今こそ取り組む事業再構築

中小企業診断士 新井 一成

1.事業再構築とは

新型コロナウイルス感染症による感染拡大は、ワクチン接種が進みつつある中でも、一向に治まらず、我々の生活や社会・経済に大きな影響を及ぼしています。また、少子高齢化の進展は経済環境に着実に影響を与えつつあります。そして、地球温暖化や異常気象といった自然環境も、今後のビジネスに対して大きな影響を与えます。

このように大きな事業環境変化の中で、各企業は、足下のコロナ禍の影響が治まった後も見据えた上で、今後の事業の方向性を見直すことが必要となっています。コロナ禍以前に順調に続けられてきた事業は、コロナ禍後も同じように続くでしょうか?たとえばオフィス街にある飲食店であれば、コロナ禍が治まった後にオフィスに人が戻ってくるでしょうか?テレワークや企業の本社機能移転の影響は、コロナ禍後にも続くかもしれません。また長期的な少子高齢化の影響が、前倒しで顕在化するかもしれません。ネットショッピングの増加で取扱量の増えた物流産業は、コロナ禍後には取扱量が減少するのでしょうか?それとも、この傾向がさらに加速して行くのでしょうか?その答えは、個々の企業の事業内容や状況によって、様々に変わってきます。ただひとつ共通に言えることは、大半の企業が、今後の大きな変化の中に巻き込まれざるを得ないということです。これは、今コロナ禍の影響で窮境にある企業にとっても、逆に足下では好調を保っている企業にとっても言えることです。

そこで、大きな変化点を迎えつつある今こそ、自社の事業を見つめ直し、新しい事業の在り方や方向性を見定める「事業再構築」が重要となります。

2.事業再構築の進め方

以下では、事業再構築の進め方を大きく3つのステップに分けて紹介いたします。

2-1.事業の内部環境・外部環境を見極める

事業再構築を進めるにあたって、まず大切なことは、現在の自社事業の内部環境(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)を見極めることです。特に事業再構築を行う場合には、完全な新規事業とは異なり、現状の自社の経営資源(人・モノ・金・情報)あるいは「強み」を活用して、新たな事業展開を図ることになりますので、現状を分析することが重要となります。

内部環境、特に「強み」としては、たとえば飲食店であれば、腕の良い料理人がいる、品質の良い材料の仕入れルートを確保しているなどが、製造業であれば、他社に真似できない技術力がある、特許を取得しているなどが考えられます。また、業種に関係なく、優良な顧客や販売チャネルを持っていることなども「強み」になります。事業再構築を進める場合には、内部環境として「強み」をより多く見つけ出すことが重要です。

外部環境としては、コロナ禍による「脅威」だけではなく、中長期的に影響のある市場環境や社会動向を分析します。たとえば、コロナ禍の中で発展した非対面・非接触のサービスは、今後も一定の割合で継続するのでしょうか?これはそれぞれの業種やサービスによって見方が異なってきますので、自社の特徴と合わせて考える必要があります。また、テレワークやビデオ会議は、様々な欠点も指摘されていますが、時間や場所に縛られずに働いたりミーティングしたりできるメリットがあり、コロナ禍後にも利用は進むものと思われますので、その影響を考えることになります。

内部環境・外部環境を見極めた上で、自社が取り組むべき新たな事業を見定めます。基本的には「強み」を活かし「機会」を活用するような事業を選び出すことになります。

2-2.戦略立案:あるべき姿とのギャップを埋める計画

新たに取り組むべき事業を決定したら、その事業の中長期的な将来(3年~10年)の「あるべき姿(目標)」を定めます。目標が設定されると、自社の現状との差「ギャップ」が明確になります。このギャップを埋める具体的な計画こそが事業再構築計画の最も重要な部分になります。

たとえば、現在食品製造販売を行っており、健康食品に強みがあったとして、その強みを活かして、高齢化の進展という市場環境に合わせて、高齢者向け食品事業を新たに展開するとします。食品製造や健康食品についてのノウハウは十分にあったとして、新たな顧客である「高齢者」の開拓はこれから、ということであれば、ギャップを埋める計画は「高齢者顧客の開拓計画」ということになります。ギャップは1つだけとは限らず、多くのギャップが見つかる場合がほとんどです。多面的に検討して、それぞれのギャップを埋める計画を立案します。

ただし、計画の実行にあたっては、計画通りに進まない場合も考えられます。そこで、事前にオプション戦略を策定しておくことも重要になります。たとえば、市場動向が期待通りにならなかった場合、強力なライバルが出現した場合、などを想定して、代替案をいくつか用意しておきます。最悪の場合には「事業撤退」というオプションについても、事前に検討しておくことで、状況が悪化した場合に対応しやすくなります。

2-3.財務計画

戦略が定まったら、売上、原価、各種経費などを見込んだ、財務計画を作成します。売上の見込みについては、可能な限り自社がターゲットとする市場や顧客について細かく分析して見積もることが望まれます。原価については、過去の延長で考えるだけではなく、新たに変わる部分が無いかどうか精査します。いままでと異なる事業に取り組む以上、各種経費についても、必ず従来とは異なる部分がありますので、忘れずに検討します。これらを精査した結果として、充分な利益が見込めない場合もあります。投資した額が回収できなければ計画としては成立しません。そのような場合には、2-2に戻って、戦略を見直すことも重要です。

新たな事業では、入金や支払いのタイミングが変わってくる可能性があります。たとえば飲食店がネット販売を始める場合、店舗では売上即入金であったものが数日後に、場合によっては月単位で入金が遅くなるかもしれません。その間の運転資金が増加しますので、資金調達計画を見直す必要が生じます。また、新規の事業のために、設備投資など大きな資金が必要となる場合もあります。その資金調達についても計画が必要となります。

3.事業再構築補助金

事業再構築を進めるにあたっては、新たな設備投資を必要とするなど、大きな資金が必要となることが多くなります。現在コロナ禍で窮境に陥っている企業にとっては、この資金を捻出することは、非常に困難な状況にあります。このため、コロナ禍の窮境の中にあっても、事業再構築を進める企業を後押しする支援制度が、事業再構築補助金です。事業再構築補助金については、6月のトピックス「『事業再構築補助金』申請に必要な5類型区分の方法と「日本標準産業分類」の見方、読み方について」に詳しく解説されていますので、そちらをご参照下さい。

4.経営課題解決セミナーのお知らせ

川崎中小企業診断士会では、川崎市産業振興財団と共催で、「新時代の生き残り・成長戦略」というテーマで全6回の経営課題解決セミナーを開催いたします。第1回は「新たな成長を勝ち取る事業再構築の進め方 ~事業再構築補助金の活用~」というタイトルです。
 ・日時: 2021年10月4日(月) 18:00~20:00
 ・場所: 川崎市産業振興会館/オンライン併用(オンラインのみとなる可能性もあります)
 ・参加費: 無料
詳細ならびに申込方法はこちらをご覧ください。

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