インボイス制度が経営に与える影響は?

中小企業診断士 三浦 寛貴

【インボイス制度とは?】

売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるものです。具体的には取引内容や消費税率、消費税額などの記載要件を満たした請求書等を発行・保存しておくという制度になります。この請求書等の様式が適格請求書(インボイス)になります。

なおこの制度においては買手が仕入税額控除の適用を受ける為にインボイスが必要になるという事が重要なポイントです。

【仕入税額控除の概要】

課税売上で受け取った消費税は全て納税するのではなく仕入にかかる消費税を控除して納めます。

販売時仕入時納税
売上 120万円原価 100万円
消費税12万円消費税10万円12万円-10万円=2万円

上記の10万円が仕入税額控除にあたります。計算方法には課税割合の考慮や原則と特例がある等、多少複雑ではありますが仕入税額控除の目的としては生産や流通の過程で複数取引のたびに重複して消費税が納税されることを解消する為にあります。

【なぜインボイス制度を導入するのか?】

取引における消費税額を正確に把握するため、という前提ではありますが2019年に改定された生活必需品のみ軽減税率の適用が導入され8%と10%と2通りの税率が運用された事による影響が大きいと言われます。この複雑な仕組みの中で消費税に関する不正やミスを防ぐ事、税額を正確に把握すること、税金の大原則である公平性を担保する制度と言えます。

【制度の具体的な内容】

それではインボイス制度が開始されると何が変わるか?というポイントをあげます。

  • インボイスがなければ仕入税額控除ができなくなります(上記事例だと納税額は2万→12万)
  • インボイスを発行するには事前に税務署に登録申請が必要
  • 登録申請が出来るのは課税事業者のみ
  • 書式には登録番号、適用税率、消費税額など6つの記載事項が定められています
  • 小売業、飲食業等のお客様が不特定多数の場合には簡易な書式も認められます
  • 適格請求書とありますが従来の領収書、納品書、レシート等、どの様な書類名でも記載事項の条件を満たせばインボイスに該当します

以上の様に制度自体は一見、指定通りに登録して書式を守って発行すれば問題がなさそうにも見えますが、その後の保管義務、例外的なインボイス不要ケースの判断等があり経理担当の業務は複雑化し、経理システムの更新等も最低限必要になってくる事が想定されます。これら事務負担の増加についてはインボイスを発行する側はもちろんですが、受け取る側にとっても相手先が登録事業者であるか否かの確認などこれまでとは異なった作業が増えることになります。

更に重要なポイントとしては「インボイス発行事業者になれるのは課税事業者のみ」という事で、消費税の免税事業者はインボイスを発行出来ない点は非常に重要です。

【免税事業者への影響】

上記に記載しましたが今回のインボイス制度で最も大きく影響を受けると考えられるのは、課税売上高1,000万円以下の小規模事業者、個人事業者、フリーランス等の免税事業者となります。

インボイス制度導入後も免税事業者を継続することは可能ですが下記の様な流れが想定されます。

免税事業者はインボイスを発行出来ない

インボイスがないと取引先は仕入税額控除が出来なくなる(実質的負担増)

取引先は負担増を避けるため免税事業者との取引を控えるようになる、価格を下げる交渉をする

免税事業者にとっては制度運用後、厳しい状況に対面することになりそうです。

なお、こうした影響が有ることからインボイスがなくても制度導入後から3年間は80%まで、その後の3年間は50%まで仕入税額控除が可能といった段階的な経過措置が設けられています。しかし経過措置後の2029年10月からはインボイスがなければ完全に仕入税額控除が出来なくなる予定です。

【免税事業でも影響が少ないケース】

公正取引委員会のホームページには免税事業者で影響が少ないケースとして下記の記載があります。

参考:事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&Ahttps://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/invoice_qanda.html

①売上先が消費者又は免税事業者である場合
消費者や免税事業者は仕入税額控除を行わないため、インボイスの保存を必要としないからです。
②売上先の事業者が簡易課税制度を適用している場合
簡易課税制度を選択している事業者は、インボイスを保存しなくても仕入税額控除を行うことができるからです。

なおこの文面は財務省、公正取引委員会、経済産業省、中小企業庁、国土交通省の連名で書かれており、趣旨を想像すると「インボイス制度が全ての免税事業者に影響を与えるわけではない」と極力批判をかわしたいという意図はあるのかもしれません。

ただし①の領収書を求めない消費者だけのケースは少なく、例えば飲食店であっても会社の経費として払う事は多く一括に影響がないとも言えません。②についても取引先が数社に限られていてかつ簡易課税制度を選択しているといった限られたケースになります。

したがって原則的には免税事業者にとって多かれ少なかれインボイス制度による影響は免れないと考えたほうが良さそうです。

【独占禁止法で守られるか】

公正取引委員会のホームページには独占禁止法に触れる場合、いわゆる買手の「優越的地位の濫用」についての事例が載っています。ただし要点としてインボイス制度を理由に価格交渉を行ってもそれだけでは独占禁止法に当たらないと明記されています。

取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される分について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。

仕入税額控除が出来ない場合の負担発生は買手事業者にとって非常に大きなものです。したがって必然的に取引中止、価格下げ交渉を行ってくる事は仕方ないと見られる内容です。

【終わりに】

色々な問題もありその導入には反対の多いインボイス制度でしたので「制度凍結、もしくは延期」という思惑もありましたが、導入も来年に控えすでに登録申請がはじまった現在では予定通りに制度が導入されると考えて準備をするべき段階になりました。

特に免税事業者にとっては制度の対象外で準備は不要と考えがちですが、制度が導入された後の環境の変化は課税事業者以上に大きなインパクトがあります。課税事業者になるか?という選択肢も含めて対応を考えなくてはなりません。もちろん課税事業者にとっても取引先が免税事業者であればインボイス制度による負担発生の可能性がありますので非常に重要です。

制度導入後に知らなかった、という事が無い様にその対応を検討しておくことをお勧めします。

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