「働き方改革」は社長から

木村 充

1.      はじめに

我が国の深刻な労働力不足を背景に、2016年に安倍首相が「働き方改革」を提唱しました。「長時間労働の解消」、「非正規と正社員の格差是正」、及び「高齢者の就労促進」の三つを改革の柱と定め、検討が進められてきました。そして、2018年6月、「働き方改革関連法案」が成立しました。中小企業の経営者の皆さんも、その準備に取り組まれていることと思います。「長時間労働の解消」に関わる施策としては、時間外労働の罰則付き上限規制、年次有給休暇の取得義務化、及び労働時間の客観的把握の義務化などがあります。中小企業も、これらを遵守、達成すべく、社員の労働の質を高め、いわゆる労働生産性を向上することが求められています。

本稿のテーマは、「働き方改革は社長から」です。中小企業では、経営者自らが一日中製造ラインで作業していたり、店頭で販売していたりなどの光景をよく目にします。経営者として、本来やるべき、やりたいことができない現実がそこにあります。

会社全体の「働き方改革」の最初の一歩は、社長の働き方改革です。ご自身の業務を棚卸しし、社長業に専念できる時間をいかにして作るか、考えてみましょう。

 

2.      小規模企業白書にみる、経営者の業務負担の実態

2018年の小規模企業白書*(中小企業庁)は、小規模企業の生産性向上を特集しています。人手不足のため、経営者自身の業務時間を増やして対応している実態やこれらの業務時間削減のために、間接業務のIT化を志向する経営者が多くいることが明らかとなりました。

2018年版小規模企業白書第2部小規模事業者の労働生産性の向上に向けた取組
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/PDF/h30_pdf_mokujisyou.htm

(ア)  経営者の労働時間と休日

  1. 一日の平均労働時間は9時間26分(休憩時間除く)で、一般労働者より1時間強長い。また、一日11時間以上働いている経営者は21%もいる。一週間あたりの休日日数は17日で、全体の75%が一日のみ。

(イ)  経営者の従事している業務

  1. 上位三つの業務は販売活動(76%)、資金調達(65%)、及び製造生産(64%)である。また、在庫管理、経理、及び給与・勤怠といった間接業務も、半数の経営者が自ら従事している。
  2. 間接業務について、56%の経営者は削減したいとの意向を持っている。時間の余裕があった場合に注力したい業務の上位三つは、売上げ向上に直接つながる戦略立案や販売活動、市場や技術動向の把握、及び人脈形成である。

(ウ)  間接業務の見直し

  1. 従業員に任せたい業務は、在庫管理や受発注管理である。経理、給与・勤怠は経営者自身で行いたいとの意向を持っている。
  2. 間接業務のIT化
  3. 在庫管理や受発注業務をパソコン等で電子化している割合は20%程度である。経理・給与・勤怠は30~40%の企業が電子化済み。
  4. また、経営者の半数以上が上記業務の電子化を検討している。

 

3.      経営者の働き方改革

本コラムを目にされている経営者の皆さんは、一日の勤務時間をどんな業務にどれほどの時間を費やしているか、ご存知でしょうか?

本章では、経営者の皆さんご自身の働き方改革をどのように進めるべきかについてお話します。大まかな手順は、最初に現状の整理、次に業務の仕分です。

(ア)  現状の整理

現状の整理には二つのワークがあります。

  1. 一点目は経営者の皆さんが日々従事されている業務の実態調査です。タイムチャートに業務の種類を記録していきます。例えば、8:30~9:00朝会議、9:00~10:00経理処理、10:00~10:15販売/顧客の電話応対、10:15~10:30在庫確認といった具合に15分単位で業務終了まで記録します。記録は一週間(できれば、一ヶ月間)続け、業務種別ごとに集計します。この集計結果によって、従事する業務の種類や各業務に関わる時間がわかります。
  2. 二点目は、経営者としてやるべき、やりたい業務をリストアップします。できるだけ、具体的な事柄として書き出すことがポイントです。そして、これらの業務には週当たりどのくらいの時間が必要かを見積もります。この見積り時間は、業務仕訳後の削減目標時間の目安となります。

(イ)  現状業務の仕分

  1. 一点目は実態調査した業務の仕訳です。仕分の基準は、第一に、その業務は会社にとって必要か?(廃止するとどんな不都合があるか?)、第二に、その業務は経営者自らがやるべき業務か?(社員や外注先など、他の人に任せられないか?)最後に、経営者がやるべき仕事だとして、簡便にできる方法はないか?(パソコンの機能やソフトの利用で効率的にできないか?)の三段階で検討します。
  2. 他の人への業務の移管には、躊躇することもあろうかと思います。しかし、社員に任せることは、社員の成長のきっかけづくりにもなり、会社発展の一助にもなるはずです。また、前章で触れた如く、経営者が従事している間接業務のIT化は大いに検討する余地があります。社内にITに明るい人材がいない場合には、公的機関や金融機関などで開設している相談窓口をぜひ利用することをお勧めします。

 

4.      おわりに

本コラムでは、経営者の皆さんの働き方改革について考えてきました。会社全体の働き方改革は、経営者の強い決意とリーダーシップが不可欠です。自らの体験に裏打ちされた経営者の皆さんの発言や行動は、十分な説得力を持って、社員一人一人の心に届くことと思います。

 

 

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