中小企業が効果的に財務体質を改善する方法

中小企業診断士 土田 淳

本稿では、筆者が1年前に作成した修士論文「中小企業向け堅牢性向上メソッドFORMの開発」を紹介することにしたい。これは中小企業が効果的に財務体質を改善できるように支援する方法を考案したものである。以下にその要旨を記載させていただく。

多くの中小企業は、近年のコロナ禍やウクライナ情勢などのような外的ショックに対し、増大する不確実性への耐性に不安を感じながら、生き残りを模索している。本論文は、そのような中小企業に対し、中小企業向けに特化した簡易型の堅牢性向上メソッドFORM (Framework for Operational Resilience Management)を提供し、複数のインパクトシナリオに基づく脆弱性診断テストで中小企業の最も脆弱な部分を分析し、さらにその弱点を補強する堅牢性向上策を提供する。帝国データバンクの調査では、ゾンビ企業の数と比率ともに増加傾向である。また、中小企業庁の調査によると、売上高が現在の何パーセント以下の水準になると赤字になるかを示す損益分岐点比率が90%あるいはそれ以上となっている。日銀の金融システムレポートでは、コロナ禍に実施された実質無利子融資でデフォルト率が低下したものの、返済が始まる2023年にはデフォルト率が上昇することが予測されている。このような状況の中で、迅速に、かつ、効果的に財務体質を改善することが多くの中小企業に求められている。

例えば、東京都の中小卸売業A社(資本金:500万円、従業員数:7名)にコロナ禍やウクライナ情勢などの外的ショックによる影響をヒアリングしたところ、コロナ禍での急速な需要縮小による過剰在庫発生、上海ロックダウンの影響によるサプライチェーンの途絶などが発生していることを確認した。しかし、財務体質改善のための客観的指標を持たないうえに、さまざまな外的ショックのうち、どれに対する改善を優先的に行うべきかという判断もできていない。即ち、複数のシナリオに対する脆弱性分析と堅牢性向上が要求されていることが確認できた。

そこで、中小企業向けに特化した簡易型の堅牢性向上メソッドFORMを提供する。FORMは、現状を視覚的に把握するためのピクトプラス図、Excelを使用した複数の外的ショックを想定したシミュレーションによる脆弱性診断テスト、最も脆弱な部分に注目した改善策の提供、PDCA (Plan Do Check Action)ループによる全体の堅牢性の向上、4つの要素から構成されている。

本メソッドの特⻑は以下の5つである。
(1) 金融機関向けストレステストと同様の考え方に基づいた、ビジネスモデルとストレスシナリオでの財務データ(キャッシュフロー)への影響測定
(2) 図示によって迅速な現状把握を可能とすべく、在庫キューおよび現金キューの明示、製品と現金フローの特徴ベクトル化を行ったピクトプラス図
(3) 中小企業の倒産原因の上位3つのストレスシナリオ(販売不振、既往のしわ寄せ、連鎖倒産)を使用して財務データへの影響をExcelによるFORMシートで示す簡易型シミュレーション
(4) 複数シナリオ間の資金ショートまでの期間比較により、最も脆弱な部分を導出し、堅牢性向上策を提供
(5) PDCAによる繰り返しによる段階的かつ継続的な堅牢性向上

これらにより、経営環境へのストレス発生状況の簡易なシミュレーション、および、外的ショックに対する耐性を改善する弱点補強対策の優先順位の提示が可能となり、中小企業の資金ショートリスクを迅速かつ段階的に逓減させることができる。

このソリューション仮説を検証するため、A社に対し、FORMメソッドのトライアル検証を実施したところ、A社から、欠品の容認、販売確定分のみの仕入、不良在庫の処分先ルートの複数確保といった脆弱性対策を実施し、効果を上げられたとの結果が得られた。

図1に、そのトライアル検証におけるFORMメソッドの報告書を示す。報告書は、ビジネスモデル分析の結果、ストレスシナリオ財務分析、堅牢性向上策という3つの部分から構成されている。まず、ビジネスモデル分析の結果によって、経営者は、正確に把握していないビジネスモデルを認識することができる。次に、ストレスシナリオ財務分析によって、脆弱な財務上の課題を把握できる。脆弱な順で4つの課題を提示するので、例えば、A社の場合、資金状況はシナリオVIが一番悪く、シナリオVIIIがその次、シナリオIIがさらにその次に悪いということが分かる。堅牢性向上策には、具体的な打ち手が表示されている。このため、経営者は、最も脆弱な部分に対して、迅速に効果的な改善を行うことができる。改善結果は次のシミュレーションにフィードバックされ、新たな弱点を発見できる仕組みとなっている。例えば、A社の場合、シナリオVIが改善された後、状況が改善されるので、次に脆弱なシナリオVIII、さらにその次に脆弱なシナリオIIに対応する堅牢性向上策を講じることができる。このように、PDCAによる繰り返しによって継続的な堅牢性向上が可能となる。

図1. A社に対する診断結果報告書(筆者作成)

紙面が限られるため、本稿では修士論文の詳細までは紹介できないが、筆者はこの方法がゼロゼロ融資の返済などで資金繰りに苦しむ中小企業にも役立つ部分があるのではないかと考えている。ご要望があれば、また別の機会に詳細を紹介したいと思う。

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