小さな企業の採用広報の進め方

中小企業診断士・社会保険労務士 高橋 美紀

採用広報とは、自社に合った人材を獲得するための、求職者に対する企業の広報活動のことを指します。

昨今、採用広報の重要性が増しています。背景には、人材不足による採用競争の激化があげられるでしょう。短期的には、コロナ禍や円安・物価高の影響によって、有効求人倍率は落ち着いていますが、中長期的には少子高齢化による労働力不足が懸念されています。

さらに、その人材の価値観も多様化しています。各々の考え方が多様になれば、当然にマッチングも難しくなります。いざ採用しても早期に離職されては、採用コストもかさみ、育成も進みません。

採用したい人材にできるだけ多く集まってもらい、その中から優秀な人材を選ぶため、そして入社後のミスマッチを防ぐために重要となる採用広報。どのように進めたら良いか、ここではそのポイントを紹介します。

(1)自社の魅力を整理・言語化しましょう

スタートは、企業の魅力を求職者に説明できるよう準備するところからです。「我が社はこんな事業を行っています。我が社で働くとこんないいことがあります」と発信できることが大前提です。

「そんなもの、あるだろうか?」とおっしゃる方もいますが、事業が続けられている以上、きっと何かあるはずです。ただ、経営者ご自身も、従業員の皆さんも、その魅力に気づいていないことはあります。企業のビジョン、組織や風土、知的資産、ネットワーク、仕事のやりがい等、この機会に棚卸を行い、共有・言語化してみましょう。最近採用した従業員がいるなら、その志望動機もヒントになるでしょう。

さて、ここでネガティブな事項が出てきたとしたら、それを強みに言い換えられないか知恵を出し合ってください。また、それを御社の課題と捉え、「今後解決していきたい」というメッセージとともに発信すると、そこに共感する人が応募してくる可能性もあります。

(2)求める人材像を描きましょう

(1)を踏まえ、次は「我が社ではこんな人材を求めている」と言語化します。どんな価値観や思考を持っていてほしいか、どんな経験やスキルがあることが望ましいか等、具体的にイメージしてみてください。

ときどき、「コミュニケーション能力が高くて、バイタリティがあって、問題意識も高い人」など、パーフェクトな人材像を希望されることがあります。それは理想ではありますが、そのような人材が御社にマッチするかはまた別問題です。

人材像が描きにくかったら、とりあえず自社で一番期待している従業員を軸に考えてみましょう。または、「これだけは絶対に外せない」という最低ラインの条件から上乗せしていくのも一つの方法です。

(3)どのような働き方をしてほしいか、明確にしましょう

(2)と合わせ、応募者に「御社に入社したらどんな働き方ができるのか、してほしいのか」を説明できるようにします。すなわち、やりがいや身につけられるスキル、労働時間や賃金、雇用形態といった労働条件に関する情報です。

昨今の求職者は、自分のキャリア、すなわち「この企業で働くと、どんな人生を送れるのか」に関心が高いと言われます。職業人生の長期化の反面、雇用環境が先行き不透明であることや、そのなかで私生活も大事にしたいという思いが強くなっているためでしょう。

企業としては、その人材が力を発揮するためにどんなバックアップをしているのか、それを実現できるのはどんな職場環境だからか、説明したいところです。また、在宅勤務や短時間・短日数制度といった多様な働き方の選択肢があれば、その実績とともに紹介しましょう。

(4)これら情報の発信方法を検討しましょう

以上のコンテンツを、どのように発信するか考えます。以下に採用広報の媒体の例をあげてみました。

  • 自社ウェブサイト
  • 自社SNS
  • 求人媒体
  • 合同説明会・セミナー
  • インターンシップ・職場体験

このなかでは、まず自社ウェブサイトに採用告知のページを設けることをお勧めします。応募者が、ウェブサイトでその企業情報を確認するのはもはや当たり前になっているためです。ウェブサイトには、(1)~(3)で述べたことを盛り込みます。さらにその補強として、「●●部の一日」や、「先輩従業員の声」など、現場のリアルな雰囲気を伝えるコンテンツを入れると訴求力が高まります。

あとは、予算と体制も考慮しながら、(2)にある「求める人材像」にもっとも届きやすい媒体を選びましょう。たとえば、若い世代ならSNSで継続的に情報を発信する、一定のスキルを持つ人なら特定のテーマに特化した合同説明会・セミナー等が想定されます。

採用広報は、文字通り「広報」です。御社の製品やサービスの広報と同様、継続が求められます。力を入れたからと言ってすぐに成果が出るとは限りませんが、継続的な社外発信は「知ってもらう」ことにつながりますし、これらの取組過程で、社内で大事にしている「価値」を見直すこともできます。

まずは「採用広報として、何ができるか」を検討し、始められるところから着手してみてください。

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