スピーチ上手になる「緊張せずに、伝わる、信頼される話し方」

中小企業診断士 古山 亮一

【はじめに】

「人前で話す」ことに苦手意識をお持ちの方は多いのではないでしょうか。

筆者も人前で話すことは苦手です。20年以上前、親友の結婚式のスピーチで準備不足でしどろもどろになり大失敗したことは大きなトラウマです。自分が発表をしなければならない場面では、順番が近付くとドキドキが止まらなくなります。会議中に意見を求められる場面では、ノープランで話し出し、自分でも何を言っているのかわからなくなることもしばしば。そのため、私は極力「人前で話す」ことを避けてきました。しかし、中小企業診断士になり、セミナーや研究会など人前で話す機会が増えてしまいました。「人前で話す」ことが苦手だ、とは言っていられなくなり、克服しなければならなくなりました。そこで、話し方の本を読み、話し方の教室に通いました。練習を繰り返すうちに、私は少しづつ人前で話すコツをつかみ、苦手意識は薄れていきました。

「人前で話す」スキルは経営者にも必要だと思います。ここでは、「人前で話す」話し方についてマインドセットや内容、声について考えていきます。

【なぜ緊張するのか】

なぜ、人前で話をするときに緊張するのでしょうか。コーヒーを飲みながら家族や友人と他愛のないおしゃべりをするときは、同じ「話」をしているのに緊張しませんよね。

人は経験のないことや苦手意識があることにネガティブな感情を抱きます。「大勢の人の前で恥をかきたくない」「大事な会議なので失敗してはいけない」などと考え構えてしまいます。そして、上手く話せない、失敗するイメージが膨らみ、不安と恐怖に変わります。これが緊張の正体です。

【スピーチで緊張しないコツ】

人は、経験のないことに不安や恐怖を抱くと述べました。では、何度も「人前で話す」を経験すれば緊張しなくなるのでしょうか。残念ながら、それはちょっと違うようです。なぜなら、何度も「人前で話す」を経験しているのに、経験すればするほど失敗を重ね、余計に「話すのが苦手」になっていく人が大勢いるからです。それらの人は、緊張を自ら生み出し、それが不安と恐怖に変わりどんどん膨らみ、本番では力が入り余裕がなくなり、失敗してまた不安と恐怖を抱く、という負のループに陥ってしまっているのです。

では、どうすればよいのか。緊張しない方法、それは「準備をする」ことです。「話すのが苦手」な方、失敗を繰り返す方に共通するのは、あまり準備をしていないことです。何度「人前で話す」を経験しても、準備が不足していれば失敗を繰り返します。練習を重ねる、話の内容に精通するなど怠りなく準備をすることが緊張しない唯一の対処法なのです。

準備とは具体的には、セミナーやスピーチであれば本番同様に何度も練習する。自己紹介やちょっとしたエピソードトークのネタをあらかじめ用意しておく。会議において、突然、振られたときに的確な質問やコメントが出来るように、他の人の話を聞きながら考え、忘れないようにキーワードをメモしておく、などです。準備をすることで失敗がなくなり、成功体験を繰返すことで「人前で話す」ことに自信が生まれていきます。すると自然と緊張も消えていきます。

また、「どんなに準備しても緊張してしまう」という方にお勧めするのが「開き直る」というマインドセットです。まず、「最悪の状況」を具体的にイメージします。次に、開き直ってその「最悪の状況」を受け入れます。最後に、その「最悪の状況」を少しでも改善出来るように、前向きに対処を行う、というものです。失敗した状況をできるだけ具体的に想像し、それを「きちんと受け入れる」と失敗に対する恐怖心が薄れていきます。そして、前向きに気持ちを切り替えて、失敗しないための準備を始めるのです。

さらに、「大丈夫、大丈夫!」「私は出来る!」など緊張した時に唱える言葉(コーピングマントラ)を決める、目をつぶって3分間呼吸に集中し気持ちを整える、など「落ち着くためのルーティーン」をあらかじめ決めておくことも有効です。

【話をしている最中に考えること】

例えば、今、あなたがセミナー講師で人前で話をしている最中だとします。

あなたは、片手でパソコン上のスライドを操作しながら、もう一方の手でマイクを持っています。目はスライドや補足原稿を確認しながら、時計も見て時間も意識しつつ、聴衆の反応を伺いながら口は止まることなく話を続けています。

セミナーは本番が始まってしまうと、あなたはマルチタスクの同時進行でとても忙しいのです。この状態で、「立ち振舞いに気をつけろ」とか、「聞き手の反応を見て話し方を変えろ」と要求されても対応するのは無理な話です。もし仮に、このセミナーが急遽代役で引き受けたもので、準備不足で不安を抱えており、頭の中では「ああ、どうしようどうしよう、間違えたらどうしよう」などと考えていたらどうでしょうか。脳の大部分が不安に支配されている状態ですので、さらに対応力は低下してしまいます。

本番、「話をしている最中」は、とにかく落ち着くこと、余裕をもって自分の頭と体と機器とをコントロールすることが必用です。そのためには、マイク、パソコンなどの機器の操作と動作確認、セミナーの内容熟知と練習など、事前の準備が重要になります。

【きちんと伝わる話の内容】

話の中身、内容について考えます。ポイントは、「自分が話したい」ことではなく、「相手が聞きたい」ことかどうかということです。折角時間をかけてスライドを作り何回も練習をして、バッチリ準備をしたとしても、内容が相手の聞きたいこと、興味のあることでなければ聞いてはもらえません。そのため、事前に聞き手のニーズを調べ、それにマッチした内容を準備することが重要です。

また、内容を盛り込み過ぎにも注意が必要です。伝えたいことが多すぎて、あれもこれもと欲張り詰め込んでしまうと、結局、何が伝えたかったことなのかが見えなくなります。言いたいことを詰め込むことは自己満足であり、結局、聞き手のニーズを無視することになります。

【信頼される声】

最後に、声について説明します。

人の声は、容姿以上に個性や人柄を表すと言われています。リラックスした時に出る、自分の本来の声でスピーチが出来れば、相手に信頼感を与えることができます。しかし、例えば、電話に出るときなど、人は緊張したり力が入ったりすると、声帯が絞られ声が若干高くなってしまいます。そして、音程が高くなると、感情を殺しているように、ビジネスライクに声を作っているように聞こえてしまいます。そのため、セミナーやスピーチでは1、2トーン音程を下げて話をすることをお勧めします。意識をして音程を補正することで緊張感や力みが消え、相手に信頼感を与える声で話すことが出来ます。

<参考文献>
・Dカーネギー 「話し方入門」、「道は開ける」

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