もう1つの待機児童問題 ~学童保育の現状と市場性~

齊藤 拓

1.保育園と学童保育

この数ケ月「保育園落ちた日本死ね」というツイートが、大きな問題になっています。待機児童の増加は数十年来継続しており、今回のツイートは、その深刻さを改めて認識させたものと言えるでしょう。

行政も手をこまねいていた訳ではなく、川崎市は昨年4月、認可保育園数も合計定員数もこの6年で大幅に増加し、これで待機児童はゼロになると公表しました。しかし現実になお待機児童は存在する模様で、待機児童数の把握方法自体問題があったともされますが、いずれにせよ需要に供給が追いつかない実態にあることは間違いありません。

保育園の問題が今回大きくクローズアップされましたが、この裏にもう1つの問題が潜んでおり、それが学童保育です。

保育園は小学校入学前なのに対し、学童保育は入学後である以上、問題は異なると思われがちですが、考えてみれば、保育園の待機児童増が就業中の母親が昼間に子供を託す必要性にある以上、小学校に入学した後も変わることはありません。

実際学童保育に関しては「小1の壁」という言葉すらあります。保育園を卒園した次の関門が、学童保育への入学という訳です。

更に「小4の壁」という言葉もあります。自治体が運営する学童保育の多くは、小学校3年生までしか預からないシステムを引いていたことによるものです。平成27年4月児童福祉法が改正され、小学6年生まで児童を預かることも可能になりましたが、施設の絶対数が変わらない中で、預かる対象が増加することは、却って競争を激化させる結果となることは自明です。

2.学童保育の事業面における参入障壁

このように学童保育については、確実なニーズが存在する一方、開業に当たっては公認を得ることなく、塾などの名目で開業することも可能です。

実際学習塾やスポーツスクールが学童保育事業に参入するケースも増加しているようですが、それでも市場規模は年に数パーセントの増加に留まっているようです。需要過多の状況が継続していることは、参入する企業が少ないことの証明でしょう。

何が障壁となっているのでしょうか。

先ず、金額的には安価な公立の学童保育が存在することが挙げられます。川崎市の場合、ほとんどの小学校においてわくわくプラザという名称で、基本的には無料で児童を預かるシステムがあります。比較対象が無料では、民営の場合でも料金の上限は自ずと設定されてきます。

営業的に見ると、一般的な学童保育の預かる児童数は、厚生労働省のガイドラインでは40人以下が望ましいとされ、一人当たりおやつ代などを含めて毎月4万円を徴収しても、月間売り上げは160万円です。一方全国学童保育連絡協議会の要望では、30人の児童を預かる場合4人の指導員(常勤が複数いるという前提。つまり常勤2名と非常勤2名。シフトを考慮すればそれ以上)が必要とされています。これは提言でも、保育園児よりは心身が発達し各種の問題が生じやすいであろう学童の指導に際し、一定の人員配置は必要でしょう。

これに初期投資、地代家賃、セキュリティに要する費用、水道光熱費などを勘案すれば、採算をとることは容易ではありません。保育園同様学童保育においても、指導員が給与の低さから離職するケースが問題視されますが、この試算ではある意味当然の帰結で、これでは企業として魅力的な参入市場とは残念ながら言えません。

更に、信用の問題があります。大切な我が子を預ける以上、できるだけ歴史もあり評価も定まっている施設に預けたいと考えることが自然でしょう。学童保育は新設後数年間、補助金なしでは立ち行かないと言われるのもやむをえず、これも新規参入意欲を殺ぐ要因となります。

3.学童保育市場に参入するためには

このように、「ニーズは明白でも経営として成立させることは困難」である学童保育業界に、新規に参入する余地はあるのでしょうか。

ノウハウのない企業が単に多角化の一環として取り組むのは、現実問題困難でしょう。個人的には最低限

  1. その地域において伝統を持ち一定の信用を得ている企業で
  2. 学童保育に対応できるだけのインフラ(建物設備)を既に有し
  3. 経営者自身が第二創業的に専念する

条件を満たす必要があると考えています。その意味では、伝統を持ち自社の事業の将来性に限界を感じている地場の中小企業には、一つの機会となる可能性もあるでしょう。その上で差別化とマッチングがキーとなります。

川崎市統計書によれば、平成26年度の公立の小学6年生は12,110人。27年度の公立の中学1年生は9,827人であり、差し引き2,283人は私立への進学者が中心であると思われます。中学入学時から月間5万円の学費を払い、恐らくはそれ以外に教育費をかけることを辞さない父母も、2割ほどいるということになります。

学童保育に子供を預けたいという父母も共働きが主体で、可処分所得的は寧ろ恵まれているケースが多いでしょう。費用対効果を納得させられるサービスを提供できれば、そういう層に「この学童保育を選ぼう」と思わせることも可能になります。

たとえば米国での生活経験の長い経営者がそれを生かし、自身の持つ動画やネットを活用しつつ「バーチャルアメリカ」を実現する設備を備え、「英会話能力を確実に向上させる学童保育」があったとします。現在の日本では企業の大小問わず、海外に赴任することを社員が覚悟せざるを得ず、また英会話能力の必要性も高まっている以上、高額でも通わせようとする父母もいるでしょう。

指導員も児童数も厳選し、高い付加価値を求めていく。これは理想的に過ぎるとしても、教育面や設備面での差別化と、そこにマッチできるターゲットを絞り込むことが、今後この業界に参入する際の必須条件となるでしょう。

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