自由貿易圏の構築こそが日本の経済活性化につながる~米国のTPP離脱と日欧EPA大枠合意で思うこと~

山内 喜彦

 

70歳を超えた私のような世代は学校教育の中で、資源のない日本は貿易立国であり、多くの規制はあったにもかかわらず、貿易を増やすことで国の富を増やすということを教えられてきた。

トランプ政権は発足早々に環太平洋経済連携協定(TPP)を反故にした。トランプ大統領は「保護が偉大な繁栄と強さにつながる」と主張するが、これまでに米国自身が強力に進めてきた協定だけに、日本だけでなく、アジアの貿易・経済をめぐる将来像は一気に流動化したと言える。

トランプ大統領はTPPを拒絶し、代わりに2国間政策、しかも2国間の貿易を均衡させる政策を採用すると表明した。多国間貿易の世界にあって、常識ある為政者なら考えもつかない、自由主義を保護主義に塗り替えようとしている。

こうした動きの中で、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を進めようという意見もあるが、中国が主導権をとる限り、かの国が国有企業の優遇を禁じるルールなど難しく、質の低い通商協定に終わってしまうに違いない。それでは、域内の貿易拡大の効果は限られるに違いなく、日本がメリットを感じられるような自由な貿易圏が出来るなどとは考えにくい。

その一方で、EU(欧州連合)との経済連携協定(EPA)が大枠合意した。日本にとっては大きな成果と思う。TPPが米国の離脱で漂流する中で、米国に匹敵する経済規模を持つEUとの経済連携協定が実現すれば、日本にとって大きな利益が期待できる。

貿易の自由化は内と外の供給者の間で競争が激しくなるということと同時に、外と外の供給者の間の競争を刺激するという面を持つ。欧州からの豚肉やチーズの関税が引き下げられることで、国内の生産者への影響に注目が集まるが、米国や豪州などの生産者もその動向が気になっているはずだ。米国の豚肉製品は日本の市場で大きなシェアを持っているが、彼らは、TPPからの離脱で、品質の優れた欧州品の輸入が増えれば売り上げを落とすかもしれない。欧州のワインやチーズの増加は豪州やニュージーランドの生産者も影響を受けるだろう。

日本の消費者にとっては、関税の撤廃を通じて安い農産品を買えるという利益を享受できるだけでなく、海外勢同士の競争が激しくなれば、それだけ恩恵も大きくなる。日本の農業生産者の中には、欧州品の参入は事業の存立にかかわると声高に叫ぶ輩も多いが、これまでの保護主義に守られ、生産性の向上や品質改善に努めてこなかった報いであることを知らねばならない。完全自由化までにはまだ数年を要する。この間にいかに経営努力をするかが自らが生き残る道と知るべきだ。

日本の工業製品は、これまで数々の為替要因を含めた外敵に襲われ、経営が立ちゆかなると言われたが、これを克服してきた。工業製品にできたことが、農業製品でできないはずはない。そのためにも、政府は大幅な規制緩和で、農業の生産性を向上させる施策を大胆に打っていくことを望みたい。

また、TPPをめぐっては、米国抜きのTPP11を早期に発足させようという動きも出ている。ベトナムやマレーシアのように慎重な国々もあるが、日本はぜひこれらの国々を説得してTPP11の早期締結に向け努力すべきだ。TPP11が発効し、その効果が顕著になれば、離脱を表明した米国も放置することはできず、復帰に舵を切るに違いない。

保護主義の台頭により、世界経済は成長の鈍化が懸念されているが、貿易制限措置は貿易を減速させるだけでなく、企業の海外進出計画などにも影響を及ぼす。技術移転が損なわれて、世界的に生産性の向上が妨げられ、それが成長鈍化につながる悪循環を引き起こすことが危惧される。

こうした観点から、保護主義という脅威に敢然と立ち向かう姿を日本は見せて欲しいものだ。世界のどこに行っても、皆が同じルールの下で事業を行い切磋琢磨する社会の実現こそが理想であり、それを実現することが日本だけでなく世界中の民を豊かにする道であると考える。

以上

 

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