ものづくり企業の利益向上は現場改善から(現場の付加価値やムダとは何かを再確認しよう)

中小企業診断士 野口 隆

1.日本のGDP推移について

日本のGDP(Gross Domestic Product:国内総生産)は1995年以降ほぼ横ばいですが、米国や中国は大きく拡大しています(図-1)。米国や中国のGDP拡大は就業人口増加が一つの要因ではありますが、それよりも1人当りのGDPつまり「付加価値生産性」が大きく向上したことによります。それに比べて過去25年間、日本のGDPは横這いむしろ減少しました。1995年以降、日本の人口は減少していないので、その最大の要因は「付加価値生産性」が向上しなかったことです。付加価値生産性の大きさは国の豊かさを測る指標ですが、日本は過去25年間この指標が上向くことは無く生産性向上の努力が全く足りなかったとも言えます。

図-1 上位5カ国のGDP推移

2.日本の付加価値生産性について

経済成長を表す日本のGDPは前述した通り、ほぼゼロ成長という不名誉なことになっています。その要因として、日本の製造業のものづくり現場が安い労働力を求めて海外移転に走った結果、日本国内の製造業は空洞化し、「ものづくり」で得られる付加価値額も大幅に減少、生産性も低迷したことが挙げられます。かつては「ジャパン・アズ・ナンバーワン(JAPAN AS No.1)」と言われ、世界に誇れる「日本のものづくりの栄光」は遠い過去のものになった感があります。

とはいえ日本のGDP総額は現在でも世界第3位ですが、それは人口が多いからであり2020年の全産業平均の「一人当りGDP」いわゆる「付加価値生産性」は、先進国では最下位グループで、台湾15位、韓国28位、日本33位という数字です(図-2)。製造業だけを比較すれば33位より上位と想定できるものの、とても自慢できる数字ではありません。
 (注)付加価値生産性(1人当たりのGDP)=GDP÷総人口数

図-2 2020年1人当たりGDP(USドル/人年)上位5カ国のGDP推移

3.日本の付加価値生産性の推移

それでは過去は日本の付加価値生産性は他国と比較してどうだったのかを検証してみます。1970年から2010年まではほぼ20位であり、近年よりも上位ですが、他国より良いという実績にはなっていません。2010年以降は20位~28位と悪化していて、生産性向上は日本の経済的な競争力を強化する上での最重要課題と言えるようです。

図-3 日本の付加価値生産性の推移

4.大企業と中小企業の付加価値生産性の推移

日本における付加価値生産性は大企業と中小企業では大きな格差があり大企業は中小企業の2倍以上となっていて、中小企業の生産性は低くなっています。大企業は1990年以降、若干、生産性が向上しているものの大きな改善は見られません。一方中小企業は逆に悪化傾向となっていて今後の大きな課題となっています。

図-4 大企業と中小企業の付加価値生産性の推移

5.日本の「ものづくり」と付加価値生産性について

過去3年間は新型コロナウィルスの感染拡大により、サプライチェーンが分断され、材料や部品調達が滞り生産がストップ、世界的に経済活動も停滞しています。そんな中、日本のものづくりは国内回帰の動きも見られるようになっています。また近年為替は円安の長期化が予想され、製造業の国内回帰やコスト競争力には大きな追い風となります。これまで、日本の製造業は海外生産の廉価な労務費を活用することでコスト低減を達成してきました。その結果、ものづくりの過程で革新的な知恵や技術を使って付加価値生産性を向上させる取り組みが疎かになったようです。ものづくりで最大のコストは労務費ですが、【A】労務単価と【B】時間の積(下式)で表されます。

【A】または【B】のどちらかまたは両方を小さくすれば労務費は低減できます。これまで【A】の安い国へ海外移転したり、外国人労働者を雇用したりする安易な方法で労務費低減を実現してきた感があります。このような取組では決して革新的な技術や知恵は生まれてきません。生産性向上で最も大切なのは【B】時間の低減を目指すことですが、この取組みこそが付加価値生産性向上の本質です。海外生産に頼るだけでは「ものづくりの革新や競争力」は向上しなくなります。

海外の労務単価が安いとはいえ、その甘い果実は小さくなりつつあり、海外生産のリスクも覚悟すべきです。「時間」生産性の向上が重要であり、それによって付加価値を日本国内に取り戻して日本国内のGDP生産性を向上させる必要があります。これは新たな生産方法、自動化、DX化など「ものづくりの力」を革新すれば十分に達成できるはずです。

6.日本の製造業における現場の位置づけ

今こそ、ものづくりの原点回帰をして付加価値生産性向上に邁進することが求められています。そこで過去に培ってきた日本のものづくりの考え方や知恵を簡単に整理したいと思います。

日本独特の「三現主義」※という言葉に代表されるように、価値を生むのは「ものづくりの力」をもっている「現場」という考え方です。さらに「ものづくりの力」とは高い生産性を通じて「価値」を生み出す力のことであり、これを「現場力」と呼んできました。さらに現場力とは「知恵や知識」「技能や技術」「姿勢や意識」などの総称を意味します。優れた現場力を備えている企業は、高い価値を生み出せる力量があるということです。設備や道具も重要なものづくりの資産ですが、これを考え出すのも現場力であり、これも人間の知恵です。

つまり高い生産性で大きな価値を生むには「現場力」を備えることが必須ということになります。

※三現主義とは:机上の空論ではなく、実際に“現場”で“現物”を観察し、“現実”を認識した上で改善解決を図るという考え方のこと。

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