「営業の基本を見直してみよう」

中小企業診断士 齊藤 拓

2016年度中小企業白書は、企業を「起業・成長・成熟・衰退」の段階別に課題を捉えている点が1つの特長ですが、その中で成熟段階にある(多くの中小企業がこの段階ではないかと思われます)企業が最も期待するサービスとして上げられているのが「販路・仕入れ先拡大支援」になっています。

実際多くの経営者にとって、「販路拡大」「売り上げ増」引いては「営業力強化」は切実な課題でしょう。海外に展開できるならともかく、内需中心であれば需要は先細りデフレの懸念も深まる中では当然のことと言えます。

私自身、中堅・中小企業向けのコンサルタント企業に勤務し、また中小企業診断士として活動する中、特に食品系を中心にした内需企業で、固定顧客を訪問するルート営業を主体として営業支援を行ってきた経験が多く、尚更新規に顧客を開拓することは困難さも理解はしております。ただ同時に私が感じていたのは、意外とごく当たり前のことができていないのではないかという点です。

具体的な話として、実際にあった事例を以下に挙げていきましょう。

 ケース1:営業としてのマナーを教える場を設けていない

ある中小企業の営業研修を行った際のことです。ロールプレイングを行ってみたころ、新卒で入社2年目の営業マンの名刺の出し方が反対だった(相手が受け取ってそのまま読める方向で渡すはずが、逆になっていた)ことがありました。

それぞれの企業なりに、お客様は違うでしょう。B To Bの場合でも、企業の購買担当者であったり、スーパーのバイヤーであったりするかもしれません。ただ私が感じているのはどういうケースであれ、それらのお客様は「そのビジネス・商売におけるプロ」であると同時に、「営業を見抜くプロ」であるということです。

それこそ町の小売の個人店主で商売一筋という方でも、何年・何十年と現在まで経営を続けていれば、取引先や金融機関など、数多くの企業の営業担当者と今まで接してきています。その中には経験を積み洗練された人もいれば、成長途上の人もいたはずで、振る舞い一つからでも営業のレベルを読む鍛錬を、日常的に積んでいる訳です。そういうお客様に「こいつは名刺の出し方も知らないのか」と思われては、商談が成立するはずはありません。

この場合、出し方を知らなかった営業に罪はなく、また経営者もその点を自覚したからこそ研修を行った訳ですが、そういう基本がきちんとできているのかは会社の営業全体のレベルに関わってきます。

ケース2:体を動かすことが仕事だと思っている

中小企業でも、他都道府県に顧客を持つケースは少なくないと思われます。

たとえば川崎から静岡まで車で移動して、そこで1社面談して一泊します。翌日は岐阜まで行って、1社面談してから名古屋に移動しまた一泊。更に翌日はその名古屋で面談し、その日の夕方に自宅に直帰したとしましょう。

往々にしてこういう場合、本人は「大変な長距離を移動し、大仕事をした」と思っているのですが、現実には3日間で訪問したのは3社。それでも受注に向けての前向きな商談のためならともかく、単に得意先への顔見せだけだったとすれば、時間と経費に比べ見合った対価があったか、疑問と言わざるを得ません。

営業の行動はある程度自由裁量であり、上記のようなケースでも

「大事なお客様で定期的に顔を出さなければならない」

必要もあるのかと考えると、経営者や上司もなかなか指導できないこともあります。だからこそ営業マン自らが、自分の動きがどう数字に結びつくかを考える必要があります。

 ケース3:予定が立てられていない(あるいは予定通りに訪問していない)

「携帯電話でお客様から呼び出しがあったから、すぐに行きます」

「お客様のところに行ったら○○を要望されたので、調整のため会社に戻ってきました。」

というようなケースはないでしょうか。

無論クイックレスポンスは大切ですが、本来営業にはその日その時点でやらなければいけない仕事があるはずで、トラブル等切迫性があるならともかく、言われたままに動いているのでは却ってお客様から伝書鳩扱いされて終わる危険もあります。

実は販路開拓がなかなかできないとお悩みの企業の経営者とお話をさせていただきますと、上記のような動きが中心で、訪問予定の管理が甘いのではないかと思われるケースがままあります。販路開拓のためには、つらい仕事だとしても時には飛び込み的な活動も、必要にはなってきます。そのためには

「今週は何曜日に、どこに行く」

「週に1回は必ず新規訪問の日をつくる」

とスケジュールを明確化しないと、目の前の仕事にかまけて嫌なことは先延ばしという結果になりかねません。

上記の事例は、余りに極端な例にうつるかもしれません。個々の企業は懸命に売り上げを上げるために努力し、それぞれの営業担当者も必死にがんばってはいるのでしょうが、基本的な部分が抜け落ちてはいないか、取り組む方向性が誤っていないかを、一度機会を設けて洗い出してみられてはいかがでしょうか。

なお営業強化に関しては、セミナーも行う予定です。ご興味をお持ちの方はそちらの案内も、ご覧いただければと存じます。

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