外国人材活用を経営改革の機会に変える視点

中小企業診断士・行政書士・ITコーディネータ 五十右 哲也 

1.いま、経営が直面している現実

日本は本格的な人口減少社会に入りました。2025年の国勢調査速報によると、総人口は1億2,305万人で、5年前から約310万人減少しています。この人口減少を前提とした経営への転換は、多くの企業にとって重要な課題です。
帝国データバンクの調査によると、人手不足を原因とする企業倒産は2025年度に441件発生し、3年連続で過去最多を更新しました。「人が採れない」という課題は、企業の成長だけでなく、事業継続に大きな影響を及ぼす経営課題になりつつあります。
また、多くの業種や地域において、「求人を出せば応募が集まる」という従来の前提は成り立ちにくくなっています。経営者には、限られた国内労働力を確保する視点だけでなく、多様な人材から選ばれる企業づくりを進めることが求められています。
一方で、厚生労働省によると、2025年10月末時点の外国人労働者数は257万1,037人と過去最多を更新し、外国人を雇用する事業所数も37万1,215事業所に達しています。これは大企業だけの動きではありません。外国人を雇用する事業所のうち、従業員30人未満の事業所が全体の63.1%、外国人労働者数ベースでも36.1%を占めています。「うちのような小さな会社に外国人は来ない」と考える経営者もいますが、実際には多くの中小企業で外国人材の雇用が進んでいます。
さらに、出入国在留管理庁によると、専門性の高い在留資格「技術・人文知識・国際業務」の在留者も2025年末で47万人を超え、前年比14%増となっています。
2027年4月からは、従来の技能実習制度に代わり、新たな在留資格「育成就労」制度が開始されます。この制度は外国人材を「人材育成・確保の担い手」と位置付け、特定技能制度への移行を前提としたキャリアパスを整備するものです。最大の特徴は、同一企業で1年以上就労し一定の要件を満たせば、本人の意思による転籍、すなわち転職が可能になる点です。これは外国人材にとって選択肢の拡大につながる一方、企業にとっては人材流出リスクへの対応も必要になることを意味します。今後は「採用できるか」だけでなく、「定着させられるか」が、企業の組織運営力や職場環境を示す重要な指標の一つになっていきます。
そこで、外国人材活用を経営改革の機会に変えるために、ここでは①企業にとって外国人材をどう位置づけるか、②自社の組織文化や現場運営は受け入れ準備ができているか、という二つの論点から考えてみたいと思います。

2.企業にとって外国人材をどのように位置づけるか

外国人材の受け入れを検討する際、多くの企業はまず「人手不足をどう補うか」という視点から考えます。もちろん、人材確保は重要な経営課題です。しかし、外国人材を単なる労働力の補充手段としてのみ捉える場合、その可能性を十分に活かしきれないことがあります。
経営者にとって有力な視点の一つは、外国人材の受け入れを自社の「経営改革を進める契機」として捉えることです。人口減少が進む日本では、人材獲得競争がさらに激しくなることが予想されます。その中では、人材を確保するだけでなく、多様な人材から選ばれる企業へと変化していくことが重要になります。
一部の中小企業では、長年同じメンバーで仕事を進めることで、価値観や仕事の進め方が固定化する場合があります。同質性の高い組織は意思疎通がしやすい一方で、環境変化への対応が遅れることがあります。「これまでこうしてきたから」という考え方が優先されると、新しい発想や改善提案が生まれにくくなることもあります。
外国人材の受け入れは、そのような組織に新たな視点や気づきをもたらす契機となります。異なる生活文化や教育背景を持つ人材は、既存の業務や慣習に対して自然に疑問を持ちます。「なぜこの手順が必要なのか」「もっと効率的な方法はないのか」といった問いは、従来のやり方を見直すきっかけになります。こうした問いかけは、時に現場に戸惑いを生むこともありますが、組織が改善や変革を進めるうえで有益な刺激となります。
また、外国人材が活躍できる環境を整える企業は、多様な価値観を受け入れる企業でもあります。そのような企業は、外国人材だけでなく、日本の若者や女性、シニアなど、多様な人材にとっても働きやすい職場となる可能性があります。結果として、人材確保だけでなく、組織の持続的な成長や競争力向上にもつながります。
外国人材の母国とのネットワークや語学力を活かせば、海外展開やインバウンド市場の開拓など新たな事業機会につながる可能性もあります。
2027年から始まる育成就労制度の下では、外国人材にも職場を選ぶ自由が広がります。採用力だけでなく、職場としての魅力をどう高めるかが、今後の経営課題になっていくでしょう。その意味で外国人材活用は、人手不足対策という側面だけでなく、自社の将来像を見直す経営改革上の主要テーマとして捉えることが重要です。

3.自社の組織文化と現場運営は受け入れ準備ができているか

外国人材を経営戦略上重要な存在として位置づけたとしても、それだけで活躍や定着が実現するわけではありません。実際の受け入れ現場では、組織文化やコミュニケーションのあり方が大きな壁となることがあります。
日本企業の中には、「言わなくても分かる」「空気を読んで動く」といった暗黙の前提が残っている職場もあります。報告・連絡・相談のタイミング、会議での発言の仕方、上司への確認の取り方など、多くのルールは明文化されずに共有されています。長年働いている社員にとっては当たり前でも、外国人材にとっては、そのルールが理解しづらい場合があります。
その結果、「指示したのに伝わっていない」「報告が遅い」「気が利かない」といった評価につながることがあります。しかし、それは本人の能力や意欲の問題だけではなく、企業側が期待する行動基準を十分に伝えられていないことが原因である場合も少なくありません。
こうしたミスマッチを防ぐためには、業務の見える化や標準化が有効な対応策の一つになります。例えば、「適宜報告する」「状況を見て判断する」といった曖昧な表現を、「毎日17時までに報告する」「異常が発生したら30分以内に上司へ連絡する」といった具体的な基準に置き換えることです。
業務内容を文章や図、動画で共有する標準化は、外国人材だけでなく日本人社員の認識統一や教育期間短縮にもつながり、組織全体の生産性向上に寄与します。
さらに、「やさしい日本語」の活用も重要な取り組みの一つです。難しい専門用語や曖昧な表現を減らし、短く分かりやすい言葉で伝えることは、外国人材だけでなく全ての社員にとって理解しやすい職場環境をつくります。安全管理や品質管理の観点からも、有効な取り組みと言えるでしょう。
経営者が自らに問いかけたいのは、「この職場のルールは新しく入った人にも理解できるだろうか」「異なる価値観を受け入れる姿勢を組織として示せているだろうか」ということです。もちろん、こうした見直しには一定の時間とコストがかかり、特に人員に余裕のない中小企業にとっては負担に感じられる場面もあるでしょう。しかし、外国人材の定着は個人の努力だけで実現するものではなく、組織文化や業務運営のあり方を見直し、多様な人材が能力を発揮できる環境を整えることが、これからの企業に求められる受容力の一つになります。

4.変革の先にある中小企業の未来

育成就労制度への移行は、外国人材を一時的な労働力としてではなく、育成し、定着を図る人材として位置づける方向へ、政策の重点が移りつつあることを示しています。今後問われるのは、外国人材本人の能力だけではありません。それを受け入れる「企業の受容力」も、より重要になっていくでしょう。
異文化理解には、相手の国の文化や言語を学ぶことに加え、自らが疑いもしなかった文化的前提に気づく視点も含まれます。自社の「当たり前」を問い直す作業は、長年そのやり方で成功してきた経営者にとって、必ずしも快適なものではないかもしれません。しかし、それは次の時代に対応できる組織をつくるための重要な一歩になります。
「外からの視点」を取り入れ、自社の業務や組織文化をより普遍的な仕組みへと更新できた企業は、変化の激しい時代においても競争力を保ちやすくなります。
外国人材が活躍できる環境を整えることは、日本の若者や女性、シニアにとっての働きやすさにもつながります。外国人材活用は、人手不足対策であると同時に、企業のあり方そのものを見直す機会でもあります。変化を受け入れ、自社の「当たり前」を問い直し続ける企業ほど、次の時代においても選ばれ続ける可能性が高まるのではないでしょうか。

出所:総務省「令和7年国勢調査 人口速報集計結果」、株式会社帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」、厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況【概要版】(令和7年10月末時点)、出入国在留管理庁「在留外国人数」(令和7年末現在)

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