資金管理の重要性について

中小企業診断士 平田 仁志

私は、中小企業診断士として、主に業績不振で資金調達が困難というような状況の企業様の支援をしています。事業がどんな状況にあり、なぜ資金不足に陥っているのか、どうしたら改善できるかを検討して改善計画を作り、企業様が金融機関様に説明して資金調達ができるようにするというような支援をしているのです。

先日、いつもとは違い、業績は絶好調で、事業基盤もしっかりしているが社長が高齢化しており事業承継を考えなければならないので支援してほしいとの要請があり支援を始めました。

社内に後継者はいるか、いないとしたらどうするかなどと考えながら企業様を訪問し、支援を開始しました。決算書を頂くと、確かに過去最高の売り上げを記録しており、利益も最高となっています。社長は売上を追求すると資金繰りがきつくなるし、前期の売上は一時的なコロナ禍からの回復需要も有り増えたもので、これからは売上が減る見込みで利益も減るが安定した経営ができるようになるだろうとおっしゃっています。

そこで社長のおっしゃる通りに、今後は売上が急増以前の水準で推移するという想定で計数計画のたたき台を作ってみました。すると、銀行からの借入金を約定通り返済していくと、数年後には大幅な資金不足となってしまうという予想となりました。社長は売上急増前の売上高に戻っても20百万円位の利益は確保できるだろうとおっしゃっていたのですが、100万円台しか利益が出ないという予想になっています。急遽支援テーマに事業承継の他に資金管理支援を追加して支援を始めることとなりました。

そこで分かってきたのは、史上最高益を出したとき絶好調で自信を持った社長が、倉庫を借り増しするなどをした結果、それ以前よりも高コスト体質になっていたのです。この高コスト体質を改善する必要が有ります。しかし、それだけでは余裕を持って返済できるようにはなりません。そこでどうしたら良いか、どんな手を打てばよいか、について社長と相談を始めることとなりました。

それ以前から社長は資金繰りがきついと感じていて、それは売上が増えたからだ、だから、売上を減らせば資金繰りが楽になるだろうと考えたのです。しかし、上述したように、売上を減らすだけでは資金繰りが楽になるとは言えない場合が有ります。

コロナ禍が収束し企業の中には売上が数年前と比べて急増する企業も出てきています。そのような売上急増局面で資金繰りがきつくなり、そこに、コロナ禍における売上減少対策として借りたゼロゼロ融資の返済開始が重なって、資金繰りが厳しくなっている例が多いようです。しかも、コロナ禍からの回復需要が一段落し、その後売上が減少してしまう例も有り、さらに資金繰りが厳しくなっている企業も有ります。

なぜ売上急増局面で資金の過不足が生ずるのか、急増後に売り上げが減少したらどうなるかをどのように予想し、今後の資金管理をどうしたら良いか、考えてみましょう。

1 売上が増えると資金不足になるのはなぜか

殆どの業種で、売上が増え始めるとまず仕入れをします。それを在庫としておいて、そこから販売したものを出荷して代金を回収するという流れになっています。

仕入れをした時にお金を支払い、売上が立った時にお金が入ってくるので、その間に時間差が生じます。仕入代金を払ってから売上代金が回収できるまでの間の資金を運転資金と言い、下の式で計算できます。

運転資金 = 売掛金 + 在庫 ― 買掛金

売上高に対する運転資金の割合は業種によって異なりますが、多くの会社において2カ月弱となっています。すると売上が増えるとこの運転資金が増えるのです。簡単に言うと、月間売上高が10百万円増えると、大体20百万円お金が足りなくなります。上述の会社の月間売上高は前年比15百万円くらい増えていたので、約30百万円の増加運転資金調達が必要になっていました。業種にもよりますが、一般的に在庫の金額は月間売上高と同じくらいのことが多いのですが、最初に述べた会社の場合はいつ出物が有るか分からない中古品の販売ということもあり、他の業種より在庫が多くなる傾向が有りました。

社長が言っていた売上が増加すると資金繰りがきつくなるというのは、運転資金の増加によるところが大きかったのです。

しかし、それだけではありませんでした。在庫が増えた結果、従来確保していた倉庫のスペースが足りなくなり倉庫を借り増し、さらに、これまでコロナ禍で赤字が続いていたため上げられなかった給料を上げたりして経費が、回復前に比べて多くなっていたのです。更に、それ以前にコロナ禍対応で借りたゼロゼロ融資の返済が始まり返済負担が重くなっていました。

2 売上増加後の売り上げ減少で起こること

支援している企業では、コロナ禍からの回復局面で売上が急増したのですが、それは一時的なことで、回復が一段落したころから売り上げがコロナ禍前の水準の戻ってしまいました。社長は巡航速度に戻っただけだから大丈夫と思っていました。

売上減少局面では、運転資金が減少するので、その分資金繰りが楽になるはずです。しかし、上述のように事業を続けていくための販売管理費が増加していたことと、据え置き期間が終わった借入金の返済が始まることから、巡航速度では返済を継続することができない状態になってしまうと見込まれるのです。

そこで、経費削減がどこまでできるか、銀行に対する返済額をどの程度にすればよいかを検討することになり、今後数年間の期末現預金残高がいくらになるかという予想を含んだ計数見込みを作成しました。具体的な数字が出てきたので、どのくらい何をすればよいかが分かり社長は具体的な対策を早めに考えることができました。

3 資金管理の重要性

上述の支援先の社長は計数を把握する感覚がとても鋭く感心したのですが、売上がどうなればどのくらいの返済ができるというような予想はできていませんでした。

最近の経営環境はコロナ禍からの回復はあるものの、エネルギー価格の高騰や人手不足など変化が激しく、そこにゼロゼロ融資の返済開始が重なり、資金繰りが厳しいと感じている企業が多いと思われます。そのように変化が激しいときに感覚だけで判断していると、気が付いた時には手元現預金が不足してしまいそうになって慌てるということも生じかねません。

あらかじめ毎年の現預金残高の予想を向う3年程度は立てて、銀行との交渉も早めにし、資金の心配なく環境の変化に対応するための営業に注力できるようにすることが重要だと考えています。借入金の返済額を減らすための工夫も必要となります。

現預金残高予想付き計数計画の作り方も含めて経営課題解決セミナーでご説明する予定ですので、ご参加お待ちしています。

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