中小企業だからこそできる働き方改革

齊藤 拓

働き方改革という言葉が大きなキーワードとなって、2年余り経つでしょうか。

東京都では「TOKYO働き方改革宣言」を行う企業を、昨年度から公募しています。企業が具体的にどう取り組むかを都に申請し、その内容が承認された企業名をwebに掲載し、助成金を支出するなどの事業内容となっています。川崎市でも昨年3月に「川崎市働き方・仕事の進め方改革推進プログラム」が策定されました。

一方特に中小企業の経営者からは、「働き方改革なんて、人や利益に余裕がある大企業しかできないでしょう」というお話を聞くことがあります。残業削減や有給休暇取得促進などの施策が中心で、とても手が回らないということです。

本当にそうでしょうか。ここで一度考えてみましょう。

1.中小企業だからこそ、働き方改革が必要

働き方改革の基本はワークライフバランスの充実、つまり仕事をするときはする。一方で社員の私生活も充実させ、仕事に集中できる環境をつくることで、生産性は維持向上する好循環の構築になります。

これは実は、多くの経営者にとって大きな悩みである、離職率の防止や求人に直結します。「大企業のようなことはできない」としても「その中でできることはやる」姿勢を見せれば、社員も納得して勤続していく可能性も高まり、求職者にとっての魅力も向上してきます。

採用面接の場で、経営者自身が熱心に事業を説明しても、相手の方は
「仕事は5時に終わるんですか?週休2日はとれるんですか?」
と尋ねてきたという話もありました。極端な例でもこういう実情があり、しかも今後人手不足問題が解決される目途がない中では、中小企業といえどもそれに合わせた対策をする必要があります。

2.中小企業であればトップが社員を巻き込める

社員にしてみれば働き方改革で残業は減り、有給休暇もとれます。いいことずくめのようですが、実際は単純ではありません。

先ず長く働いていた社員ほど、業界の慣習や先輩意識から、以下のような考え方を持つ傾向があります。
「お客様が無理を言うのは当然で、それをかなえるのが我々の使命じゃないか」
「昔は休みなんて日曜だけ、それも出勤する時もあった。週休2日でも足りないなんて、今の若い奴は甘い」

働き方改革を促進しようとしても、こういう年配の社員が有給休暇を取らず、残業もするという姿勢を続けたらどうでしょう。若手も遠慮からそれに引きずられ、改革自体有名無実になりかねません。

社員全体の意識改革のためには、トップが自ら「働き方改革の目的はここにある」「これをやりきることが会社には必要なんだ」と全社員にアピールし、社員を巻き込み、何かあれば自ら指示を行う。これは経営者が広く目の届く、中小企業だからこその武器となります。

3.中小企業であれば全社的な制度の改革ができる

残業について、社員にはより切実な問題があります。「残業代が自分の小遣い」ということもあるほど、社員にとっては大切な収入で、なくなっては困るという点です。

「働き方改革なんて言って、結局人件費の削減か」
と社員に思われては、成功することはありません。

対策として、例えば決算賞与があります。月々支給する残業代は減っても、決算で業績が維持できれば、その分を決算賞与で穴埋めする、業績が向上すれば寧ろ増額も可能とする手法です。

会社の給与体系も変更しつつ働き方改革を進める。これは大企業にはできない、中小企業だからこその特技です。

また人事配置の問題もあります。見逃されがちですが、働き方改革のポイントの1つは社員の多能工化、1人が幅広い仕事をこなせるようにすることにあります。これは当然で、ある社員が休んだ時何かあっても、誰も対応できなければ、そもそも休みも取れません。

誰かが休んでも穴を埋められるよう、例えば定期的に配置の転換を行う。これも中小企業の小回りを生かせます。

4.中小企業であれば必要に応じ投資ができる

そうはいっても、実際に残業しなければ仕事がこなせないことも実情かもしれません。生産性を劇的に向上させるような効率化は、今の日本でまずないと思われます。ただその中ででもできることをやり、必要であれば投資も行う。これも経営者だからこそ可能になります。

ある製造業において、現場で何かあっては毎日何度も、食堂や会議室に各部署の担当者が集まって話し合いをしていました。中小企業でも工場はそこそこ広く、その往復には5分程度を要します。

「これが積み重なり大きな移動時間のムダになっている」
と判断した経営者が、各部署にパソコンは既にあることから、それを使い必要な時にはwebで会議ができるよう、投資を行いました。守秘義務の関係で詳しくは書けませんが、これに近い事例が実際にあります。

無論この費用対効果がどうかは、簡単には言えません。この場合はそこまでして勤務時間短縮化に取り組んでいるという、経営者の姿勢を社員に見せる効果の方が主目的でしょう。

一方で、自社で極力効率化を進めていると思っていても、まだできることがあるのではないかという視点が大切なこと、またそれに合わせ投資できることも中小企業の強みであることをご理解いただければと存じます。

5.中小企業であれば経営者がリスクを取れる

仮に大企業の管理職だったとして、部下に残業はさせるな、有給休暇は取得させろ、でも業績は維持しろと言われたらどうでしょう。どうすればいいのか、わからなくなり、中途半端になって終わりではないでしょうか。

「今まではこれでやってきましたが、これからはこれでお願いします」
と言わなければいけない場面が、特に納期などで出てくるかもしれません。その際大企業なら、担当者レベルでは取引への影響を考え、なかなか言えないこともありえます。

中小企業であれば、状況によるとはいえ、社長が自分でリスクを踏まえつつも
「我が社も働き方改革をしなければいけないので、何とかお願いします。」
と言えるのも強みです。

また昨今の風潮には、取引先も一定の理解をいただけるはずです。

 

中小企業だからこそ、働き方改革が必要で、またできることもあるのではないかという点を、ご一考いただければ幸甚に存じます。

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