「中小M&Aガイドライン-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」のご紹介

中小企業診断士・弁護士 丸山 幸朗

「中小M&Aガイドライン」の趣旨・目的

近年、日本社会を支えてきた中小企業は、その経営者の高齢化により、当該企業の事業をどのような形で永続的に継続していくかという事業承継が話題となっておりますが、後継者不在の中小企業にとっては、いつまでも現経営者が経営を継続できるわけではなく、道筋の見えない頭の痛い問題です。

M&Aを通じた第三者への事業の引継ぎは、事業承継の重要な手法の一つですが、中小企業経営者の中には、M&Aに関する知見を有しておらず、「後ろめたい」、「従業員に申し訳ない」などというネガティブな意識があること、M&Aという取引自体が縁遠い印象があることなどから、長年経営してきた自社を第三者に「売る」ことを躊躇するケースも存在します。

しかしながら、この度のコロナショック等の影響により、事業劣化を防ぐため早期の第三者の支援による事業承継の必要性はますます増大しており、そのようなM&Aに対するネガティブな認識自体を変えていく必要があり、一方、M&Aは、社外の第三者である譲受側が、譲渡側の事業における、技術力や優良な取引先との人脈・商流、優秀な従業員、地域内・業界内における知名度・ブランド・信用、店舗網、ノウハウ、事業分野の将来性等を強みとして評価して認めることで初めて実現されるので、適正な手続き、譲渡価額に基づくM&Aは「むしろ誇らしい」ことであると考えられます。また、中小企業におけるM&Aが円滑に促進されるためには、仲介業者や金融機関などのM&A支援機関が、早期かつ最善のタイミングで、当事者が納得のいく適切な手法により支援を実施することが重要です。

そこで、こうした現状を踏まえ、経済産業省では、昨年12月20日に策定・公表した「第三者承継支援総合パッケージ」に基づき、平成27年策定の「事業引継ぎガイドライン」を全面改訂し、本年3月31日に「中小M&Aガイドライン」を公表しました。

「事業引継ぎガイドライン」が、事業引継ぎ支援センターでの業務内容を紹介するようなものであったのに対し、今回の「中小M&Aガイドライン」は、それに限らず、民間での業務についての重要な指針となる注意点を含むようなものとなっております。従って、現状においては、法的な強制力はないものの、世間全体における中小企業のM&Aの在り方を示し、支援機関のとるべき行動についての記載があること、M&A分野における個別の法規が存在しないことなどから、M&Aに関する紛争が生じた場合は、裁判所の判断基準として作用すると思われ、大変重要と考えられます。

図表1 中小M&Aガイドラインの概要

概要資料(https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200331001/20200331001-1.pdf)P1より転記

「第1章 後継者不在の中小企業向けの手引き」

こちらの章では、まずは、中小企業のM&A事例を紹介しながら、M&Aを考える経営者に対して、既に述べたようなM&Aに関する意識改革の必要性や、M&Aの注意点を説明したうえで、全体の手続きの流れを記載しています。紹介されている事例の一部は、以下のようなものです。

図表2 中小M&AガイドラインP20以下にて紹介される中小M&Aの一部事例

事例タイプ備考
小規模企業・個人事業主において中小 M&A が成立した事例売上高3000万円、従業員3名程度の事業で、売上5億円の企業へ譲渡など
経営状況が良好でない中小企業において中小 M&A が成立した事例負債20億、債務超過。中小企業再生支援協議会の手続きを活用し、スポンサーを見つけ譲渡など
親族内承継の頓挫から中小 M&A に移行し成立した事例売上1億、従業員5名程度の事業で、事業引継ぎ支援センターで譲渡先を見つけたなど
意思決定のタイミングが中小 M&A の成立内容に影響を与えた事例譲渡の決断が遅れ、業績が低迷したところで譲渡することになり、譲渡金額が低下したなど
譲渡側の条件の明確化が中小 M&A の成立に寄与した事例従業員の雇用継続、譲渡側経営者の関与継続が条件となった場合など
何らかの理由により中小 M&A が成立しなかった事例着手が遅れ資金繰り破綻、情報漏洩、内部紛争、対応不誠実など

手続きの全体的な流れとしては、以下のように、局面の時系列に沿って説明がなされています。

  1. 意思決定
  2. 仲介者・FA(ファイナンシャル・アドバイザー)等を選定するかどうか
  3. バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)
  4. 譲受側の選定(マッチング)
  5. 交渉
  6. 基本合意の締結
  7. デュー・デリジェンス(DD)
  8. 最終契約の締結
  9. クロージング
  10. クロージング後(ポストM&A)

一方、M&Aに取り組むにあたり、経営者の側で準備、考えておくべきことも記載されています。

  1. 支援機関への相談
  2. 後継者不在であることの確認
  3. 引退後のビジョンや希望条件の検討
  4. 事業の「見える化」(経営状況・経営課題等の現状把握)、「磨き上げ」(事業承継に向けた経営改善等)、株式・事業用資産等の整理・集約

また、M&A業者の手数料に関しても、概要説明がなされています。手数料の種類としては、以下のようなものがあげられています。

  • 着手金(主に仲介契約・FA 契約締結時に支払う)
  • 月額報酬(主に一定額を毎月支払う)
  • 中間金(例えば基本合意締結時等、案件完了前の一定の時点に支払う)
  • 成功報酬(主にクロージング時等の案件完了時に支払う)

手数料額の決め方としては、以下のようなものがあげられています。

  • 譲渡額
  • 移動純資産額
  • 純資産額
  • レーマン方式
    (「基準となる価額」に応じて変動する各階層の「乗じる割合」を、各階層の「基準となる価額」に該当する各部分にそれぞれ乗じた金額を合算して、報酬を算定する手法。例えば5億円以下の部分 5%、5億円超10億円以下の部分 4%など。)

ただし、これらはあくまで例示に過ぎず、手数料の金額や体系は、各仲介者・FAにより異なり、受任のための最低限度額のような基準がある場合もあります。 なお、手数料に関する具体的な算定事例の紹介もなされており、大変参考になります。

「第2章 支援機関向けの基本事項」

多くの中小企業は、M&A についての専門知識を有しないため、仮に中小 M&A に関心があるとしても、具体的にどのように行動すれば良いか分からず、結局そのまま中小 M&A を断念してしまうことがあります。そのため、各支援機関は、それぞれの分野の専門家として、「中小企業の意思決定やその後の諸手続の段階において適正なサポートを行うことにより、我が国における中小 M&A の促進に資する役割」が期待されています。また、その際、依頼者(顧客)である中小企業が、支援機関の専門的な業務や手数料の妥当性等について、一般的には適切に判断することが困難である現状を踏まえ、「依頼者(顧客)の利益に真に忠実に動くことが求められる点を改めて認識する必要がある。」「中小 M&A の手続の各段階で、重要な判断を依頼者(顧客)に求める場合には、十分に説明して納得を得た上で進める必要がある。」として、専門家の行動に対して警鐘を鳴らしています。また、支援機関それぞれの役割の違いから、必要に応じ、他の支援機関と積極的に連携することが求められています。

各支援機関について、それぞれの支援の特色や留意すべき点について記載されていますが、ここでは、中小企業の立場では一番なじみがないと思われる、M&A事業者について、特にご紹介いたします。

M&A事業者は、「M&A の仲介業務や FA 業務に従事する専門業者であり、中小M&A の実現にとって重要な役割を有する支援機関」とされる一方で、士業等の専門家や不動産取引の場合の不動産業者と異なり、許可制・免許制等の仕組みや、一般的な法規制が存在しておらず、支援経験や知見が乏しい事業者の場合、適切に業務が進められないおそれが指摘されています。そのため、中小 M&A 市場における透明性・公正性の確保を目的に、前述の各手続き段階においてM&A事業者が対応すべき具体的な行動指針が示されています。

また、特にM&A仲介に関しては、その形態そのものに起因する利益相反のリスク(例えば、リピーターになり得る譲受側の利益を優先して取引をまとめるように動く動機があるという構造的な問題や、譲渡額が増加すると、連動して仲介者・FA の手数料も増加する形になるため、逆に譲渡側の利益を優先することがありうるなど。)。を最小限とするため、以下のような措置を講じることが求められています。

  • 譲渡側・譲受側に仲介契約を締結する仲介者であることを伝えること。
  • バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)、デュー・ディリジェンス(DD)といった、一方当事者の意向を踏まえた内容となりやすい工程に係る結論を決定しないこと
  • 利益相反のおそれがあると想定される事項について、各当事者に対し、明示的に説明を行うこと。

さらに、並行して他の M&A事業者への依頼を行うことを禁止する条項(専任条項)について、一定の合理性を認めつつも、中小企業が適切に判断できるよう、その対象範囲を可能な限り限定すべきとしています。

終わりに

このガイドラインは、本編だけでも88ページ、資料も74ページあるので、かなり大部になりますが、ご紹介した内容以外にも、M&Aに関する基本的な用語や手法の紹介、契約締結時のチェックリスト、各種契約のサンプルもまとまって記載されており、非常に有用であると思います。

後継者不在に悩む中小企業が、その解決の一手段として、 M&Aに関心を持った際には、公的な参考資料として貴重なものですので、まずは、ぜひご一読いただくことをお勧めいたします。

本年9月4日には、漫画を使ってガイドラインの内容をより分かりやすくする「中小M&Aハンドブック」が発表されていますので、併せてご参照ください。

図表3 中小M&Aハンドブック表紙

なお、中小企業の事業再編・事業統合等に伴う経費の一部を補助する、「経営資源引継ぎ補助金」においては、仲介業者やFAなど専門家等を利用する場合の委託費等が補助対象経費となっております。M&Aを検討する場合、補助金活用の可能性についてもアンテナを張っておくとよいと思われます。

参考:いずれも経済産業省ホームページより
   ・中小M&Aガイドライン~第三者への円滑な事業引継ぎに向けて~
   ・中小M&Aガイドライン参考資料
   ・概要資料
   ・中小M&Aハンドブック

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