売上アップの「勝ち筋」を発見する最も効率的な方法とは

中小企業診断士 小野 慎介

はじめに

市場縮小や消費者ニーズの多様化、競争激化など、昨今の厳しい経営環境下で売上を上げていくには、さまざまな工夫や改善が欠かせません。しかし、中小企業やベンチャー企業の中には「マーケティング」への理解が乏しく、それが売上拡大のボトルネックになっている場合が少なくありません。

私は中小企業やベンチャー企業を対象にマーケティング支援を行っているのですが、今回は「どうにか売上を増やしたい」というよくある要望に対し、「最も効率的な対応策」についてお伝えします。

まずマーケティングという言葉の真意を知ろう

「マーケティング」と聞くと、皆さんはどんなイメージを抱きますか。「広告」や「集客」、「販促」などが思い浮かんだ方、半分正解、半分不正解です。もし売上の大幅アップや収益性の改善を目指しているのなら、この認識を正すことが実は重要な第一歩目となります。なぜなら、マーケティングを狭く捉えたり過少評価してしまうと、本来達成できたかもしれないものが中途半端になり、事業が高収益化するチャンスを逃すことにもなりかねないからです。

「マーケティング」とは何か。それは「商品・サービスが自然と売れるようにする」ための全体的な取り組みを指す言葉であり、事業構造も含め事業全体で「売れる仕組みを作る」という、経営レイヤーに近い広域かつ上位の概念です。つまり「広告」や「集客」、「販促」などは、マーケティングという機能の一部分であり、とても狭い範囲を指している言葉というわけです。

マーケティングで目指すべきゴール地点

では、マーケティングで目指すべきゴール地点はどのような状態でしょうか。前述の通り、それは「売り込みをせずとも、自然と売れる状態」を指します。この状態に到達すると、例えば以下のような好ましい現象が起こります。

  • 顧客からの問い合わせが殺到する
  • 商談から受注までの期間が短い
  • 顧客が満足し、他の顧客を紹介してくれる
  • 事業効率が圧倒的に向上し、高利益率体質になる

この状態を作り出す取り組みが「売れる仕組みづくり」という行為です。

では、自社の商品やサービスが自然と売れる状態になるにはどうすれば良いのでしょうか。自然と売れる状態とは、言葉を変えると、「顧客の課題を満足させる商品・サービスを提供し、それが適切な市場に受け入れられている」状態と言えます。

この状態への到達要素をいくつかに分解してみます。例えば、「顧客ニーズや課題を正しく知ること」「顧客ニーズや課題に合った製品を開発すること」「正しい市場に製品を投入すること」「顧客に価値が伝わること」「ほしい時に入手できる状態を確立すること」などです。これらの要素を上手く構築していくと、自然と売れる状態へと近づいていくわけです。

では、この中でも特に何が重要かと言われれば、それは間違いなく「顧客ニーズや課題を正しく知ること」であると私は回答します。当たり前かつ簡単そうに思えますが、意外と難しく奥が深いのがこの「顧客ニーズや課題を正しく知ること」なのです。

今回はその中でも、売上大幅アップという「勝ち筋」を見つける方法として重要な「消費者インサイト」について少し言及します。

消費者インサイトを発見しよう

「消費者インサイト」とは、「消費者自身も気がついていない動機や本音、欲求」を指す言葉です。顕在ニーズや潜在ニーズよりもさらに深層心理に近いもの、とイメージしてください。

マーケティングにおいては、この消費者インサイトを発見することがとても大事です。なぜならば、顧客の顕在ニーズに応える商品やサービスは既に飽和状態である一方、消費者の購買行動はより複雑化しているため、消費者の根源的な欲求を見つけることは、顧客に「新たな価値」を提示することにつながり、ひいては差別化や価格競争からの脱却へと発展する「勝ち筋」へとつながるからです。

分かりやすい事例として、あるラーメン店の事例をご紹介します。このラーメン店の店主は、自店舗に顧客が来る理由を「スープの味」「提供スピード」だと考えていました。常連客も店主にそう回答していました。これがこのラーメン店における顧客の顕在ニーズなわけです。このニーズに応える努力を店主は続けていました。しかし、これだけでは理想のゴール地点には到達しません。売上を大幅アップさせるためには、もっと根源的な消費者の欲求を探り出し、そこに目掛けて打ち込む必要があるのです。

いくつかの地道な調査を行った結果、顧客がこのラーメン店に求めていたのは「スープの味」でも「提供スピード」でもなく、「高カロリーなラーメンを食べて、日ごろのストレスを発散したい」という欲求であったことが判明しました。これが消費者の隠れた欲求だったわけです。

消費者インサイト(消費者のホンネ)を発見できれば、その後すべきことは明快です。この欲求に対応する商品やサービスを開発し提供していくことが「勝ち筋」となるからです。顧客のストレス発散に焦点を絞った施策を次々に実行したこのラーメン店は、鈍っていた客足が回復し、大きな売上を上げました。これが消費者インサイト発見の効果です。

消費者インサイトを発見する方法

では、この消費者インサイトはどのようにして発見するのでしょうか。消費者自身ですら気づいていない動機や欲求なので、アンケート調査で消費者にストレートに聞いても分かりません。消費者への直接的な質問や行動観察といった「定性調査」を実施することで、消費者インサイトを見つけていくのです。具体的には以下のような手法があります。

  • インタビュー調査
  • 行動観察調査
  • 競合調査

しかし、ただ消費者の声を聞いたり観察するだけでは、消費者の隠れた欲求には辿り着けません。消費者の心理や行動原理、背景をどれだけ掘り下げて考えられるかが発見の成否を分けます。調査実施の際は、以下のポイントを押さえておくと有効です。

  • 商品・サービスを利用する典型的なユーザー像を設定する
  • 消費者になりきる
  • 競合他社の商品・サービスを利用してみる
  • 部外者と一緒に挑戦する
  • 「なぜ」を繰り返して消費者の無意識の思考に迫る

顧客視点に立つことが「勝ち筋」発見の最も効率的な方法

これらは地道で時間のかかる作業です。しかし、その労力に見合ったとても大きな成果が得られます。

  • まったく予想していなかった、顧客の隠れた欲求を知ることができる
  • 顧客視点に立つ、というスタンスの変化を体感できる
  • 顧客視点に基づいたサービス設計に取り組みやすくなる

自身の目・耳・足を総動員させて顧客の隠れた欲求について知ることができれば、顧客視点に基づいた改善点や新たな取り組みが自然と見えてきます。また、顧客視点に立った経営判断ができるようになり、今までとは異なる時間やコストの使い方ができるようになります。その結果、売上の大幅アップへと結実していきます。これが、私の言う「勝ち筋」です。

タイトルの「勝ち筋」発見の最も効率的な方法とは、「顧客を正しく知り、顧客視点に立った意思決定を行うこと」なのです。

おわりに

とはいえ、人材やノウハウが不足しがちな中小・ベンチャー企業が単独で、消費者インサイトを発見し、顧客視点に立ったサービス開発に取り組むのは容易ではありません。そんな時は、我々「川崎中小企業診断士会」に遠慮なくご相談ください。多様なスキルや経験を持つスペシャリストたちが様々な企業の課題解決を支援しています。我々と一緒に、貴社事業の「勝ち筋」を見つけましょう。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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