起業の変遷と今後の創業に思う

中小企業診断士 小谷 泰三

  • 起業意欲は社会環境によって左右される

今年は戦後70年の節目を迎えます。終戦直後は、多くの国民が毎日の暮らしに困窮する時代でした。この時期は、官公庁や戦前からあった企業に勤められた者は幸運で、職にありつけない者も多く、子供たちも稼ぎ手になって一家を支える有り様でした。このように働ける職場がない苦難の時代には、自分で仕事をつくり、知恵を活かし起業せざるを得ない時期でもありました。

その後も、産業構造の変化による不況、石油ショックやバブルがはじけた時には、リストラに合って失業した者の中には、転職先がなく止むを得ず起業した者もおりました。

高度経済成長期には、大企業や中堅企業が全国各地に工場や事業所を拡大し、これら企業の下請けとして多くの創業者が製造業や建設業を中心に起業する者が増えました。また、ニュービジネスを狙ったベンチャー企業も多く登場してきました。

モータリゼーションが進むと、タクシーや運送業で起業する者も増え、さらに卸・小売りや不動産・サービス産業も業態を変えながら、新たな創業や起業家が台頭してきました。

これらの事業で成功を勝ち得た新規企業が大規模化する一方で、個人の小規模店舗は廃業に追い込まれ、街の商店街には多くのシャッター通りが出現する事態にもなりました。

また、円高を契機として、グローバル化といわれる時代になると、大企業や中堅企業の製造業を中心として、海外に生産拠点をシフトしたため、これについて行くことができない下請けの企業を中心に廃業に追い込まれた企業も増えてきました。

1980年後半からの通信・IT化時代になると多くのソフトウエアーや映像関連企業が増えてきました。昨今では、インターネットの普及により、Web関連事業や通販事業での企業が多く台頭してきています。

高齢化社会に突入した現在においては、後継者問題や環境の変化で事業を継続しても商売が成り立つ目途が立たず、廃業する企業が増えてきました。これに対し開業はどうかと言いますと、介護や福祉事業関係のビジネスの立ち上げが目立っていますが、全体では低調に推移したままです。

現在の若者の多くはチャレンジ精神に欠けるように育ってきており、就業意思はあるのですが、起業家として独立して事業を行なおうとする気概にかけているように感じられます。

しかし、このような状況に対し、若者に創業意欲がないと決めつけるわけにいかない側面もあります。独立して創業を行う企業が3年もたたない内に失敗した場合の保障(企業への就職機会を含め)や再チャレンジの機会が少なく、国や行政の制度として支援制度が確立されていないことも一因ではないでしょうか。

独立し創業した個人の年間所得が300万円台で推移している割合が7割にも達する現状では、創業意欲は沸かず、サラリーマンの道を選択する方が安全であると考える人達が多いのもうなずけます。景気が上向き始めた現在、この傾向にさらに拍車がかかるものと思われます。

一方で夫婦共働きの時代となり、独身女性が増えている昨今、女性の創業率は着実に増えてきています。これは、国や地方自治体が積極的に創業支援のための予算を確保し、創業セミナーやビジネス・オーディション等が頻繁に実施されている中で、女性の創業に特に力を入れている結果とも言えます。

 

  • 産業構造の変化に伴う創業の職種

上述したように、戦後から現在まで時代の変化と共に産業構造にも大きな変化がありました。終戦直後は、第1次産業、第2次産業、第3次産業のバランスがとれていましたが、高度経済成長の時代は、その牽引役であった製造業の飛躍的な伸びで、大企業の裾野産業の担い手となった業種に多くの起業家が参入しています。

我が国の製造業のリーディング産業は、繊維、鉄鋼、非鉄金属、化学、機械、電機機器、エレクトロニクス、自動車の順に産業構造の高度化を成し遂げてきました。この過程で機械部品の加工、電機・エレクトロニクス部品の生産、検査機器の開発、IT・通信産業分野で創業する者が目立ちました。

1970年以降、製造業の割合が毎年減少していますが、戦後一貫して伸びてきたのが第3次産業です。その中でもサービス業のシェアが毎年伸びており、創業の多くもこれらの小規模企業での職種が増えています。

今後は人口減少や高齢化社会の中で、福祉・介護、医療、身の回りサービス、通販やオムニチャネルを活用したWebでのビジネス、士業ビジネス、第六次産業の担い手となるビジネス等での創業、ロボット技術やハイテク技術を応用した分野での起業家が多く出てくるものと予想されます。

 

  • 国の創業施策と今後の課題

我が国の開業率が欧米の半分の5%以下に留まっており、特に地方での開業率が低迷している状況を踏まえ民間活力を高めるため、平成26年1月に「産業競争力強化法」が施行されました。

川崎市は同年3月に、「産業競争力強化法に基づく創業支援事業計画」が認定されました。ここでの創業支援事業者は、財)川崎市産業振興財団、川崎商工会議所、ケーエスピー、NPOぐらすかわさき、インキュベーション施設のKBIC、THINK、明大地域産学連携センターと地元の金融機関5行が連携したものとなっています。さらに、特定創業支援事業として、アジア起業家養成塾、商人デビュー塾、女性起業家ビギナーズサロン、かわさき起業家オーディション等々が含まれています。

川崎市では、このように創業を目指す人にとって非常の多くの機会が設けられており感心しています。

また、昨年から中小企業庁の「地域創業促進支援事業」として、創業スクール(5日間)が全国各地で2回程度開催されました。

このように、創業を志す人のための施策は、従来に比べ経産省や地方自治体での予算枠が充実してきましたが、どうも創業しようとして創業セミナーや相談に来られる方の創業を目指す職種が偏っている傾向にあるように見られます。大半が生活に密着した身の回りに関係するサービス業や飲食かWeb関係の創業志願者です。

しかし、これら事業開始後の展開を考えると、雇用の増大にはあまり貢献しないこじんまりとした職種を選んでいるといえます。

つまり国家として、また、地域としてどのような分野の職種の創業を伸ばしていくのかの戦略が欠如しており、創業に対する補助金等のバラマキになってはいないでしょうか。

現在、創業を志している者に対し、創業の具体的な事業計画のつくり方・手続き、事業遂行のマネジメントや資金繰り等のセミナーやサポートに多くの予算が使われていますが、その前に、我が国としての産業のあるべき姿を各省庁の枠を超えて総合的に見直す仕組みをつくり、我が国としてどのような産業分野での起業を誘導するかのガイドラインを公表し、その線にそった職業を目指す人材の育成や新しい技術が習得・経験できる大学・高等専門学校を含めての教育機関および訓練施設の見直しが必要ではないでしょうか。

同時に創業後努力したにもかかわらず失敗した時の救済策も確立しておくことが大切だと考えます。

我が国からモノづくりに携わる人の第2次産業や第1次産業の就業比率が減少していくのは寂しい限りです。

世界にも輸出できる地域資源の活用によるモノづくり、第6次産業の育成、環境・エネルギー、ハイテクや人工知能の応用したニュービジネス、福祉・介護分野等での若者のベンチャー精神に溢れる起業と同時にシニア層の事業経験に裏打ちされた起業に活力を与えることにより、日本に更なる経済成長がもたらされるでしょう。

最後に、グローバル化時代の創業として、日本国内においてもっと外国人が起業し易い制度の導入や環境整備が必要であると共に、我々も海外に出て起業がしやすくなるような国や行政の支援体制による一層の充実が大切ではないでしょうか。

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