松下幸之助の提唱したダム式経営から資金管理を考える

中小企業診断士 平田 仁志

コロナ禍を受けて様々な支援策が実施されました。ゼロゼロ融資と言われる当面返済を猶予するだけでなく、利息も全額補助金が出て負担しなくてよい、という支援融資制度もありました。その結果売上が減少し赤字にもかかわらず、手元資金は潤沢である、という会社も多いと思います。しかし、間もなく返済が始まりますが、コロナ禍はまだ収まったとも言えず、客の戻りも遅いので、返済が始まったらどうなるんだろうと不安を感じている会社も多いのではないでしょうか。

そこで松下幸之助が唱えた「ダム式経営」を思い出してみましょう。

松下幸之助は40年不況がますます深刻化していく中で、昭和40年2月に講演をし、企業がその社会的責任を果たし続けるために、できる時には可能な限り余力をダムにため込み、困難な時にはたまったダムの水を少しずつ放水するようにして事業が継続できるようにするダム式経営を提唱しました。講演会場からは「どうしたらダム式経営ができるようになるんですか。」という質問が出ましたが、松下幸之助は「それは私にも分かりません。分かりませんが、そうなるように念じなければいけないのです。」と答えたそうです。会場のほとんどの人が、言うだけだったら誰でもできると笑いました。しかし、その中で、「経営とは祈り念ずることから始まるんだ」と衝撃を受け、その後事業を拡大させていった人がいました。それは京セラ創業者の稲盛和夫です。

このことから、私たちは次の二つのことを学ぶことができます。

一つは、まずどんな状態が望ましいか、念じることから始めるということ。二つ目は、同じ言葉を聞いても、真剣に問いに向き合って、答えを求めている人しか、役立てられないということです。

稲盛さんは、ご存じのように会社を動かすためには会計のことが分からないといけないと考え、徹底的に勉強し「稲盛和夫の実学」という本を出しています。京セラのアメーバ経営は有名ですね。

ダム式経営を目指して念ずることだと言われてもどうしたらよいのでしょう。強く念ずれば何を考えなければならないかわかるようになる、寝ても覚めても考えているから、答えが分かるようになる、ということだと理解していますが、当面の問題について、私なりに考えてみました。

今はお金があるが、間もなく返済が始まり利息も払わなければならなくなる。どのように考えたらいいのだろう、ということについての考え方です。

中には手元資金が潤沢だから何もしなくてもよいと考えている経営者もいるかもしれません。儲かると税金をたくさん払わなければならないから、できるだけ会社の利益は少なくしよう、などとダム式経営とは真逆の考え方の経営者がいることも知っています。

まず、現在の御社のお金の状況はどうか、確認してみてください。手元資金の水準はどうですか。3か月後にはどうなっていると予想しますか。6カ月後はどうでしょう。そもそも予想できますか。

業種によっても適正な手元資金の水準は異なりますが、何よりもまず予想できることが大事です。お金が足りなくなりそうだということが早めに分かれば、早めに手を打つことができます。予想ができるためには、まず予想するための資料を作らなければなりません。資金繰り予想表と言いますが、最近お会いする会社で資金繰り予想表の話をしても、取引金融機関から求められたことが無いので作ったことが無いという会社が結構あります。まず資金繰り予想表を作ってみましょう。資金繰り予想表を作ることによって、3か月後6か月後の手元資金残高の予想ができるようになります。

2年後3年後の予想はどうでしょうか。3か月先とは違う方法が必要になりますが、長くなるのでここでは説明を割愛します。

次に、手元資金は理想としてはどの位あればよいかについて考えるのですが、その前提として考えるべきことがあります。それは払わなければならないものはちゃんと払っているか、ということです。払わなければならないものをちゃんと払っているから会社が継続できているんだ、とおっしゃるかもしれません。ここで立ち止まってみて、従業員のお給料は他社の水準に比べてどうですか。従業員がこんなにいい会社はないからと言って知り合いをどんどん自分の会社に誘うというような会社もありますが、現実は人材が採用できないと悩んでいる会社の方が多いのではないでしょうか。将来の売上につながる活動のためにもちゃんとお金を使っていますか。設備はどうでしょうか。更新しなければならない設備は早めに更新できていますか。京セラの稲盛さんは税法上の耐用年数で考えていたら世の中の進歩に追いつけなくなると言って減価償却率を高めにしたそうですが、決算書を拝見すると何年も減価償却をしたことが無いという会社もあります。減価償却をしないで黒字が出ていても、設備更新のためのお金がたまっていないということになります。

そういうことを考えた上で、どのくらいの手元資金があればよいのか目標を設定しましょう。

目標の設定ができたら、3か月後、6か月後の手元資金を改めて予想してみましょう。目標水準と比べてどうですか。目標を超えていたらいいのですが、ほとんどの会社が目標を達成できないという状態ではないでしょうか。返済が始まったら手元資金が無くなってしまう、という状態の会社もあるかもしれません。

手元資金が枯渇するような状態になると、会社の運営は難しくなります。ある会社は、業歴が長く成長企業として有名な会社でしたが、不振に陥り資金繰りがきつくなってきました。すると、そんな状態をなぜか知った長年の外注先から前金でないと受注できないと言われ、ますます苦しくなってしまいました。幸い改善策を講じ、着実に実行しましたので3年後には月商の3か月分強の手元資金が持てるようになりました。

手元資金が潤沢であれば、色々なことができるようになります。手元資金水準の目標を設定し、その目標の達成に経営者が責任を持って取り組む、ということが大事なのではないでしょうか。

目標達成に近づいているかどうか、いつも確認していなければ、達成に近づけません。そのための管理指標を明確にしましょう。その上で、毎月試算表を見て、目標達成に近づいているか確認し、どうしたら目標が達成できるか考えましょう。

松下幸之助が念じると言ったのは、念じ続けるということです。念じ続けることにより、方法をいろいろ考え続けることです。

余裕のある経営を目指して、経営者の皆さまが努力を続け、成果が出せますよう祈っています。

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