ウッドショックを通じて見えてきたこと

中小企業診断士・事業承継士 沼田 和広

はじめに

新型コロナウイルス感染症の流行が長期化しています。封じ込めやワクチン接種によって、経済活動を再開し日常を取り戻しつつある国がある一方で、未だに、感染者の増加や医療の逼迫に苦しんでいる国もあります。コロナ禍は、私たちの日常を破壊しただけでなく、今まで当然と考えていた仕組みや構造の矛盾や問題を炙り出し機能不全に陥れました。ここでは、ウッドショックを取り上げて、そこから見えてきたことを考察してみます。

ウッドショックとその原因について

「ウッドショック」とは、今年3月頃から顕在化した輸入木材価格の高騰のことをいいます。米国では新型コロナウイルス対策で政策金利を引き下げ、住宅ローン金利も大幅に低下しました。ミレニアル世代(1980年代初め~1990年代に生まれた世代)の住宅購入に加え、コロナ禍での在宅勤務・テレワークの増加による都心の集合住宅から郊外の一戸建てへの移転等が重なったことで、住宅需要が急拡大しています。加えて、欧州諸国やいち早くコロナ禍を抑え込んだ中国での木材需要の回復が、世界的な木材需要の増加に拍車をかけています。

需要の増加だけではなく、供給側にも問題が生じています。キクイムシ(地球温暖化で大量発生)の被害による森林の減少、コロナ禍で労働者が減ったことに拠る製材所の稼働率低下等です。さらに、ワクチン接種が進み、先進国の経済活動が回復・活発化してきたことで、物流の停滞が深刻化しています。コンテナ輸送量が増えたのに、コロナ禍で港湾労働者が不足し荷揚げができずコンテナ船が港で待機する等、コンテナが大量に滞留して空コンテナが不足し、コンテナ船の運賃の上昇を招いています。

国産材への代替が難しい理由は

日本の森林率(国土面積に占める森林面積の割合)は67%(2017年3月31日現在、林野庁)で、国土の2/3が森林ということです。一方、木材自給率は、2011年から9年連続で上昇しているものの、37.8%(林野庁「令和元年(2019年)木材需給表」)に留まっています。

国産材で代替できる余地がありそうですが、そこには構造的な問題があります。日本の森林は、日中戦争や太平洋戦争等で軍需物資として大量に伐採されたうえ、戦後は消失した木材住宅の復興でさらに伐採が進みました。木材不足を補うために、国を挙げて造林事業を行い全国でスギやヒノキなどの植林が行われましたが、木材は生育期間が長いため、植林してから市場に出すまでに40年程度かかります。その間、徐々に安価な輸入木材が増えてくることで、国産材の価格が下落し林業経営の採算が悪化しました。その結果、山林の手入れ(間伐等)が行き届かず、山林が荒れ、スギ等の樹木の生育に悪影響をもたらすと共に、林業従事者の世代交代が進まず、高齢化により林業が衰退するという悪循環をもたらしています。

木造住宅の構造には、在来工法(木造軸組工法)とツーバイフォー工法(枠組壁工法)の2種類があります。この内、在来工法では、柱と梁を組んで家の骨組みをつくりますが、間取りの自由度が高いこともあって、梁には高い強度と多様な寸法が求められます。国産の木材には梁に適したものが少ないため、ベイマツ製材やレッドウッド集成材といった輸入材を使うことになります。

住宅メーカーにとっては、輸入材の強度を前提に構造設計をしていることもあり、供給体制が不十分な国産材に切り替える必要性は乏しいことになります。

ウッドショックの影響が日本で大きい理由は

日本は木材の品質基準が厳しく、寸法体系も複雑なのに、価格が相対的に安いため、輸出国にとっては面倒な市場でした。それでも、安定した購入数量があることから高い品質に合わせた製品を製造・供給して貰えました。ウッドショックで米国や中国の需要が増えたことで、面倒な日本市場向けの優先順位は下がってしまいました。物流を含めた供給体制が平時に戻り、米中の需要が一段落し、日本市場向けの生産ラインが動き出すまでは、この状況が続きそうです。

ウッドショックを通じて見えてきたこと

ウッドショックは、住宅業界へ大きな影響を及ぼしていますが、問題の本質は、住宅業界だけにあるのではなく、既に述べたように、日本の林業の構造的な問題に起因しているといえます。さらに、地球温暖化(キクイムシの例)や経済のグローバル化(物流停滞の例)といった様々な要素が絡み合った「複雑系」の一要素と考えることもできます。

原因を突き詰めていくと、確かに、主たる要因はいくつか挙げられるものの、その因果関係は必ずしも明確ではありません。「VUCA(ブーカ)」という言葉があります。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つのキーワードの頭文字をとった造語で、現代のカオス化した経営環境(「予測不能な状態」)を示す言葉です。ウッドショックは、VUCA時代に起きた一つの事象と捉えることもできます。

ここまで、ウッドショックについて考察してきましたが、コロナ禍で、既存の仕組みや構造の矛盾や問題がいろいろと顕在化してきました。例えば、世界的な半導体の不足や日本のワクチン調達・接種です。これらの事象についても、構造的な問題と複雑系の一要素という2つの側面から考察することができると思います。

VUCA時代で求められる方向感覚とは

グローバル化・最適化を目指してきた経済システムは、地球温暖化や感染症のパンデミック(世界的大流行)で、その脆弱性が露になってきました。その中に組込まれた企業はどこを目指していけばよいのでしょうか。大企業でさえも厳しい状況にあるのに、中小企業は大海の中を漂う小舟のように荒波に翻弄されているというのが現実の感覚だと思います。実際のところ、私の知り合いの中小企業経営者の多くは、目の前の仕事を熟すことで、何とか売上・利益を確保し、資金繰りを保っています。

日々の仕事に集中することは当然ですが、時には、長期の視点で、自社が身をおく業界の構造やその行く末を考えてみてはいかがでしょうか。短期・中期とは異なり、長期の視点で方向性を考える場合に参考になるのは、知識や経験ではなく、歴史ではないでしょうか。ドイツの名宰相オットー・フォン・ビスマルクは「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉を残しています。

超長期の歴史観の視点では、ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』をお勧めします。私は、昨年、コロナ禍で閑暇を得て本書を初めて読みました。人類の文明がなぜ多様な発展を遂げたのか、なぜ世界の地域間で甚だしい不均衡がみられる現在の形に至ったのかを、過去13,000年の人類史を科学的な手法で考察・分析しています。この過程で、病原菌(感染症)が壊滅的・決定的な役割を果たしています。現在の新型コロナウイルス感染症のパンデミックにも重なってきます。

日々の業務に邁進しつつ、どこかで、歴史を俯瞰するような長期の視点を頭の片隅に残しておくことを意識してはいかがでしょうか。

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