知っておきたいデザイン経営~中小企業診断士が考えるデザインの大切さ~

中小企業診断士 古山 亮一

最近、経営やビジネスの場面で「デザイン経営」という言葉を聞くようになりました。経済産業省と特許庁が2018年に「デザイン経営宣言」を発表して以来、大企業を中心に取り組みが進んでいますが、中小企業の経営者にとっては、まだ少し遠い言葉かもしれません。
ただ、少しずつですが「うちの会社でもやってみたい」「何かヒントがありそうだ」と関心を持つ方も増えているように感じます。支援現場で経営者の方とお話しする中で、「デザイン=おしゃれにすること」「外注すればなんとかなる」といったイメージが先行しているケースも多く、少しもったいないなと思うこともあります。
そこで今回は、「デザイン経営とはなにか」「そもそもデザインとは何か?」「デザイン経営の成功事例」について紹介したいと思います。

【デザイン経営とはなにか】

「デザイン経営」と聞くと、見た目をきれいにすることかな?と思われがちですが、本当はもっと深い意味があります。経済産業省・特許庁によれば、デザイン経営とは、デザインを会社の中心に置いて、企業のブランド価値やイノベーション力を高める経営手法です。
デザイン経営には2つのポイントがあります。一つは「ブランド価値の向上」、もう一つは「イノベーション力の強化」です。つまり、「自分たちの会社は何のために存在するのか(Why)」を明確にして、それをお客様や社会にきちんと伝えていくこと。そして、デザインを通じて新しいアイデアや価値を生み出していくことが重要なのです。
これは、単なる「製品の見た目」や「パッケージの工夫」ではありません。たとえば社名やロゴ、Webサイト、社員のユニフォームに至るまで、会社の思いや姿勢を表現するあらゆる部分にデザインが関わってきます。そして、そうした一貫性のあるデザインが、社内外に安心感や信頼感を与えるのです。

【そもそもデザインとは何か?】

さて、「デザイン」という言葉を改めて考えてみると、私たちはどうしても「おしゃれにする」「飾る」など、見た目のことをイメージしてしまいがちです。でも実際のデザインは、「課題を解決するための創造的なプロセス」だといわれています。
ここで大切なのは、「アート」と「デザイン」の違いです。アートは作家自身の表現や感性を中心に作品が生まれますが、デザインは「誰かの課題を解決すること」が出発点になります。デザイナーはいつも、「誰のために」「何のために」という視点を持ち続けています。
たとえば、文字が読みにくい資料をわかりやすく整理したり、使いづらい製品をもっと直感的に操作できるようにしたりするのもデザインの一部です。「相手の立場になって考える力」「工夫して伝える力」「構造的に整理する力」などが、デザインには含まれています。
私たち中小企業診断士が普段行っている仕事にもとても似ています。経営者と一緒に経営の課題を探し、その解決方法を提案するのが私たちの仕事です。デザイナーと診断士、実は課題解決という点では同じアプローチをとっていると感じています。

【中小企業における事例】

デザイン経営は大企業だけではなく、中小企業にも成功例が出てきています。例えば新潟県にある老舗の和菓子店さんは、パッケージデザインを新しくしてブランドのコンセプトをはっきり伝えることで、若い世代のお客様を獲得しました。その結果、売上が前年の1.5倍になったそうです。
また、愛知県のある金属加工会社は、素晴らしい職人の技術を持っているのに、それをうまく伝えられずにいました。そこでデザイン事務所と協力して、展示会やパンフレット、Webサイトのデザインを一新。すると海外からの引き合いが大幅に増え、新しい販路が開けたそうです。
さらに、ある都内の小さなコーヒー焙煎所では、店舗のロゴやパッケージ、店内のインテリアを一新することで、お客様の滞在時間が延び、SNSでの投稿が増加。結果的に観光客の来店が増え、売上の底上げにつながったとのことです。
これらの例を見ると、デザイン経営が単なる「見た目の改善」ではなく、企業が自分たちの価値を再認識し、新しい成長のチャンスをつかむきっかけになることがわかります。

【経営とデザインは似ている】

「デザインって経営にとても近い」と感じています。実際に、私も診断士として経営支援をするなかで、「デザイナーが考えていることとよく似ている」と思うことが多々あります。
デザインと経営には、「問題をしっかり観察する」「構造的に整理する」「共感を大切にする」「試作を繰り返し改善する」といった共通点があります。これらの視点から考えると、「デザイン=マーケティングの一部」という捉え方はちょっともったいないと思います。
また、デザインは「伝える力」でもあります。自分たちの強みやこだわりを、伝わる形に変える。それが上手な企業は、自然とファンが増え、価格競争に巻き込まれにくくなる印象があります。
経営者がデザインを「結果」ではなく、「課題解決のプロセス」として理解するとき、経営とデザインはより強く結びつき、会社を変えていく力になっていきます。

いろいろな会社を訪問するなかで、「デザインが経営の一部になったら、もっと会社がよくなるのに」と感じることが多くあります。経営もデザインも、「誰かのために課題を解決する」活動です。診断士とデザイナーは、本当に同じ目線で仕事をしているんだな、と思うのです。
この「デザイン経営」という言葉をきっかけに、もっと深くデザインを学んでいきたいと思っています。デザインを新しい武器にできたら、きっと今まで以上に経営者のお役に立てるのではないでしょうか。みなさんもぜひ、「デザイン経営」に少し注目してみてください。きっと新しい発見があるはずです。

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