DX最初の一歩は現場の「見える化」から

中小企業診断士 新井 一成

1.進まないDX化

2023年度の中小企業白書によれば、2022年時点での中小企業のデジタル化の取組み状況は、全体の66%以上が段階2以下の状態です。

「段階2」とは、デジタルツールを利用できている、という段階で、電子メールや会計ソフトなどを導入しているだけで、DX本来の業務効率化などにはまだ活かされていない状態です。2019年の調査時点(82%以上)に比べると改善されていますが、それでもまだまだです。(デジタル化の取組みの段階については文末参照)

DXは「D」デジタル化に目が行きがちですが、実は「X」トランスフォーメーションがポイントです。

DX化が進まない理由として、「(デジタル化投資の)費用対効果が分からない」「社内にデジタル人材がいない」などが主な理由として挙げられますが、まず取り組むべきなのは「X」トランスフォーメーションに向けての意識付けなのです。

デジタル化を行わなくとも、従来通り業務を行えば、仕事は回りますので、普通はそのままでも、目に見える不都合はありません。しかし少子高齢化による消費低迷や人材不足、世界情勢を反映した物価やエネルギー価格の高騰など、外部環境は急速に変化しており、従来どおりの仕事のしかたをしていたのでは、じり貧に追い込まれるリスクが高まっています。そこで「X」トランスフォーメーションに取り組んで、業務効率を改善することが、どの企業にも求められているのです。

2.現場の「見える化」

それでは、現在の社内の業務は本当に効率よく実施されているでしょうか?実は「効率が良いのか悪いのか、意識したことが無い」という場合も多いのではないでしょうか?

一部の中核業務については、お客様からの要望に応えるべく、納期の短縮やコストの低減に取り組む中で、自然に効率改善が行われているかもしれません。しかし、それ以外の業務はどうでしょうか?例えば、従業員の出退勤の集計作業、日々の交通費や少額経費の精算作業、お店の商品の補充作業など、様々な付帯業務の効率はどうでしょうか?そもそも、どのような作業があり、どれだけの手間や時間がかかっているか、把握できていますでしょうか?電気代などは、値上げが進んでから慌てて、これまでの実績を見直してみた、ということはありませんでしょうか?

DX化は中核業務を含めて、企業全体のさまざまな業務の効率に目を向け、関心を持つことから始まります。例えば、上に例示した出退勤の集計作業であれば、毎日の出退勤の記録はどのように行っているでしょうか?従業員一人ひとりが、出勤表に記録を行っている企業もあるでしょうし、タイムカードを導入している企業もあるでしょう。そして、その記録を総務担当の方が毎月集計するために、電卓をたたいたり、表計算ソフトに入力したりしているのではないでしょうか?それでも不都合はないのですが、担当者の残業が増えたり、他の業務が滞ったりしているかもしれません。また、社外の現場に出勤する従業員がいる場合には、その勤務表の作成に手間がかかっているかもしれません。現場での毎日の作業であれば、積上げると意外に大きな時間になっていることも考えられます。

このような現場での細かな作業の積み上げが、実際には他の業務を含む様々な効率に影響しています。作業現場や製造現場で繰り返し実施される作業であれば、影響は非常に大きくなります。そこで、まずはどのような作業にどれだけの手間や時間がかかっているのか、現場を「見える化」してみることが重要です。最初は1週間とか1ヶ月とか期間を区切って、作業の時間を測ったり、記録したりしてみることから始めます。その結果、「思ったよりも時間がかかっている」「ここを短縮できれば、楽になるはず」などが分かって来るはずです。そして、「どうやって作業を減らそうか」という知恵を絞ることができるようになります。

3.デジタル化の出番

作業削減のアイデアが見つかれば、それを実行しながら、効果を見るために、引き続き「見える化」が必要となります。最初は人手で行う「見える化」も継続的に続けるためには、それ自体の手間も削減する必要があり、その手段としては「D」デジタル化は、大変有力な手段となり得ます。

例えば、出勤表やタイムカードの代わりに、スマホを使った勤怠記録システムなどは、無料から利用できるものもあります。製造現場での作業記録は、多少工夫が必要になりますが、比較的安価で導入できるシステムもあります。

「見える化」が進めば、その先の効率化についても「D」デジタル化を活用するアイデアがいろいろと湧いてくるはずです。ここまで進めば、自然にデジタル化の段階2を卒業して段階3に進み「DX」が実現して行くことになります。

4.最後に

冒頭で、デジタル化の取組みは66%以上の企業が段階2以下と書きましたが、裏を返すと、1/3以上の企業はすでに業務効率改善を行う段階3以上に進んでいるということです。まずは現場の「見える化」に取組み、DX化に乗り遅れないようにしませんか?

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