「レンズ付フィルム」とか。

物が豊富な時代です。とかく技術革新で差別化しようとするモノ作りビジネスが一般的ですが、物を販売する手法は多様でアイディアしだいです。販売戦略の方が差別化と価値観を創出しやすいと思います。よくネット販売や代理店を通して売りますという企業が多いですが、これはツールであって物を売る手法ではありません。

以上、多様なユーザに付加価値を認めて満足して買ってもらうためにも、技術と販売に柔軟な発想で斬新なアイディアを創出しましょう。

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