経営判断と説明について考える

中小企業診断士 中津山 恒

 本稿では、経営者に求められる経営判断と、経営層や従業員といった利害関係者に対する説明について考えます。

重要な意思決定を行う際には、置かれた状況の情報収集に努め細心の注意を払って判断を行いますが、意思決定する対象が何であれ判断は一意的ではありません。利害関係者の状況認識が一致していたとしても、どのような目標を設定し、どのように進んでいくかは、魔法のような論理でひとつに定まるものではないからです。

経営判断においては、相容れない2つの選択肢の間で悩むことが多いと思います。典型的には「やる」と「やらない」の二者択一です。それぞれの選択肢に妥当な理由があることが普通なので、経営者は判断に悩みますし、結論を利害関係者に説明するのも難しくなります。

例として、小売業者が新規出店を検討している状況を考えてみます。(都合により本稿では図が掲載できないので、お手数でも紙に書いてご確認ください。)

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「D:新規出店」と「D’:現状維持」(=新規出店しない)について、理由を吟味します。新規出店の理由には「B:収益拡大」、現状維持の理由には「C:事業安定」が挙げられるでしょう。新規出店では売上と利益の増大が期待され、他方、現状維持では新規出店に伴うリスクを負わないことによって事業の安定が期待されます。

さて、DとD’は対立しており一方しか成立しませんが、それぞれの理由であるBとCは「A:事業継続」という共通目的に基づいており、両立すべきであることが分かります。

次に、B←DおよびC←D’の前提について考えます。B←Dでは、新規出店により売上が増大する一方、仕入先や既存店のノウハウなどの無形資産を含めた経営資源の共通化で経費を抑制でき、利益がより増大するといった前提があります。C←D’では、既存店舗での事業継続により、リスクを負わないという前提が置かれます。言い換えれば、新規出店には、新たに雇用した場合はノウハウをもった人材を確保できない、運営コストが膨らむ、といった恐れがあると仮定されています。

しかし、経営環境の変化により、販売すべき商品が変化してきたり、既存店舗で売上を維持できなくなったりということがあれば、C←D’の前提は崩れて、新規出店が必要となります。新規出店する場合には、前述のリスクを低減するため、既存店の人員を新店に異動する、店舗運営マニュアルを作成し新店で利用する、といった解決策が必要です。

以上見てきたように、理由について吟味していくと、暗黙裡に仮定していたことが明らかになり、選択肢の好ましくない影響についても容易に見ていくことができます。難しい判断を迫られたら、ぜひ本稿のように選択肢の理由と前提を考えていただきたいと思います。

本稿で紹介した思考法は、TOC思考プロセスの対立解消図と呼ばれるものです。ご興味のある方は、ビジネス小説「ザ・ゴール2」(ISBN:4478420416)等をご覧ください。

ただし、結論を利害関係者に説明する場合には、TOC思考プロセスや対立解消図を持ち出すことは必ずしもよい結果を招かないことに留意してください。分からないことが増えると心情的には受け入れがたくなるからです。重要なことは、適切に経営判断を行い、利害関係者の理解を得ることであって、新たな方法論を学ぶことではありません。納得性を高めることを第一にお考えください。

末筆ながら、本稿が読者の皆様の経営判断の一助となれば幸いです。

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