IT活用による生産性向上。まずは定型作業のIT化から取り組みませんか。

中小企業診断士 井沢 孝次

日本生産性本部が発表した「2020年版労働生産性の国際比較」(*1)によれば、日本の1 人当たり労働生産性は81,183 ドルと、OECD 加盟 37 カ国中 26 位で、1970年以降最も低くなっています。また、時間当たり労働生産性は47.9ドルと、これもOECD 加盟 37 カ国中 21位に留まり、主要先進 7カ国でみると、1970年以降、最下位の状況が続いています。この要因については様々な意見がありますが、その一つに、中小企業の生産性が大企業のそれを大きく下回っており(*2)、かつその中小企業が全企業の99.7%を占めるという、日本の産業構造にあるという指摘もあります(*3)。一方で、生産性の高い中小企業はIT投資等に積極的に取り組んでいることから、全体の底上げを図るためには中小企業のデジタル化を加速する必要があると考えられています(*4)。

ではなぜ中小企業のIT化がなかなか進まないのか。中小企業経営者へのアンケート調査によれば、ITの導入・利用を進めようとする際の課題として、コストが負担できない、導入の効果が分からない/評価できない、従業員がITを使いこなせない、などの理由が挙げられています(*5)。即ち、IT導入には費用がかかるが、効果が見えない以上なかなか投資に踏み切れないし、それを推進できる人もいない、という状況が見えてきます。

そこで本コラムでは、上記のような理由でなかなか最初の1歩を踏み出せない経営者の方々のために、まずは定型作業に的を絞り、IT活用による生産性向上に向けた初歩的な取り組み方をご紹介したいと思います。

進め方は次の3ステップで

  1. 業務分析を行い、定型作業を洗い出す
  2. 洗い出した定型作業をECRSの原則に照らし合わせて改善する
  3. 改善結果にITツールを適用する

以下、具体的に説明します。

  1. 業務分析を行い、定型作業を洗い出す
    まずは現状の業務を分析するところからスタートします。業務分析の仕方としては、工場の作業工程を分析する際によく使われる巻紙分析などがありますが、そこまで徹底する必要はなく、次の3つの視点から定型作業を洗い出せばOKです。
    (a) 一人で行っている定型作業
    (b) グループワークでの定型作業
    (c) 顧客や協力会社間での定型作業

    まず「一人で行っている定型作業」ですが、一人で行う作業の中には、意外に多くの定型作業が含まれています。例えば、配送部門などで配送先一覧リストを作成する場合など、顧客情報をWebで検索後、Webページから必要な情報をエクセルに転記して配送先一覧ファイルを作成して印刷後、担当者に送付するなどの作業が必要になります。顧客の数が少なければ大した作業ではありませんが、顧客の数が多かったり、あるいは定期的に同じ作業をしなければならない場合、全体的に見れば負担はばかになりません。これらを何とか効率化できれば、その時間を他の業務に充てることが可能になります。
    次に、「グループワークでの定型作業」です。具体的には、起案 稟議 保管など、複数の人がかかわる一連の作業の流れ(これをワークフローといいます)や、報告・連絡・相談(ホウレンソウ)などに関係する定型作業が考えられ、前者には見積回答業務や作業指示書に基づいた工程内での加工業務などが挙げられ、後者には日報作成業務などが挙げられます。
    最後に、「顧客や協力会社間での定型作業」です。具体的には、会社間の取引情報 (見積もり、受発注 、出荷・納品、請求・支払 等)の流れが考えられます。このような処理で紙伝票や電話/FAXが使用されている場合には、社内システムへの手入力など多くの情報変換作業が発生することになります。

  2. 洗い出した定型作業をECRSの原則に照らし合わせて改善する
    次に、洗い出した定型作業にECRSの原則を適用し、作業のムダを取り除きます。
    ECRSの原則とは、業務プロセスを4つの視点から改善するためのフレームワークで、Eliminate(排除)、Combine(結合)、Rearrange(再配置)、Simplify(簡略化)の頭文字をとったものです。
    (a) Eliminate(排除):ムダな作業を省略
      ~本当に必要な業務や書類、あるいは会議なのか等をもう一度見直してみる~
    (b) Combine(結合):他の作業と統合
      ~別々に行っている業務や会議、分業している仕事、分かれている書類等を一つにできないか~
    (c) Rearrange(再配置):作業の順序や場所・担当者を変える
      ~順番にしている作業を並行して進められないか、業務の一部を外注できないか等~
    (d) Simplify(簡素化):作業を簡素化する
      ~もっと簡単にできないか、ツールを使うことで効率的に作業できないか~

    この4つの視点からの検討を、手順に沿って進めることで業務内でのムダを省くことが可能になります。なお、担当者は現在の仕事の仕方を当然と考えていることも多いので、時には経営者や管理者側から問題提起することも重要です。

  3. 改善結果にITツールを適用する
    このようにして、ECRSの原則を適用することで無駄が省かれた作業の流れが明らかになりますので、これにITツールを適用することで、この作業の生産性を格段に上げることが可能になります。

具体的なITツールの例

定型作業自動化のためのITツール

RPA(Robotic Process Automation)というソフトウェアは、ユーザの操作履歴を記憶しその通りに実行することで、オペレータが介在することなく、繰り返し業務を自動実行してくれます。また、画面上でメニューを選びつつ業務シーケンスを記述することで、Excelや文字認識モジュールと連携させることもでき、複雑なワークフローも自動実行させることができます。

RPAは、現在もっとも伸びているソフトウェア分野のひとつであり、今後も様々な分野で導入が進んでいくと予測されています(*6)。Web上には無料のe-ラーニングサイト(*7)もあるため、一度試してみることをお勧めします。
事例A:エアコン工事の作業指示書作成業務の事例(動画)
事例B:電動送風機製造業の事例

報告・連絡・相談業務へのITツール活用

報告・連絡等には通常メールが使われますが、緊急連絡が必要であったり複数メンバーで相談したい場合などは、最近はビジネスチャットツールが使われるようになってきています。これらは無料版でもかなりの機能がサポートされており、しかも社内外を問わず使用できるため、うまく活用すれば非常に便利なツールになります。LINEのビジネス版であるLINE WorksやChatwork, SLACKなどいろいろあり、それぞれ特徴がありますので、用途に合わせて選択されるといいと思います。以下に示す事例では、本社と工事現場間のコミュニケーションや現場間の情報共有による安全意識の向上など、具体的な効果が語られています。
事例C:建築会社のLINE Works導入事例(動画)

顧客や協力会社間での定型作業へのITツール活用

企業間商取引を自動化する仕組みとしてEDI(Electronic Data Interchange)があります。中小企業庁では平成28年度から企業間の受発注業務の効率化を目指し、「中小企業共通EDI」の仕様を定め普及を強力に推進しています(*8)。この導入により、①業務効率アップでコスト削減、②人的ミスを軽減、③過去現在の取引データの検索の簡素化、を実現できます。
事例D:中小企業EDIの実証事例

まずはトライしてみよう

本コラムでは、業務効率向上には取り組みたいが、効果が見えない以上なかなかIT投資に踏み込めない経営者の皆様に、定型作業に的を絞った初歩的な検討ステップをご紹介いたしました。IoTやAIなど、情報技術の進展が加速化する中で、IT活用に取り組まなければ企業の存続も危ぶまれる状況になりつつあります。本内容を参考にしつつ、まずは最初の一歩を進めて頂ければ幸いに思います。

参考文献
(*1) 日本生産性本部「2020年版労働生産性の国際比較」
(*2) 中小企業政策審議会制度設計ワーキンググループ第4回(R2/8/27)配布資料
(*3) デービッド・アトキンソン「東洋経済ONLINE(2020/03/27)」
(*4) 中小企業庁「中小企業のデジタル化に向けて」(令和2年7月)
(*5) 2018年版中小企業白書P.215
(*6) 矢野経済研究所プレスリリースNo.2599
(*7) UiPath アカデミー
(*8) 中小企業共通EDIポータルサイト

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