課題山積の今こそ活用したい専門家派遣

中小企業診断士 小野 慎介

はじめに

こんにちは。中小企業診断士の小野慎介です。
川崎市に根ざす事業者の皆様。日々の事業運営や業績見通しはいかがですか。

経営資源が少なく現状を打破する余力がない。何をすべきか分からず先行きが不安だ。そんなお悩みを持つ方も多いのではないでしょうか。
川崎市における中小企業の皆様は、国内外の市場で生き残り、成長を遂げるために、絶えず変化する経済環境と技術革新の波に迅速に対応する必要があります。このような状況下で、企業が直面する最大の課題の1つが、限られたリソースの中でいかにして効率的に事業を運営し、市場のニーズに合わせて柔軟に対応するかという点です。

そして、この課題の解決策の1つとして私が強くオススメしたいものが「専門家派遣」制度の活用です。
専門家派遣とは、公的支援機関などが特定の分野における豊富な知識と経験を持つプロフェッショナルを一時的に企業に派遣し、内部リソースでは解決が難しい課題に対処するためのサポートを提供する制度です。しかし、専門家派遣のメリットにも関わらず、その活用に踏み出せない中小企業も少なくありません。その主な理由は、専門家派遣に対する誤解や不安、コストへの懸念などが挙げられます。

私もマーケティングの専門家として派遣される立場にいるのですが、「もっと多くの事業者がこの制度を知って、活用したら良いのに」と最近とてもよく感じています。特にアフターコロナで、売上拡大や業績回復を思案するケースが増え、このテーマでの専門家派遣の重要度は増しているように感じます。

ですので、今回は中小企業の皆様がこの専門家派遣制度を理解し、活路を見出すために積極的に専門家を活用することを推進すべく、公益財団法人 川崎市産業振興財団の専門家派遣制度を例に挙げ、その具体的な仕組みやメリットを紹介します。

中小企業の経営課題の最新動向

まず、中小企業が置かれている状況を確認してみましょう。
以下は、東京商工会議所が2023年9月~10月にかけて実施した「中小企業の経営課題に関するアンケート」の調査結果です。

  1. 売上・収益の状況
    • コストの状況について、「原材料・仕入費用」、「エネルギー費用」「労務費・人件費」、「その他経費(運送費、広告費等)」など、全てが上昇傾向。
  2. 新たな取り組み
    • 80.1%の企業が2020年以降に新たな取り組みを実施している。
    • 中でも、「人材の採用・教育の強化」に取り組む割合が最も高い。また、新たな取り組みを進める中で生じた課題について、「顧客ニーズの把握・情報収集」「アイデア出しや企画・戦略策定」といった「企画段階」における課題を多くの企業が回答。
    • 半数以上の企業が、事業活動において他社等と連携している。連携先と関係構築を図る上で顕在化した課題については、ノウハウ・経験・人材の不足、認識の相違がそれぞれ約3割。
  3. 経営資源
    • 人員が「不足」している割合は60.0%となり、急激に人手不足感が高まっている。
    • 資金繰りに関して、31.5%の企業が資金繰りに苦しんでおり、このうち4割は事業自体も厳しい状況。
  4. 取引環境
    • 価格転嫁の状況について、「原材料・仕入費用」では約2割、「エネルギー費用」、「労務費・人件費」、「その他経費(運送費、広告費等)」では「全く転嫁できていない」と回答した企業が4割を超えた。

 いかがでしょうか。アフターコロナで各社新たな取り組みを志すも、
「人手不足」
「ノウハウ不足」
「コスト高騰」
「価格転嫁困難」
「資金繰り苦戦」
と、課題が山積で大変な苦労をしている現状が伝わってきます。

この状況を打破する切り札が、専門家派遣制度なのです。
専門家派遣とは、公的支援機関などが特定の分野における豊富な知識と経験を持つプロフェッショナルを一時的に企業に派遣し、内部リソースでは解決が難しい課題に対処するためのサポートを提供する制度です。
対象テーマは幅広く、経営戦略の立案、マーケティング、IT技術の導入、法律相談、人材育成などの分野で活用されています。専門家派遣を活用することで、中小企業は新たな視点を得ることができ、問題解決のための革新的なアイデアや戦略を開発することが可能になります。また、短期間でのスキル習得や業務効率の向上、コンプライアンス遵守といった即時性の高いニーズにも対応できるようになります。

手続きの流れとしては、公的支援機関が事業者の皆様のニーズをヒアリングし、課題解決に最適な専門家を選別してくれます。その後、皆様のもとに派遣された専門家と個別に相談を開始し、課題解決の助言を得るのです。費用は無償のものもあれば有償のものもあります。

公益財団法人 川崎市産業振興財団の専門家派遣制度

公益財団法人 川崎市産業振興財団の専門家派遣制度を例に挙げ、その具体的な仕組みやメリットを紹介します。

①ワンデイ・コンサルティング

  • 概要
    経営改善の支援を行う短期の訪問コンサルティングとして、中小企業や個人事業者、NPO法人を対象に、適切な登録専門家を無料で派遣してもらえる制度です。1回2時間程度で、最大3回まで利用できます。
  • 相談事例
    ・ 新製品開発のための技術指導、販路開拓
    ・ ホームページ作成、広告宣伝、チラシの改善
    ・ ビジネスプランづくり、補助金申請アドバイス
    ・ 資金繰り改善アドバイス
  • 対象
    川崎市内に事業所がある中小企業者、又は、川崎市内で創業される計画をお持ちの方で、次のいずれかに該当する方が対象。
    ・ 中小企業者及び商店街または工業団体等の中小企業団体
    ・ その他、これに準ずるもの

②専門家派遣

  • 概要
    経営の改善や技術の革新を図る中小企業者や起業家が直面する様々な課題について、登録専門家を一定日数企業に派遣してもらえ、適切な診断や助言を受けられる制度です。1件あたり半日(3時間)を単位に12回まで利用できます。1件あたり半日15,714円(税込)の派遣費用負担があります。登録専門家は約140名(2022年4月時点)です。
  • 相談事例
    ・ 経営管理体制を見直し、新たな経営計画書を策定、新たな経営計画書を構築する
    ・ 品質保証にかかる管理文書の再構築
    ・ 新技術・新製品開発を推進するための新体制作り
    ・ 事業継承計画の作成
  • 対象
    下記の2つの条件を満たす方が対象です。
    • 川崎市内であって、経営革新に意欲がある中小企業者および起業家
    • 令和年度専門家派遣事業を活用していない中小企業者及び起業家

③働き方改革・生産性向上 専門家無料派遣(市受託事業)

  • 概要
    働き方改革や生産性向上に取り組みたいが、「何に取り組めば良いかわからない方」や、「業務効率のためにシステム導入を検討している方」など、市内中小事業者等を対象に課題や状況に応じた専門家(ITの専門家、社会保険労務士、中小企業診断士等)を無料で派遣してもらえます。5回まで無料です。
  • 対象
    市内に事業所を有する中小事業者等
  • 相談事例
    【生産性の向上】
    ・ 業務のICT化、テレワーク等の導入
    ・ 生産性向上に向けた設備・技術の導入
    ・ 生産性向上のための人材育成
    【職場環境の改善】
    ・ 長時間労働の是正・年次有給休暇の取得促進
    ・ 就業規則の見直し
    ・ 病気の治療、子育て・介護等と仕事の両立
    【人材確保への対応】
    ・ 若者や女性が活躍しやすい環境整備
    ・ 高齢者・障碍者就労の促進

各制度の詳細はこちらからご確認ください。

https://www.kawasaki-net.ne.jp/consulting.html

さいごに

私も、川崎市内や神奈川県内の中小企業へ専門家として派遣され、さまざまな業種の中小企業の経営相談に携わらせてもらっていますが、この専門家派遣制度を知っているかどうかの差が、企業の発展を大きく左右するなと感じています。

専門家の知見や助言を適切なタイミングで授かることは、中小企業が生き延びるには極めて重要な要素です。もちろん、支援や助言の中身自体の良し悪しも重要ではありますが、事業者の皆さんが孤独に戦っていた状況において、現状打破できる味方を手に入れることの心強さたるや。私はそれを、派遣先で皆様からいただく感激のリアクションから毎回実感しています。

専門家が持つ知見や強みは、事業者の皆様が持つアイデアや強みと組み合わせてこそ、輝きます。ぜひ一度、専門家派遣制度を活用して、最適な専門家に出会ってみてください。

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