「顧客の声を聞けば売れる商品ができる」 ~陥りやすい商品作りの落とし穴~

中小企業診断士・AFP・総合旅行主任者 吉江 裕子 

売上アップの施策の定番は広告宣伝や販売政策ですが、商品面からも売上利益を上げることができます。商品企画の基本を押さえると、現業商品の強化にも適用できるので、企画には縁がないという方にもお役に立つことでしょう。
さて、「商品を出したが売れない」というケースはよくあります。商品企画の世界にはセンミツ(千三つ)という言葉があります。1000のアイデアがあっても、事業として成功するのは3つ程度――それほど難易度が高いという意味です。しかし、よくある落とし穴のパターンと避け方を知っていれば、成功率を上げることができます。

1.落とし穴のパターンを知る

数多くの落とし穴にも典型的なパターンがあります。

心当たりのあるパターンはありますか。
今回は、「顧客ニーズ誤認」商品が生まれる原因とニーズ誤認を避けるコツを説明します。

2.顧客ニーズ誤認商品とは

事例を一つご紹介します。


クラウドセキュリティカメラの仕様検討会議で、「お客様から、外部センサーとの連携機能の要望があるので追加して欲しい」という営業提案がありました。
以前より、営業担当からはこんな声が上がっていました。

  • 「センサーとの連携機能はないの?と言われる」
  • 「競合には付いている」
  • 「様々なシステムと連携できれば売りやすい」

大口顧客との商談でも要望が出ていたので、売上伸び悩みは機能不足が原因と判断し、追加機能の開発を決定します。社内では、これで急成長している競合他社にひけを取らないと期待がふくらみました。
しかし、リリース後の結果は厳しいものでした。確かに一部の既存顧客は新機能を評価しましたが、新規契約数はほとんど伸びなかったのです。それどころか、機能が増えたせいで、「メニュー画面が分かりづらくなった」「設定が複雑」という声が増え、以前は評価されていた“使いやすさ”が失われてしまいました。さらに問題だったのは、多額の開発費をかけた追加機能の多くがほとんど使われなかったことです。分析してみると、実際に頻繁に使用されていたのは、従来からある機能ばかりでした。


このように、「お客様が欲しがっている」という情報に基づいて作ったのに、刺さる人がほとんどいない、便利だけどなくても良いと評価される、というような商品が顧客ニーズ誤認商品です。

顧客の声を聴いてニーズに合わせた商品作りは重要なのに、なぜこのようなことが起きるのでしょうか。お客様が「本当に困っていること」「本当に必要なもの」をそのまま言わないのは、珍しいことではありません。むしろ多くの場合、お客様の発言は要望そのものではなく、要望に対する解釈や思いついた解決案になっています。

なぜなのでしょうか。5つ挙げてみます。

①普段は意識していない:生活や業務の中の困りごとをずっと考えてはいないものです。だから聞かれたとき、一番困っていることはすぐに思い出さずにもっと軽い困りごとを答えることがよくあります。
②「本当の原因」を認識できていない:最も多いケースです。顧客は日々抱えている問題の本質までは突き詰めていないので、「もっと簡単にしてほしい」「機能を追加してほしい」といった“感覚的な要望”として表現されます。しかし実際には、操作動線が悪い、入力項目が多すぎるといった別の原因が潜んでいることがあります。
③「欲しい機能(手段)」を語り「欲しい結果(目的)」を語らない:しばしば「どう解決するか」を先に話します。「AI機能を付けてほしい」という発言でも、本当に欲しいのは、「上司への報告をラクにしたい」「作業時間を減らしたい」といった成果なのです。
④“今あるもの”を基準に考える:基本的に人の思考は現在の延長線上にあるので、発言は、競合比較、見聞きしたものに強く引っ張られます。「競合にあるから欲しい」と言っても本当に購入判断に結び付くとは限らず、「あった方が良い」程度のケースもあります。顧客は見たことのない解決状態・解決策は語らないのです。
⑤「言いやすいこと」しか言わない:顧客には心理的制約もあります。例えば、核心は「運用スキルが未熟」なのですが、さすがに言いづらいので「もっと簡単に使えるようにして欲しい」という表現に置き換わります。つまり商品の問題に見えて、実は運用の課題ということも多いのです。

3.JTBD理論 (ジョブ理論:Jobs to Be Done)

マーケティング分野にJTBD理論という考え方があります。
顧客は商品そのものが欲しいのではなく、「ジョブ(ある特定の状況で片付けたい用事)を達成するために商品を雇う(使う)」という考え方です。
マーケティングで有名な格言「お客が買ったのは1/4インチのドリルではなく、本当に欲しかったのは1/4インチの穴である」をこのジョブ理論に当てはめると、「穴を開けたい」というニーズのさらに奥にある目的が見えてきます。「ジョブ」を探ることは潜在ニーズの発掘につながるのです。顧客の声を聞くに当たって、この理論を意識しながら問いかけをするとニーズの誤認を防ぐことができます。
ジョブを探るには、ヒアリングの前に行動観察が重要だと言われています。

4.落とし穴に陥らずに顧客ニーズを把握するには

行動観察に続いて、要望を深堀りするヒアリングが鍵となります。

ここで注意すべきなのは「なぜ」を使いすぎると詰問しているような雰囲気になりますので、訊き方のバリエーションを持っておきましょう。

5.まとめ

優れた商品企画・営業・コンサルタントは、顧客発言を単なる「要件」としてではなく、背景、感情、業務フロー、制約、評価基準まで含めて解釈します。また、落とし穴の回避方法や成功のコツは、紙面の都合でご紹介できなかったものがまだまだあります。新商品の企画や現行商品のリニューアル等による売上・利益向上を目指すなら、「川崎中小企業診断士会」にお気軽にご相談ください。商品の企画開発経験など多様なスキルを持つスペシャリストが在籍しています。貴社の事業を成功に導くお手伝いをいたします。

【参考文献】
クレイトン・M・クリステンセン(2017)『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』 ハーパーコリンズ・ジャパン
セオドア・レビット(1971)『マーケティング発想法』 ダイヤモンド社

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