ISO視点の製品・サービス開発のアプローチ:従前・現在・アフターコロナ

中小企業診断士 金子 康彦

ISOを活用した新製品・サービス開発のアプローチ

日本経済の停滞長期化、急速なグローバル化、海外との低コスト競争等の環境下、中小企業は競争力向上が求められ、さらに加えて先が見えないコロナ禍で、企業の存続すら危うい状況が続いている。一方、このコロナ禍での行動変容に伴う顕在・潜在ニーズをキャッチし、コスト競争を回避し、新たな製品・サービスの開発により、業績回復どころか売上を増やしている企業もある。ありきたりの言葉かもしれないが「ピンチはチャンス」になるように自ら働きかけていく必要がある。

そもそも、新製品・サービス開発の目的は、単に目新しいモノを作り出すのではなく、売上低迷している既存製品に対し、新たな売上、特に利益率向上を目指すことが本質である。新製品・新技術開発が付加価値向上に有効であることは明らかである。これら開発の重点は、「顧客満足」であり、これはB2Cだけではなく、B2Bの企業においても重要である。本件についてISOの観点から検討・考察を行う。

1.新製品・サービス開発のアプローチの変遷

図1 新製品・サービス開発の視点の変遷

技術の進歩・モノ余り、ニーズの個別化・多様化、競争環境の不確実化等により、近年ますますユーザー理解の重要性が高まっている。従来のようなプロダクトアウト中心の発想や、単純な定量的アプローチだけでは世の中に受け入れられる製品/サービスを生み出すのが難しくなっている。

これまでの製品・サービスの開発のアプローチとして、「プロダクトアウト」といわれる会社の方針や作りたいもの、作れるものを基準に商品開発を行い、開発後に販売を考える方法。それに続くアプローチとして、顧客のニーズや欲求を満たす価値を提供すべく開発を行う「マーケットイン」に開発の思考も変化している。

図2 新製品・サービスの開発のアプローチ(その1)

ISO9001においても、当初の単に仕様・規格を守って製造・顧客に届けるのではなく、企画・設計重視に変わってきていて、上記の変遷も要求規格に反映されている。ISO9001:2008版*1では、要求事項7.2 「顧客関連のプロセス」がこれに該当し、製品・サービスのアプローチは「要求事項の明確化」に重点が置かれている。

図3 ISO9001:2008版における製品・サービスのアプローチ

図4 ISO9001:2015版での製品・サービスのアプローチ

一方ISO9001:2015版*2では、要求事項8.2「製品及びサービスに関する要求事項」がそれに該当する。

2008版とは異なり、製品・サービスを通じて顧客に価値を提供するには、顧客が何を欲しているかが重要であることを明確にした後、それを得るために顧客とのコミュニケーションが必要であることを示している。2008版はどちらかといえばプロダクトアウト的であり、2015版ではよりマーケットイン・顧客ニーズ主眼へと変遷していることが明らかである。これらは、「ニーズや欲求」や市場性分析では基本的に顕在化しているものが対象となっている。しかし、今日、多くの人は必要なモノは持っており、お客様の言う「こんなの欲しい」は、大抵、どこかの会社が作って販売している。顕在化している「ニーズや欲求」や市場を対象とした製品・サービスでは、差別化や付加価値提供が難しくなっている。

近年、ユーザー視点での「潜在ニーズ(欲求があるが気づいていない)」や「インサイト(欲求すらまだ無い)」が注目されている。これらを掘り起こす手法となる「デザイン思考」、また、新しい価値を提案し、これらを喚起するイノベーションを如何に創出するかの取組である「ISO56002」が注目されている。

図5 新製品・サービスの開発のアプローチ(その2)

2.ISO56002:イノベーション・マネジメントシステム*3

2019年7月にISOで従前のような認証規格ではないイノベーション・マネジメントシステムのガイダンス規格が発行された。

それまでの企業活動は主として効率化を追求するものであったが、それも限界に近くなっている。製品・サービスも仕様や機能においても大同小異になり、差別化のために効率化追求に加え創造性が求められるようになっている。一方、イノベーションと呼べる革新的・画期的な製品・サービスは一部の特異的な人やベンチャー企業に多く見られ、一般企業では遠いものと認識されていた。

これらを背景とし、既存組織(大企業・中堅・中小企業含む)からイノベーションを生み出すことが、どの国の組織においても切望され、それは世界共通の課題に対応したものとなっている。

図6 イノベーションマネジメントのフレームワーク:出典IS056002対訳版:(一社)日本規格協会)

イノベーションマネジメントのフレームワークを構成するPDCAサイクルのうち「活動(Do)」に特徴がある。「活動(Do)」は、要求事項8.3:イノベーションのプロセスが、イノベーションに係る情報のインプットをトリガーとして、8.3.2.機会の特定、8.3.3.コンセプトの創造、8.3.4.コンセプトの検証、8.3.5.ソリューションの開発、8.3.6.ソリューションの導入と展開される。他のプロセスと異なり、一方向でなく、非線形であり試行錯誤の繰り返しが「コンセプトの検証」過程を中心にされることである。

また、このプロセスは、ユーザー体験を始点として、ユーザーニーズを理解(共感)し、潜在ニーズ・インサイトを理解し(問題定義)、アイデア出し(創造)、それをプロトタイプ、検証(テスト)のプロセスを用いて行い創造的なアイデアを生み出す「デザイン思考」と共通する。  これらのことからも、イノベーション創出に限らず、新製品・サービス開発には、「コンセプト」創造がポイントであることが共通項として見出される。また、この規格の特徴として、イノベーションの創出を一部の天才や偶然(セレンディピティ)ではなく、マネジメントとし、暗黙知を形式知化することが最大の目的であり、イノベーションをマネジメント・システムとして確立できれば、その創出できる確率を高めるものである。

3.価値創造マネジメントに関する行動指針*4

一方、日本ではISO56002を基に日本の事例・日本的経営の要素を鑑み、経済産業省を中心にイノベーション100委員会」が発足された。新規事業・サービス・製品開発の際に直面する課題に対し、それを克服するための重要項目、我が国の大企業が新たな事業創造をする際に直面している課題を踏まえ、これまでの既存事業の維持だけでなく、新たなイノベーションを生み出すための変革を目指し挑戦をしている企業向けに策定された。

この行動指針は、「経営者への7つの問いかけと12の推奨行動」で構成される。
1)何を、目指すのか、①存在意義に基づき、実現したい未来価値を構想・定義し、価値創造戦略をつくり、社内外に発信する。2)なぜ、取り組むのか、②自社の理念・歴史を振り返り、差し迫る危機と未来を見据え、自社の存在意義を問い直す。3)誰が、取り組むのか、③経営者自らが、戦略に基づき、情熱のある役員と社員を抜擢し、常に、守護神として現場を鼓舞し、活動を推進する。4)何に、取り組むのか、④既存事業の推進と同時に、不確実な未来の中から、事業機会を探索・特定し、短期的には経済合理性が見えなくても、挑戦すべき新規事業に本気で取り組む。5)どのように、取り組むのか、⑤資金・人材等のリソース投入プロセスを、既存事業と切り分け、スピード感のある試行錯誤を実現する【意思決定プロセス・支援体制】、⑥経営状況に関わらず価値創造活動に一定の予算枠を確保し、責任者に決裁権限を付与する【財源・執行権限】、⑦価値創造にむけ、社内事業開発と社外連携を通じて試行錯誤を加速する仕組を設ける。6)どのように、続けるのか、⑧価値創造活動においては、自由な探索活動を奨励・黙認すると共に、リスクを取り、挑戦した人間を評価する仕組を装備する【人材・働き方】、⑨価値創造活動においては、小さく早く失敗し、挑戦の経験値を増やしながら、組織文化の変革に取り組む【組織経験】、⑩スタートアップとの協創、社内起業家制度の導入等により、創業者精神を社内に育む【組織文化】、⑪スタートアップや投資家に対して、価値創造活動を発信し、自組織の活動を支える生態系を構築する。7)どのように、進化させるのか、⑫経営者が価値創造活動を見える化(文書化)し、組織として反芻(はんすう)し、活動全体を進化させ続ける。

このようにISOにおいても、製品・サービスの企画・開発の重要性を捉え、さらに、その開発の視点を顕在ニーズからそれの掘り起こし、さらに価値創造・提供へと高めている。

4.コロナ禍による行動変容による影響、「場」*5の喪失

この行動指針は、自らのイノベーションの創出を切望する大企業を主眼として、他のイノベーション創出を果たしている大企業のベストプラクティス事例を抽出している。中小企業では適用が難しい項目もあるが、「存在意義への問い掛け」「スモールスタート」「自前主義だけでなく外部連携」等、有効活用できる項目も整理されている。これについても前記ISO9001同様に、自社のシステム構築や行動計画のモデルとすべく、いいとこ取りすればよいと考える。

この行動指針で注目すべきは、「人」、組織の活用とコミュニケーションを重視しているところである。

コロナ禍により多種・多様な行動変容が生じると考えられるが、その一例として「オンライン化」、「デジタルシフト」、「分散化」が進む。一部の調査で大手企業を中心にリモートワーク化により、業務効率が向上したとの結果もあるが、日本の国力の源泉は、企業数99.7%の中小企業である。その中小企業では、効率が上がったということは聞こえてこないし、そもそも、リモートワークが進んでいない。費用や情報リテラシー等の課題もあるが、組織・経営体質の違いだと考える。大手では業務の標準化が進み、役割分担も明確になっているが、中小企業では人的資源の不足をそれぞれが補い、オーバーラップするような活動になる。「阿吽(あうん)の呼吸」「円滑なコミュニケーション」「仲間回し」「摺合せ技術」「多様性」を大きな強みとしているが、このコロナ禍で「阿吽(あうん)」「雑談」等を典型的な「場」が、必然的に減ってしまうことが懸念される。

ここでいう「場」とは、物理的空間だけではなく、知識創造における「相互関係」も意味する。

「場」の役割・効果として、情報の非対称性の改善、関係者や関係者以外の出会い、モチベーション向上、コンセンサス、雑談、共感、相互の働きかけ、共通の体験、異文化交流、一見無駄にも見える動き等「相互作用」であり、中小企業では規模が小さいこともあるが、無意識に実施されていることも多い。

「場」を効率的・有効に機能させるには、「隔たり」を減じる必要がある。物理的な隔たりを減らす策として、“他部門を1フロアに一同に”、“デスクのフリーロケーション” 心的な隔たりを減じる策として、フラットな組織、職責で呼びを「~さん」呼びに、内部人材では利害関係やヒエラルキーがあるので、さらに利害関係が無い外部人材とのプロジェクト等が見られる。  企業における価値創造の主体は人であり、人の可能性を高めるのが「相互作用」である。

5.まとめとして

1)ISO活用のメリット(確固たる経営システムを持たない中小企業ではフレームワークとして有効)
ISOでの要求事項とは、企業が実現すべき基本要件を示す。上記のようにISO9001、ISO56002においても同様に、それの実施を促す要求事項の細目が示されている。さらに、上記のように顧客視点を重要視する傾向はより高まっており、製品・サービスの企画・開発だけでなく、確固となる経営システムを持たない中小企業では、ISO認証取得するか否かは別として、このフレームワークをたたき台として、自社のシステム構築や自社の仕組み・システムの見直しや評価に有効と考える・

2)「場」の積極的構築と活用(相互作用の創出と誘発)
経営資源として、人・モノ・金・情報以外に、それらを相互作用させる「場」が必要と考える。中小企業の強みである「相互作用」を誘発・創造する「場」を意図的・積極的に作って頂きたい。

3)ISO56002はコロナ前の2019年7月に発行された。コロナ禍の影響をどのように改訂版として反映さるのか併せて注視したい。


脚注
*1 対訳ISO9001:2008 品質マネジメントの国際規格 日本規格協会編
*2 対訳ISO9001:2015 品質マネジメントの国際規格 日本規格協会編
*3 IS056002対訳版:(一社)日本規格協会
*4 日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針 ~イノベーション・マネジメントシステムのガイダンス規格(ISO56002)を踏まえた手引書 経済産業省 イノベーション100委員会 2019年10月4日
https://www.meti.go.jp/press/2019/10/20191004003/20191004003.html(2021.03.23確認)
*5 伊丹敬之、野中郁次郎ら

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