事業承継をめぐる状況とトラブル事例

中小企業診断士 平田 仁志

最近の事業承継をめぐる状況について概観した後、事業承継が円滑に進まなかった事例や、事業承継後経営がうまくいかなくなったというような事例とその予防策について述べさせていただきます。

Ⅰ 事業承継をめぐる最近の状況

1 今、日本は大廃業時代と言われる状況にある。

今、日本は大廃業時代と言われるような状況となっています。その理由は、経営者の高齢化の進行に伴い必要性が高まっている事業承継が順調に進まず、黒字でも廃業してしまう事業者が極めて多いからです。

平成29年に経済産業省が発表した資料によれば、今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万(日本企業全体の約3割)が後継者未定である、と書かれています。つまり、このままでは廃業してしまう可能性が高いということです。

2 廃業する事業者は赤字企業ばかりではない。

後継者未定の事業者は赤字の事業者かというとそうではありません。2021年版の中小企業白書によれば休廃業する事業者の約6割が黒字です。売上高対純利益率が3%以上の事業者に限っても30%以上となります。

廃業予定企業であっても、3割の経営者が、同業他社よりも良い業績を上げていると回答し、今後10年間の将来性についても4割の経営者が少なくとも現状維持は可能と回答しているのです。

それでも廃業してしまう理由として、後継者が見つからないからという理由をあげる経営者が約3割いるのです。

3 事業承継推進を課題として、政府は様々な対策を進めている。

政府は平成29年7月に「事業承継5か年計画」を発表し、この期間に集中的に事業承継支援を実施することとしています。税制については事業承継特別税制が有り、その適用を受けるための事業承継計画の提出期限は令和5年3月末とされています。

4 事業承継には時間をかけた準備が必要である。

事業承継をしなければと思って準備を始めたら、十分な対策を講ずることができなかったという例や、経営者が突然亡くなってしまい、やむを得ず事業承継をしたが、業績が悪化してしまい、事業継続が困難になってしまったという例も有ります。事業承継対策はできるだけ早めに着手することが重要です。

Ⅱ 事業承継トラブル事例と予防策

以下では、事業承継が円滑にいかなかった事例を一つご紹介します。川崎中小企業診断士会ではここでご紹介する例を含め、10のトラブル事例とその予防策を記載した「事業承継トラブル事例集」を作成しています。

1 有名な事例

最近の事業承継をめぐるトラブル事例としては大塚家具が有名ですが、ここでは少し前の一澤帆布の事例を取り上げます。一澤帆布は、帆布を使ったバッグで有名なブランドです。

同社は1905年創業の老舗かばん製造会社であり、主に職人用カバンの製造を行っていました。三代目社長が戦後登山用品も手掛けるようになりましたが、経営は厳しい状況が続いていました。1980年に窮状を見かねて新聞社を退職し家業に参加していた三男が1983年に代表権を承継し社長となり、当時零細企業であった事業を一般消費者向け商品の開発やそのブランディングに成功、順調に事業拡大を進めました。

そのような中で、2001年に先代社長が死去。当時、弁護士に託されていた遺言書では67%の株式を三男夫婦に、33%を同じく家業に就いていた四男に、銀行預金等を長男に相続する内容でした。しかし、4ヶ月後に銀行勤務で家業には関係してこなかった長男が別の第二の遺言状を提出しました。その内容は長男に経営権を相続させるという全く異なった内容であり、遺言書の作成日が第一の遺言書より後であったため、こちらが有効とされました。

三男は第二の遺言書が偽造である旨の訴訟を行いましたが最高裁まで行って敗訴となり、その後再度奥様が提訴して、最終的には勝訴しました。しかし、この訴訟騒ぎの中で、お家騒動が広く世間に知れ渡りそのブランド価値が毀損してしまったのです。

このトラブルの原因はいくつかありますが、まず代表権を三男に譲った時点で株式を渡さず、前社長保有のままとしていた点があります。

次に、最初の遺言は弁護士に預けてあったものの、相続人全員に、三男に経営を継がせるということを明確に伝えていなかったことが有ります。家族の間で財産のことを話すのが難しい事情が有ったのかもしれませんが、可能な限り、相続人全員に意思を伝えることが重要です。

さらに、2つの遺言書が「自筆遺言」であったことも原因となってしまいました。自筆遺言は財産目録のパソコン入力や代筆が可能など、使い勝手が良い一方で、①相続後の遺言執行に時間がかかる②遺言の法的要件が不備のケースが多い③偽造や改ざんのリスクが高い、等の様々な問題があります。「公正証書遺言」を利用することによってトラブルを回避できた可能性もあります。

2 その他の事例と予防策

社長が、事業承継の準備ができないまま急逝してしまうという事例もよく有ります。

創業社長のエネルギッシュな活躍で20億円の売上で業界の二番手と言われた会社の例もその一つで、社長が55歳で突然亡くなってしまいやむを得ず奥様が社長となったのですが、社内をまとめきれず業績が急激に悪化し、外部専門家の手を借りて再建した例や、突然社長が無くなってしまったが組織体制ができていなかったために、事業が継続できない状態に陥った例などが有ります。

また、有能な従業員に後を継がせるつもりで、利益も出ているし、問題ないだろうと思っていたのに、いざ話をしてみたら従業員から断られてしまい、相談に来たという例も有ります。

事業承継は、会社ごとに事情が変わります。その事情に合わせた早めの準備が大事です。専門家の診断を受け、何をいつまでに準備したらよいか、確認した上で、長期的計画的に準備を進めたいものです。

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