米中関税戦争と新型ビールス危機が迫る世界のサプライチェーン見直し

市川 南

グローバル・サプライチェーン(GSC)

消費者ニーズが多様化し、他方で加工・生産に係わる国や地域が格段に増加しています。また、途上国を含め高速交通網、情報通信技術の進歩、大規模配送拠点整備が進み、ジャストインタイム時代の高度な生産・物流システムが発達を遂げています。そこで、多国籍企業など中央の発注主体の指示で、より低いコストと付加価の最大化を求め、世界の多数の国や地域を跨いで、部品、中間製品などの財が、バトンリレーよろしく多数の国や地域の事業者の間を受け継ぐ、グローバル・サプライチェーン(GSC)が日進月歩で深化しつつあります。

この結果、中間製品や部品の製造加工に携わる個々の事業者には、自社がチェーンのどの位置にいるかさえ分かりにくくなっていると思います。例えば、アップル社の発表で、あのiPhoneの主要なサプライヤーは主要な事業者だけで、中国、台湾、日本、韓国を始めなど200超に及ぶとされています。これが、自動車となると、さらに多くの企業が関与する巨大なサプライチェーンになります。そこで、災害などで一部に加工・生産・物流の遅延が集中的に発生すると、全体の製造のプロセスに甚大な混乱が起こることは、タイ水害や、3.11の記憶で明らかですが、その影響は、この20年、10年の間に格段に巨大化しています。 

最近、GSCが持つ深刻なリスクを考えさせる深刻な事態が起きています。

一つは、一昨年来の米中貿易摩擦で中国のハイテク製品等にかけられる米国の対中高関税です。次に、今年の正月気分を吹き飛ばす中国の主要生産基地の湖北省に発した新型肺炎ウイルス蔓延で、「世界の工場」中国を襲った深刻な生産麻痺です。

米中貿易摩擦

米トランプ大統領は、2018年3月に、「中国による不公平な貿易・投資慣行」の抑制を理由に鉄鋼、アルミ輸入制限を皮切りに、次いで、この年7月から8月にかけ、高まる米議会からの対中強硬姿勢を受けて、「中国による知的財産権侵害」への制裁として、自動車、ロボット、半導体、鉄道など併せて500億米ドル相当の追加関税を発動。同様に国内事情を抱える中国も対抗関税で応じることで、対立はエスカレートし、両国のメディアが「米中戦争勃発」と見出しする深刻な対立に発展しました。

その後も、米中とも関税合戦が国内経済への悪影響が懸念される中で、断続的な貿易協議と水面下の交渉が続けられたものの、米国企業に対する技術移転強要や、ハイテク産業への巨額補助金の抑制を求める強硬な、米国議会の主張の高まりを背景に、19年9月には、「米中協議に大きな進展が見られない」ことを理由に、家電・家具・衣料品など2000億ドル相当の第3弾の追加関税を発動。この段階で制裁関税は対中輸入実績の半分に達しました。

本格的な大統領選挙入りを控えるトランプ大統領は、知的財産権で譲歩を渋る中国に対し、残り2500億ドルに及ぶ第4弾の追加関税実施をチラつかせ、貿易協議の最終的決着を迫りましたが、本年初には大統領選挙日程を睨んで、一転、「第1段階の合意」として、2年に及ぶ米中貿易協議は矛を収めた形となりました。でも、ハイテク覇権を死守せよとの米国内世論は冷却はありえず、知的財産権保護を巡る米中対立は熾烈化・長期化必至の情勢です。

ここで、「世界の工場」の中国にとり最大市場である米国が課す高率関税は、ここまでで十分な打撃となっていること必至で、中国で生産する外資も中国企業自体も関税回避のためにベトナム、タイなど周辺国への生産シフトへの大きな流れができつつあるといい、GSCの視点からするとスマホ、パソコン、カメラ、TV、自動車、半導体など中国が世界トップレベルのシェアを持つ中国ですから、台湾、韓国、日本、米国など世界に広がるサプライチェーンの根本的な組み換えを必要とする深刻な事態と言えます。単なる海外生産から進化し、複雑な加工組み立ての国境を跨いだ製造・加工の連鎖で大きなシェアを持つ中国市場が乙経済・政治リスクは、チェーン参加企業の苦渋の戦略転換を迫る事態だと思います。

中国で猛威を振るった新型肺炎ウイルス

昨年末以来、猛威を振るう新型コロナウイルスですが、自動車産業や半導体産業が集積する湖北省・武漢に発し、さらに南北・東西の交通の要衝に位置して、広東・上海・浙江などハイテク産業の大生産地に近いという最悪条件に見舞われて、米・台・日・韓などの外資の生産拠点も多く、工場の閉鎖や流通網の遮断などが、自動車、スマホ、半導体など、グローバルなサプライチェーンに深刻な打撃をもたらしているようです。ひいては、中国経済、世界経済に深刻な影響を与えることが懸念されます

ここで、中国でのウイルスによる世界産業への影響と言えば、2003年のSARSが思い出されますが、この時と中国の生産シェアは格段に大きくなったことに加え、商品が高度化し、関係する企業は多く、複雑なチェーンを移動するようになっています。従って、ごく一部の加工を担当する企業で生産停止する場合でも、全体の生産に大混乱を与える確率がそれだけ大きくなっているということです。また、同等の代替企業を見つけることも容易でなくなっていると思います。それが、深化したGSCの大きなリスクだと思います。

見直しを迫られるGSC

以上、低コストと付加価値最大化を追及し、深化を遂げるGSCですが、その陰に潜む、リスクが高まっていることをご説明しました。その発注者であり司令塔となっている多国籍企業なども、米中貿易摩擦や新型肺炎ビールスの衝撃もあり、製造大国に成長した中国での製造を巡って、GSCの在り方につき根本的な再検討が行われていること必然です。

それでも、衰えたり雖も巨大市場の魅力は捨てられず、製造加工のもろもろの優位性が簡単に失われるわけでもないことも、実情です。 ❒GSCに何らかの形で組み込まれる企業のお立場としては、そのサプライチェーンの中での自社の位置を明確にしながら、この観点に立ったビジネスリスクの分散や、一層の事業継続計画(BCP)対策の万全を図っていくことが大事になっていると感じます。

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