米不足・米価高騰に対応する中小企業経営

中小企業診断士 林原 敏夫 

2025年5月の時点で米不足・米価高騰は進んでおり、政府による備蓄米の放出についても連日ニュースとなっている日々は続いている。この件を例に中小企業としてどうすべきかを述べる。

1.米不足・米価高騰の原因分析

米不足・米価高騰の原因を次の3つの観点から分析する。

  • 米の供給(農家からの出荷)
  • 米の流通経路
  • 米の需要(需要者・消費者の手元へ)

1) 米の供給

(ア) 2023年の猛暑による収穫量の低下
(イ) 減反政策による生産量抑制

2)米の流通経路

(ア) 卸売り業者等による買い溜め等による流通在庫の逼迫
(イ) 集荷業者、卸売り業者による買い付け競争の過熱

3)米の需要

(ア) コロナ禍からの需要回復
(イ) インバウンド需要の増加

2.米不足・米価高騰の自社・自店の現状分析

当事者である中小企業から見ると、米不足・米価高騰の原因はすべて外部環境であり、中小企業当事者の内部環境が理由ではない。しかし、他責思考で外部の対策を待っていても対策をとれないので、自責思考でとれる対策を検討する。検討については、具体的な例を使って説明する。

1)業種・業態

定食を中心とする飲食業

2)米不足・米価高騰の影響

(ア) 米価以外のコスト構造には変化がないものとする。
(イ) 米は確保できているが、今後の米の安定入荷には不安がある。

3)米価高騰の原価への影響

スーパー等で市販されているお米が5kg3000円から5kg5000円に価格が上がったとする。(米の入荷元は米穀卸売業者、精米業者等さまざまであるが、ここではスーパー等とする)ごはん1杯分は約150gとすると、ごはんはお米に水を吸わせて炊いているので、お米の量としては65gとなる。飲食業でお米の仕入はごはん1杯の原価(お米の値段)は39円から65円に、26円上がったことになる。

3.対応策の考え方

考え方として、いくつか考えられるが、大きくは二つあり、ひとつは原価を中心に考えるのと、もうひとつは需要量確保である。

1) 原価を中心に考える。

① 原価上昇しても、売上単価は変えずに、利益削減で対応する。
② 原価上昇しても、売上単価は変えずに、オペレーション改善で対応する。
③ 原価上昇したら、売上単価も上昇させる。

2) 需要量確保

① 保管・精米を内製化し、自店・自社の需要量を確保する。
② 自店・自社分に加え、他店・他社分も保管・精米を行う。

4.具体的な対応策

1)原価中心

① 売価は変えずに、米価以外の原材料の原価を削減することで利益の確保を図る。
② 売価は変えずに、オペレーション改善によって、作業時間の削減によりお客の回転数の増加による売上増加を図る。具体的には、調理・盛付・配膳・顧客の誘導・会計などの作業を改善し時間を短縮する。また、割箸からエコ箸への変更による消耗品削減などによるコスト削減などの改善により利益の確保を図る。
③ 原価上昇により売価も上昇する。ご飯1杯の原価上昇分相当額を値上げする。例えば800円の定食を30円値上げして830円に値上げするなどが考えられる。

2)需要量の確保

① 保管・精米の内製化
現在、多くの中小企業では資金・スペース・設備の都合もあり、自店・自社で、米の保管・精米は行っていない。そのため、供給能力の減少、需要の増大に対し、自社・自店では抵抗ができず、卸元に頼るしかない。もし資金・スペース・設備等に余裕があるのであれば、保管・精米を自店・自社で行うようにする。そして供給と需要の時間的ギャップを埋めることができる。これは、他店・他社にない強みとなる。
② 保管・精米の共同化(貸出)
保管・精米の能力を自店・自社だけで使用するのではなく、他店・他社にも、自店・自社の保管・精米の設備を使用させるという方策が考えられる。自店・自社の商品の売上の他、保管・精米による売上・利益を確保することで、自店・自社の収益確保につなげることができる。

5.まとめ

上記の米不足・米価高騰については、例として示したものである。店舗・企業の商圏・顧客・規模・業種・業態、その他さまざまな条件から、上記の例のままでは必ず成功するとは言えない。しかし、上記の例をもとに、外部環境の変化に対応する中小企業として、考えるべき方向は次のとおりである。

1)状況の分析

変化した外部環境の状況、その際の企業内部の状況について、極力一次情報を基に分析する。一次情報を基にする理由は、バイアスやフィルターが掛かっていると、正しく状況を把握できないからである。

2)課題への対応

(ア) 環境変化への対応に自社努力で対応する。リスクを避け、大規模な投資はせず、改善レベルの対策を行う。
① オペレーション改善で弱みの克服で対抗する。
② 弱みの克服により強みの強化につなげる。

(イ) 環境変化への対応を小規模な投資により対策を行う。
① 小規模な投資により脅威を克服する
② 小規模な投資により脅威を競合に対する強みに変換する。

(ウ) 環境変化への対応を投資により対策を行う
① 投資により脅威への対応を強みの強化に変換する
② 投資により脅威への対応を機会の創出に変換する。

つまり、外部環境の変化を他責思考で捉えず自社の問題として捉え、現状をこれまでの視点とは異なった視点、俯瞰的な視点で対応策を検討することで、脅威への対応、強みの強化、機会の創出につなげていく。この見方・考え方が重要である。

関連記事

Change Language

会員専用ページ

ページ上部へ戻る